第415号:確実に生き残れる者は、変化に対応した者

2002年06月28日号の創刊から18年間書き続けてきたこのメールマガジンも今回が最終号となりました。ご購読戴きました大学就職関係の方々には厚くお礼を申し上げます。振り返って見ると、学生の就活も企業の採用活動も、変わったところもあれば変わらなかったことも多いです。
果たして大学も企業も業界も『進化』をしているのでしょうか?最終回のコラムにあたり、振り返って考えてみたいと思います。やや長くなりますが、お付き合い戴ければ幸いです。

以下は17年前のこのメールマガジンで私が書いたコラムの抜粋です。

 ▼「早期化、長期化、集中化、多様化、通年化」(2003年3月号:第18号抜粋)

ここ数年、就職シーズンは「早期化」と「長期化」の傾向にあることは周知のことですが、昨年はそれに加えて選考時期の「集中化」がおきました。1~2月の広報活動の後、3月に多くの企業が選考活動を始めたため、応募者においては面接スケジュールが重複し、多くのエントリーを行っていた学生は日程調整に非常に苦労しました。その結果、広報活動時には学生からのエントリーを十分に集められたと安心していたところ、いざ蓋を開けてみると欠席が多く、面接応募者を集められなかった企業が続出しました。昨年、選考活動の時期にも多くの学生を惹きつけられた企業は、広報活動からこまめにいろいろなメールを送ったり、インターネット上でのコミュニケーション活動(バーチャルOB訪問等)を行ったり、応募者との距離が離れないように配慮していたそうです。

今年は、そういった企業の更に先を行こうと1月から選考を始めた企業もあれば、逆に3月~4月の選考集中期に第一希望の企業を不合格になった学生を狙って、今から5月~6月の募集があることを告知し始めた大手企業も出てきています。また採用選考方法も、通常の面接をやめてインターンシップ応募だけに切り替える企業が出てきており、今年の企業の採用活動は選考時期と選考方法に「多様化」の傾向が出てきているようです。

こういった企業が増えてくると、これから採用市場の「通年化」が起きてくることが予想されます。「通年採用」という意味は、一企業において新卒採用と中途採用の区別が無くなり募集人員が出た時だけ求人を出す、良い人材を見つけた時だけ採用を検討する、というやり方を指してきましたが、今後は年間を通して採用活動を行っている企業が就職市場に居る、という意味に考えた方が良いのかもしれません。学生にとっては選択機会が増えることになりますが、ストレスに耐えて視野を広げるという能力が求められてくるでしょう。マラソン・ランナーのように頑張って欲しいものです。

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如何でしょう?就活・採用活動時期は異なりますが、流れは今と変わらない様に見えます。一方で早期化から通年化の流れは17年かけて変わってきたといえるかもしれません。このように変化には、定期的に繰り返す景気循環的なものと、構造そのものが変動して元に戻らないものとがあります。

先日、有名企業の役員で採用選考の最終決定者とお話をする機会がありましたが、開口一番「うちの人事が採用面接をドンドン入れてくるので多忙でしょうがない。なんで今年はこんなに早くやるんだ!年末年始の多忙な時期にお客さんと会えないし、学生にも大学にも迷惑だろう。」と憤慨されていました。この企業の人事部長によると「他社もやっていますので、うちもやらないと出遅れるのです。」と役員の言葉に耳を傾けないそうです。これは今の企業の採用活動が横並びで変化しない背景ですね。

大学側から見れば誠に迷惑な話ですが、新卒一括採用とその根底にある日本型メンバーシップ雇用が減少していくのを止めることはできないでしょう。政府は経団連の採用ルールの廃止に変わるものを考えると言いましたが、今の政府が「働き方改革」の旗の下に新卒一括採用を廃止しようとしているのですから何もできないのは当然です。

翻って大学側から大学らしく、需要供給という経済学的視点で見れば対処策は考えられます。需要(消費者の要望⇒企業の求める人材)は多種多様で統一することは不可能ですが、供給(提供する製品⇒大学が輩出する人材)の仕様は物理的に限られているので制御可能です。つまり、もし今後何らかの就活・採用ルールが設定されるとすれば、それは供給する大学側が鍵を握っているということです。通年採用がグローバルに求められているのだとすれば、大学もグローバルな仕様である学生の学習環境・時間を守り、しかるべき時期(最終的には卒業後)にするというグローバル型通年採用の対応を検討すべきでしょう(現実にはインターンシップと同じく「日本型」通年採用になりそうですが)。

もっとも、大学側も企業と同じに「周りがやるからやる、やらないからやらない」という状況であるなら、20年後も同じでしょう。いや、10年もすれば少子化という構造変動は確実に進み続け、大学は変化を余儀なくされていることでしょう。確実に生き残れる者は、変化に対応した者です。

大学は、過去の知見を大事にすると同時に、未来を創造するクリエイティブな場だと思います。皆様の未来も仕事も、他者に委ねるのではなく、自ら切り拓くことができると祈念して、最後のコラムの筆を置きたいと思います。ここまでご購読戴き誠に有り難うございました。

追伸:これまでのコラムのバックナンバーは、以下の私の個人的サイトに保管しています。キーワード検索もできますので、何かネタが欲しいと思われた時のヒントにご利用戴ければ幸いです。学生が読んでも役立つと思います。

▼参考URL:【The 採用最前線!】バックナンバー

http://www.recruiter.jp/wp/

 追伸の追伸:このコラムはここで個人的に書き続けます。
毎週、第二金曜日にアップ予定です。

第414号:大学が社会人基礎力を育成できない理由

経産省の定めた「社会人基礎力」が世に出て15年ほど経ち、企業の採用選考や大学のキャリア教育の指針として活用されています。しかしながら、文科省側からみると産業界からの「外圧」にとられ、大学教員の声を聴いても批判的な意見が多い様に感じます。それは必ずしも否定的ではありませんが、大学にとって育成が苦手または避けたい部分があるからだと考えられます。

社会人基礎力については、釈迦に説法かと思いますが、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力で構成されています。その中で、大学は「チームで働く力」やその責任感を教えることがとても苦手な組織です。「社会人基礎力」を開発した諏訪康雄法政大学名誉教授もおっしゃっていましたが、大学という教育機関は、高学年になるほど卒論という個人作業に集中する教育・学習形態になっていますから。

今まさに卒論の提出・審査時期で、最終学年の殆どの学生は秋からずっと眠れない夜を過ごしてきたことでしょう。多くの大学生にとって、卒論のような論理的な長文の文章を書いたことはなく、生まれて初めての孤独な戦いを経験してきたはずです。多くの伝統的教員は、「卒論の効」として難題を乗り越えた自己効力感にもつながり、社会でも通用する力だと主張されます。その真否はともかく、こうした教育・学習形態では「チームで働く力」は伸ばせません。つまり、ここが大学教育の弱点です。

ここを補完するために、熱心な指導をする教員は、ゼミの3年次に5~6人のグループで共同研究をさせ、チームで論文・ポスター発表・プレゼンテーション等を行わせています。しかし、この指導方法は非常に手間暇のかかるものであり、なかなか取り組まない教員が多いです(それ以前にゼミや卒論もない学部もありますが)。結果としてそうした演習にあたる部分を、外部の教育業者にPBLアクティブラーニングアウトソーシングを依頼するという形態が増えて来ています。

大学内のリソースだけで対応できないものは、外部の知恵を取り込むのは現実的だと思いますが、大学教員が面倒に感じてサジを投げ、その始末をキャリアセンターや就職課が「キャリア教育」と称して安価な非常勤講師を調達して補完しているのは困ったものです。アウトソーシングする場合でも、正課授業との関係性を明確にして行わなければ就職セミナーや自己啓発と同じです。入試広報では素晴らしく見えるけれど実態はともなっていない、というのは企業採用広報も似ているかもしれませんが。

少子化が本格的に進み、大学環境も企業経営も着実に厳しくなるなか、相互が連携して補完しあい、無駄な経費を削減して本当に大事なところに投資する。大学にとって苦手なチームワーク力チームビルディング力を発揮できれば、決して夢物語ではないでしょう。そうした初夢の様な理想を、形にしていくような新年の始まりになればと思います。

第413号:企業の採用活動のニュースランキング

今年も残り1週間を切りました。私見ながら、今年の企業採用活動のニュースランキングをあげると以下のようになりそうです。これらの背景にあるのは社会の大きな構造変動で、数年後に振り返っても今年が大きな転換点だったと位置付けられそうです。令和という新しい時代が始まったように。

1.企業の採用ルール廃止
2.インターンシップでの早期選抜採用
3.内定辞退者予測サービス事件
4.新卒人材紹介業の発展
5.通年型採用の試み

なんといってもトップニュースは、経団連の採用ルール廃止です。これが本格的に動き出し、2番目のインターンシップという名の早期選抜採用を促しました。その次に来るのは、内定辞退者予測サービス事件です。これは一部の企業の不祥事ですが、情報化社会の根幹に関わり業界全体に大きな影響を及ぼしました。新卒人材紹介業の発展通年型採用(1年生から応募できる等)は、存在そのものは目立ちませんが、着実に拡大してきています。

これらの諸ニュースの起因になったのは、やはりトップの採用ルール廃止だと思います。これによって企業と学生の動きが大きく代わり始め、過去にない様々な現象を引き起こしたのでしょう。採用ルーツの設定や廃止は、過去に何度もあったと語る方もいて、歴史は繰り返すだけだと言いますが、私はもう採用ルールは復活しないと思います。その理由は、採用ルール廃止の更に根底にある要因が根本的に異なるからです。

これまでの過去の採用活動の変化は景気動向の循環的な変化でした。しかし今回の少子高齢化という「人口構造変化」とインターネットの出現による「情報構造変化」は、日本社会の構造そのものが変わってきた過去に例のないことです。これらの社会インフラ変化は不可逆的な構造変動です。(もっとも、その余震は10年くらい前から現れていました。それらが大地震になってきたのが現在だということです。)

経団連の対応も、かつては「採用活動のため」の方針であり、大学や学生に配慮したものでしたが、今回のものは「終身雇用廃止のため」(新卒採用は、終身雇用制の一部分です)の戦略であり、企業に配慮したものです。企業にとってのライバルも、日本国企業から通年採用が普通の外資系企業となりました。

企業採用担当者は先の見えない状況で闇雲に早期採用活動に走っているようです。しかし、こうした時期こそ目先の情報だけではなく冷静に状況を分析することが重要です。企業採用担当者同士は競合するので意外と周りが見えづらいのですが、皆様には学会や研究会の知見がありますね。先日発行された以下の文献は、現状を各分野の視点からよくまとめていると思います。ご覧戴ければ今後の活動の参考になると思います。さて末文になりますが、どうぞ皆様も良いお年をお迎え下さい。

参考URL:
「IDE現代の高等教育 NO.616「就職秩序の模索」」2019年12月号(IDE大学協会)
https://ide-web.net/newpublication/blog.cgi?category=001

第412号:内定辞退者予測サービス事件-3

リクルートキャリア社の定辞退者予測サービス事件について、去る12月4日に内閣府外局の個人情報保護委員会が、リクルート社及びリクルートキャリア社と利用者であるクライアント企業35社に対して行政指導を行ったとの広報がありました。更に11日には、厚生労働省からは職業安定法による行政指導も行われました。この発表で実名が明らかになった企業には猛省を促したいところです。こんな裏技を使わなくても、内定者をフォローする方法はいくらでもあったことでしょう。

採用選考中で内定辞退可能性の高い応募者をスクリーニング(排除)する手法と、内定後に辞退防止のフォロー(確保)をする手法とは似て非なるものがあります。余程の有名企業でない限り前者に手を出すところは少ないと思いますが、某有名企業の採用担当者は「当社では役員面接に第一志望でない学生を招いたら大変なことになる」とトップの顔色に恐々としていました。そうした企業がこのサービスに手を出したのかもしれませんが、当該企業の殆どが「採用選考には使っていません」と口を揃えて述べています(どこまで信用できるか調べようもありませんが)。

一方で、内定した学生をフォローするのは採用担当者にとって重要な仕事です。米国ではリテンション(確保)という名で以前から行われていて、日本でも昔から内定者懇親会等、様々な施策が行われていましたが、本格的な業務として取り組まれてきたのはこの10年位かと思います。

私が企業時代に行っていたのは、内定者向け社会人研修です。社会人になったら必要な労働法や経理の知識、会社独特の文化を教える経営セミナーや、社内TOEIC試験への無償参加等を行っておりました。狙っていたのは学習効果より、社員と内定者との接触機会を増やして入社前の不安を消し、企業の実力を教えて入社意欲を高めることでした。そうした濃いコミュニケーションを通じて、内定者の辞退可能性を見極めていたのです。内定者向け企画は自由参加にしておりましたが、わかりやすいもので、内定辞退確率と企画参加率はほぼ比例しておりました。

人事仲間の他企業では、内定者に入社まで一定の奨学金(毎月5万円程度)を支給していました。その企画を始めたキッカケは、勉強不足で卒業できず内定取消せざるを得なかった学生がいたことです。内定後にアルバイトに没頭しすぎて大学の勉強を甘くみていたそうで、奨学金支給の条件にはアルバイトを止めて勉強に集中すること、とされておりました。無事に入社できたら奨学金は返済不要にしていましたが、そのため内定辞退する学生は確実にこの奨学金の受け取りを辞退していたそうです。

少子化の現在、この内定者奨学金を導入する企業が増えて来ています。その狙いや内容は、多くの大学生が抱えている大学授業料奨学金の返済を支援したり、福利厚生の一環として行ったり様々です。変な裏技企画に手を出すよりも、こうした施策に知恵を出して取り組んでほしいものですね。学生にも感謝されますし、何より採用担当者の精神衛生上にも有用です。

参考URL:

「株式会社リクルートキャリアに対する勧告等について」2019/12/4(個人情報保護委員会)
https://www.ppc.go.jp/news/press/2019/20191204/

「リクナビ「内定辞退率」問題、りそなHD、京セラなど利用企業にも行政指導などの方針」

2019/12/4(山本一郎氏:Yahooニュース)
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20191204-00153610/

「内定期間中もiPad貸出」(株式会社武蔵野 福利厚生)
https://recruit.musashino.co.jp/working/welfare/

第411号:早期採用選考は、採用担当者の訓練

早くも秋学期も半分以上終え、学生の勉強の秋も集大成の時期に・・・、と言いたいところですが、今年度は異変が起きています。企業主体のインターンシップが、頻繁に開催され授業を欠席する3年生が急増しています。しかも、インターンシップという名ばかりの早期母集団形成の採用活動になっていますから。

経団連ルールがなくなった初年度ということで、想像はしておりましたが、これだけ授業で可視化されると悩ましくなります。私は複数の大学で非常勤講師や就職ガイダンス、就職相談員(キャリアカウンセラー)をやっていますが、高偏差値の有名大学ほどインターンシップへの勧誘が多くなっています。上位校の学生は、山の様な案内メールの取捨選択とスケジュール調整に追われていますが、中堅以下の学生は、何事もないように大学祭に夢中になっていたりします。

学生の秋学期履修登録授業出席にも大きな変化が出てきました。先輩からいろいろアドバイスを貰った学生等は、3年生の秋からインターンシップが増えることを聞いているので、私の授業の様に出席がうるさく授業外課題もある科目は避け、いわゆる「楽単」を中心しています。そうしたことを気にせず私の授業を履修した学生は、出席に苦労して(私は就活やインターンシップによる欠席は認めず、休んだ場合は補講やレポートを課します)、昨年度は殆どいなかったリタイア授業放棄)者が17%、更に出席日数が厳しそうな学生も17%出ています。おそらく30%は単位未修になるでしょう。

どんなに「勉強は学生の本分だ」、という懐かしい説教をしても効果はないでしょうし、企業の囲い込みもますます進むと思われます。最近の「名ばかりインターンシップ」では、終了後に学生に個別のメールが届き「貴方のインターンシップでの言動は有望だったので、内密に早期優遇の選考を案内します」と呼び込まれます。現実的にはインターンシップに参加しなくても、その企業への門が閉ざされたわけではありませんが、学生としては千載一遇の機会として飛びつきたいでしょう。

一方、企業側からすると、有名校の学生を早期選考する作業は、学歴フィルターも似ていますが、採用選考の業務を考える上ではどうしてもやりたくなります。というのは、今のネット時代の新卒採用方式では、どうしても採用選考開始時期が集中し、一気に応募者が来るので対応がこんなになるからです。インターネットでのコンサートチケット販売が開始日に応募が集中し、サーバーがパンクすることがあるのと同じです。

つまり企業の早期優遇選考は、応募者数の平準化という意味があるのです。そして、それは来たるべき(?)通年採用へ向かうプロセスといえるかもしれません。通年採用になると、応募者のキャリアに応じて企業の対応にも差が出てきます。即戦力の学生(日本では殆ど不可能だと思いますが)には、応募段階で早期に選考プロセスが汲まれ、更に面接の評価に応じて賃金や配属等の高処遇が決定されます。

世間では「新卒採用は時代遅れで通年採用に向かうべきだ」という言説が広まっていますが、そういう方々に中途採用と同じ通年採用で就職・転職したことがあるのか、本当の通年採用をやったことがあるのか?と問いたくなることがあります。その目線で見ると、今の早期囲い込み新卒採用しかやったことのない企業採用担当者(日本は中途採用の経験も転職もしたことのないピュアな採用担当者が意外と多い)の訓練になっているのではないでしょうか。全員が初心者ですから、学生も大学も企業も当分、混沌とした状態は続きそうです。

第410号:英語民間検定試験の導入延期と企業の語学力評価

大学入試改革の一環として進められてきた英語民間検定試験の導入が延期となりました。導入については各大学が判断に迷うなか、昨年7月には東大が成績提出を求めないと方針決定し、混迷を深めてきたことは周知のことです。ことの推移はさておき、英語民間検定試験は企業の採用選考基準として既に参考にされてきていますが、その評価については企業毎、職種毎に温度差があります。

女子大学での教え子にはCA志望者が多く、例年数多くの学生がES添削や模擬面接の相談にやってきます。皆様も実感されてきていると思いますが、ここ数年CAの採用選考基準が上がってきています。例年ならば内定水準と思われた学生が不合格になることが多くなり、その原因は英語の要求水準が上がっていることにありそうです。

もっとも、これは学生の言い分を聞いてのことなので、本当に英語力で落ちたかどうかはわかりません。企業が学生に採用選考不合格を伝えるには、筆記試験等の客観的基準の方が企業のイメージもわるくなりませんし、学生本人もその方が納得しやすいからです。

企業採用担当者が学生に欠けている能力を調べた調査では、2010年の経産省の大規模調査がよく引用されます。その要素の上位と下位を以下にあげました。(企業人事採用担当者2958人の回答)

▼企業が学生に対し、不足していると回答した能力要素上位

1位:主体性(20.4%)、2位:コミュニケーション力(19.0%)、3位:粘り強さ(15.3%)

▼企業が学生に対し、不足していると回答した能力要素下位

1位:簿記(0.1%)、2位:PCスキル(0.2%)、3位:TOEIC等の語学力(0.4%)

上記の通り、この調査では学生の語学力が不足している回答した採用担当者は殆どおりません。企業採用担当者の多くは語学力が大事だと言いますが、何故このような回答になるのでしょうか?それには、以下の理由があげられます。これらは他の下位要素である簿記PCスキルについても言えます。

1.企業毎に部署毎に使う頻度程度が異なる要素

2.企業に研修制度等があり、入社後または外部でも学べる要素

3.過去資格結果)よりも現在能力経緯)を重視する

つまり企業採用担当者は、語学力英語)は、配属部署・職種・業務等で、使用頻度が大きく異なる能力要素であり、もしそれが必要になったら入社後に学べば良いと考えているからです。実際、簿記PCスキル英語社内研修科目を持っていない大企業は皆無でしょうし、外部の英語民間検定試験で結果を出したら報奨金を出す企業もあります。

そして採用担当者がなにより重視するのは、英語の資格そのものではなく、英語学習過程において、どんな資質計画性忍耐力向上心等)を身につけたかです。それが採用担当者のよく言う「総合的な判断」「人物重視採用」の正体です。即戦力として英語能力を求める企業は、上記のCAの例や外資系企業の様に当社から募集要項に掲載してきます。

今回の事例では、英語能力評価の公平性が問題となりましたが、更に国語での記述式試験で同様な問題が起きないことを祈るばかりです。企業側としては、ES評価方法の他山の石として参考にさせて戴くかもしれませんが。

第409号:「サクラ」の学生を募った中小企業の説明会

季節外れのサクラが咲いたようですね。東京都の公費を使った中小企業の就職説明会で、主催者側から報酬を受け取った大学生が「サクラ」として参加したという報道がありました。このニュースを聞いたとき、業者への憤りと同時に、まあそれもあるだろうなあという厭世観も感じました。というのは、こうした事例は過去にもありましたから。

報道(朝日新聞デジタル、下記URL参照)によると、大学生が約3時間の就職説明会に参加することで5000円の報酬を得ることができ、友人を誘うと+αの報酬も手にすることができるとのことです。これに応じて参加した学生の詳細は不明ですが、以下のようなタイプが考えられます。

1.就活する気はなく、単に報酬に惹かれてきた学生

2.完全に就活を終えた学生(他企業内定者)

3.就活時期ではない学生(低学年者)

4.就活をしていない進学希望者

5.就活はしていてもその業界に全く関心のない学生

上記は「サクラ」度合い順といいますか、悪質な順番に並べました。1~3は本来、主催者が募集段階で排除しなければならない層です。4~5は、場合によってはまともな応募者になりうる可能性もあるので、まあ許せる気もします。進学や他業界志望者を、説得して自社志望者にするのは採用担当者の大事な仕事ですから。

今回の事件は、クライアント(参加企業)が費用を出したのではなく、公費(東京都)が負担したようなので、クライアントからのチェックも甘かったかもしれません。企業採用担当者が自社費用で会社説明会に参加する際は、必ず主催者の集客力をチェックしますから。「ネットで募集します」というような営業トークだけでは信じられないので、その業者がターゲットとなる学生層明確なパイプをもっているかを確認するはずです(中小企業の採用担当者だとそこまで余裕はないかもしれませんが)。

私自身、以前「サクラ」学生から直接話しを聴いたことがあります。その学生はいわゆる「逆求人」のイベントで、主催企業から「良い学生が集まっていないので参加して欲しい」と頼まれ、既に内定を持っていて就活を終えているにもかかわらず求職者として参加していました。そのイベントも今回の事件と同じく、クライアントは中小企業が中心で、「中小ベンチャー企業志望の優秀な学生との出会いの場です!」という触れ込みでした。ちなみにこのイベントには「サクラ」ではない学生の方が多かったですが、その学生達は本当に優秀だったようで、結果的に皆、大企業に内定してしまいました。

内定辞退者予測サービス事件に続いて、またしても業界のコンプライアンスが問われる事件ですが、業者にとっても学生を集客するのが本当に困難な時代になったのでしょう。少子化がますます進むことで就職市場の構造は変わり、天災のように「これまでに経験の無い様な」状況になります。採用担当者も業者も必死に知恵を縛らなければならない時代ですが、通年採用やジョブ型雇用が進む中、「騙される奴が悪い」というグローバル指向には進んで欲しくありません。

参考URL:「「サクラ」の学生募り中小企業の説明会」2019/10/18(朝日新聞デジタル)

https://www.asahi.com/articles/ASMBL5CTVMBLUTIL040.html?iref=pc_ss_date

第:408号:3年生インターンシップの超早期選抜内定

厳しい残暑から一転して秋らしい気候となりましたが、大学3年生(2021年卒)は早くも企業インターンシップに呼び出され、多忙なようです。私の秋学期授業でも、就活(殆どがインターンシップという名目)で欠席します、という学生が目立ってきました。更にその中のデキル学生は、超早期選抜に呼び出され、早くも結果を貰っております。経団連ルールがなくなるなか、この動きはこれから益々加速することでしょう。

この時期に、超早期選抜内定を出す企業は数の上では限られていると思います。各業界トップ企業でなければ、内定を出しても更に上位の企業に逃げられる可能性が高いですから。超早期選抜は外資系企業では珍しくはありませんが、日本企業でこれができるのは相当に自信のあるブランド企業です。特にこれまで経団連ルールで縛られていて、有望そうな人材を外資系に奪われていた日本企業にとっては初めて(?)のチャレンジでしょう。

実際、私が相談を受けた学生は、某大企業から1~2名の採用枠の候補者として選考されていました。母手段形成も、インターンシップ参加者の中でも選りすぐられた数名の候補者で、誰が内定してもおかしくない顔ぶれだったそうです(学生同士はインターンシップで互いを知っているので気まずかったことでしょう)。

超早期選抜では手つかずの優秀な学生を集められるので、最終役員面接で不合格を出すのは採用担当者にとって本当に辛いだろうなと思います。通常期の面接であれば採用数も多いので、辞退率も考えながら全員に内定を出すことが可能ですし、正直、学生の資質のバラツキも多少あります。この時期に自社を第一志望に考えてやってきた優秀な応募者に敗戦宣告をするのは断腸の思いでしょう。なので、採用担当者は「この選考はここで終わりではなく、結果を出すのは先になります。」等と伝えて、来年の通常採用時期の最初の役員面接にもう一度呼ぶこともあります。

こんなドラマがこれからドンドン増えてくることでしょう。この秋学期の学生の履修登録も済んできたと思いますが、今の3年生は、インターンシップに呼ばれることを前提にして、授業出席に甘い楽単を選択する傾向が高まってきました。本来であれば3年生の秋というのは、卒論を睨みながら専門科目を本格的に学ぶべき時期なので、大学教育にとってはかなりの危機です。それもこの時期に内定を貰えれば良いですが、殆どの学生は不首尾に終わるでしょう。結果、4年になっても授業単位の不安を残したままになるかもしれません。

経団連ルールがなくなることで、政府が新たな指針の音頭を取ると報道されていましたが、全く何もないままに、2020年度(2021年卒)学生の採用活動が始まっています。まあ多くの学生は、いま超選抜内定が進んでいることも気づいてないでしょう。知らぬが仏で良いと思います。昔から超縁故採用もありましたからね。全体から見れば超少数のことです。

こうした状況を嘆いてばかりではいけませんが、逆にこの程度のことで右往左往するならば、喧伝されている通年採用などに対応することはできません。新卒・中途区分なしで、何でもありの欧米型採用・就職活動では、こうしたことは当たり前です。新卒採用廃止論を唱え、通年採用を提唱する方々で、本当に通年採用を実行・体験した方は少ないでしょうが、超選抜内定現象は、その前奏に過ぎません。

第407号:内定辞退者予測サービス事件-2

リクルートキャリア社の内定辞退者予測サービス事件については、やはり国も職業安定法の行政指導という動きに出ることとなりました。徐々に事件の概要が見えてきましたが、現時点でも、一般の大学や学生にとっては不明なことも多いです。この事件は大学にとっても業界(人材だけではなく情報産業全般)にとっても重大な内容なので、今後も注視する必要があります。まだ総括できる段階ではありませんが、あまり語られていない点を、私見でお伝えしたいと思います。

1.アルゴリズムの問題

内定辞退者予測サービス「リクナビDMPフォロー」は、昨年度の学生の内定辞退動向から、本年度の学生の辞退率をAIが推測するというものですが、他社を多く回る学生が本当に自社の内定を辞退する確率の高い学生なのかは難しい判断です。確かに「就活フリーク」というべき「意識高い系内定ホルダー」は存在しますが、「御社だけしか見ていません」と真面目に言い切る学生も能力的に避けたいものです。

つまり、良い学生はそれなりに競合他社を回るものであり、採用担当者が知るべきなのは、その学生が「内定辞退した理由は何なのか?」です。更に、内定辞退をどのような形で行ったかも重要です。しかし、それはリクナビのデータにある行動パターンだけでは判断しにくいと思います。逆に、もしそこまでAIが見ているならば、相当に怖いシステムです。なので、法律問題はさておき「リクナビDMPフォロー」の的中率については興味深いです。

2.採用担当者の努力不足

学生の企業の志望順位は就活中にどんどん変化します。業界トップの企業ならともかく、多くの企業は内定辞退に悩みながら、いかに他社希望の学生を第1希望にするか、という努力をするものです。それを4~500万円という対価を支払ってでも、役員面接に第1希望の学生だけを集めたい企業が、このシステムを利用したのでしょう。

このサービスを利用した38社中、企業名が判明しているのは約20社です。取材に回答したのか自ら公開したのかは不明ですが、それらの企業は口を揃えて採用選考には使っていないと言っています。しかし、その証明は不可能でしょう。リクルートキャリア社からも「採用選考には使わないという条件」で導入されたと説明されていますが、そうした危険な商品を購入した時点で採用担当者のコンプライアンス感覚が疑われます。前回のコラムでも書きましたが、かつてのように自社内でデータを管理していた時代なら起きなかったことが、クラウド(就職情報企業サーバー)上に置くことや、自社の応募学生データ管理を外注管理するようになったために、鈍感になってしまったのかもしれません。

本件のネット情報は単なる転送や表面的な個人の論評が多いので、後で見直しても本質的な情報と思われるものを以下にあげました。この事件は風化させてはいけないものだと思いますので。

参考URL:

「「リクナビ内定辞退予測」問題でリクルートOBの僕が伝えたいこと」
2019/8/26(常見陽平氏:現代ビジネス)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66687

「リクナビによる「内定辞退率」データ提供の問題点はどこにあったか 法的観点から弁護士が解説」
2019/08/15(杉浦 健二弁護士:BUSINESS LAWYERS)
https://business.bengo4.com/articles/613

「リクナビ内定辞退率問題で厚労省激怒、「データ購入企業」にも鉄拳」
2019/9/20 (ダイヤモンドオンライン)
https://diamond.jp/articles/-/215312

「『リクナビDMPフォロー』に係る当社に対する勧告等について」
2019/8/26 (プレスリリース記事詳細:リクルートキャリア社)
https://www.recruitcareer.co.jp/news/pressrelease/2019/190826-01/

第406号:未来のマナビフェスで気付かされた宣教師精神

夏休みは学会や研究会のシーズンですね。私も教員の端くれとして「未来のマナビフェス」に参加してきました。以前は毎年京都大学で行われていた教育学のイベントでしたが、委員長の溝上慎一教授が京大から桐蔭学園の理事長に転身されてから東京で開催されるようになりました。小中学校、高校、大学、企業の現場教員・人事部員のシンポジウムや実践報告です。私もポスター発表を行ったのですが、なかなか話す機会のない高校の先生からの質問等は新鮮でした。それはまるで未開の地を訪ねていく宣教師のようです。

私の報告は「企業の採用選考基準と摺り合わせたキャリア教育の試み」というタイトルで、大学キャリア教育と企業の求める人材像(採用選考基準)のミスマッチのメカニズムと対策を報告しましたが、やはり中高校~大学~企業(社会)の世界は相当に異なり、壁は高いと感じさせられました。通常の学会ならば、専門用語や前提となる基本的な知見の説明は省略できるのですが、まるで違う分野から来られた方には言葉の使い方から気を遣います。来訪者の言葉・関心・知見・資質に合わせた言葉で説明しなければなりません。しかし、お互いが異なる領域だからこそ、こうした機会にそれぞれの世界を覗いて異なる知見から学び取る「越境学習」の意義があります。

かつて冒険家や宣教師が未開の土地を訪れて異なる文明に出会った時は、こんな感覚だったのでしょう。生死をかけている彼らとは次元が違いますが、いくつもの言語を学び、自力で生存する術を身につけ、好奇心と行動力をエネルギーに未知の世界へ飛び込む冒険の連続です。現代においても、最近流行の「兼業」や「パラレルキャリア」で異分野に挑戦する社会人も同じではないでしょうか。

こんな時に思い出す言葉は、日本の学会と米国の学会の報告の違いです。「聴く者に責任がある」「話す者に責任があるか」勿論、前者が日本で後者が米国です。日本の島国文化は価値観や言葉がわりと均一ですが、米国のような大陸文化では思想も言葉も宗教も多様です。なので、日本の学会では聴講者が理解できないと、それは聞き手の勉強不足と思われがちですが、米国では真逆です。

また思い出したのは、この感覚は企業人事時代に行っていた米国での留学生採用活動です。今は海外での留学生採用イベントが各国でたくさん企画されていますが、当時はまだ数が少なかったので、現地大学を調べて直接学内説明会に飛び込んでおりました。言葉(英語)での対応や、多様な質問に対応するのは大変でしたが、日本では出会えない有望な留学生とコンタクトできました。それは宣教師精神というべきベンチャースピリットだったのだと思います。採用担当者として、一回り成長できたと感じました。

さて、この夏休みに、学生達はどれだけ世界に飛び出しているでしょうか?面接をしていると、今は「海外留学」というのは珍しくありませんが、その中身は多種多様です。宣教師のように(?)好奇心と行動力で、大きく成長した学生を出会うことを楽しみにしています。ちなみに今回の「未来のマナビフェス」で知り合った地方大学から講演依頼を受けました。私も負けずに成長してこようと思います。

 参考URL:「未来のマナビフェス2019」
https://be-a-learner.com/manabifes/2019/

Just another Recruiting way