第414号:大学が社会人基礎力を育成できない理由

経産省の定めた「社会人基礎力」が世に出て15年ほど経ち、企業の採用選考や大学のキャリア教育の指針として活用されています。しかしながら、文科省側からみると産業界からの「外圧」にとられ、大学教員の声を聴いても批判的な意見が多い様に感じます。それは必ずしも否定的ではありませんが、大学にとって育成が苦手または避けたい部分があるからだと考えられます。

社会人基礎力については、釈迦に説法かと思いますが、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力で構成されています。その中で、大学は「チームで働く力」やその責任感を教えることがとても苦手な組織です。「社会人基礎力」を開発した諏訪康雄法政大学名誉教授もおっしゃっていましたが、大学という教育機関は、高学年になるほど卒論という個人作業に集中する教育・学習形態になっていますから。

今まさに卒論の提出・審査時期で、最終学年の殆どの学生は秋からずっと眠れない夜を過ごしてきたことでしょう。多くの大学生にとって、卒論のような論理的な長文の文章を書いたことはなく、生まれて初めての孤独な戦いを経験してきたはずです。多くの伝統的教員は、「卒論の効」として難題を乗り越えた自己効力感にもつながり、社会でも通用する力だと主張されます。その真否はともかく、こうした教育・学習形態では「チームで働く力」は伸ばせません。つまり、ここが大学教育の弱点です。

ここを補完するために、熱心な指導をする教員は、ゼミの3年次に5~6人のグループで共同研究をさせ、チームで論文・ポスター発表・プレゼンテーション等を行わせています。しかし、この指導方法は非常に手間暇のかかるものであり、なかなか取り組まない教員が多いです(それ以前にゼミや卒論もない学部もありますが)。結果としてそうした演習にあたる部分を、外部の教育業者にPBLアクティブラーニングアウトソーシングを依頼するという形態が増えて来ています。

大学内のリソースだけで対応できないものは、外部の知恵を取り込むのは現実的だと思いますが、大学教員が面倒に感じてサジを投げ、その始末をキャリアセンターや就職課が「キャリア教育」と称して安価な非常勤講師を調達して補完しているのは困ったものです。アウトソーシングする場合でも、正課授業との関係性を明確にして行わなければ就職セミナーや自己啓発と同じです。入試広報では素晴らしく見えるけれど実態はともなっていない、というのは企業採用広報も似ているかもしれませんが。

少子化が本格的に進み、大学環境も企業経営も着実に厳しくなるなか、相互が連携して補完しあい、無駄な経費を削減して本当に大事なところに投資する。大学にとって苦手なチームワーク力チームビルディング力を発揮できれば、決して夢物語ではないでしょう。そうした初夢の様な理想を、形にしていくような新年の始まりになればと思います。