第90号:就職マラソンは疲れます

5月の末になり、採用担当者の今年の見通しもついてきました。やはり順調に目標人員を確保できた企業は少なく、今後の追加募集をどうするか悩むところが多いです。(もっとも、現時点でまだ「確保」できたと安心している企業は多くありません。まだ公務員・大学院試験等の伏兵が控えておりますので。)そのため、これから採用活動を続ける企業は多くリターン・マッチのチャンスがあるわけですが、様子を見ていると学生も企業も”就職・採用活動疲れ”が見えるようです。

今シーズン、採用需要増大の影響を大きく受けたのは、業界中堅企業や、知名度が低い産業用途分野の企業でしょう。通常であれば大手で惜しくも不採用になった学生が今年については殆ど落ちてきませんし、学生の意識もホリエモンの影響なのか、ベンチャー指向から大手指向になっているようです。

そのためこれから募集をかける企業の最大の悩みは如何に新たな母集団を作るかなのですが、これからどんな手段を使っても今以上に良い学生が応募してくることは考えにくく、今シーズンの新卒採用を手仕舞いして中途採用に視点を切り替えるところもあります。

翻って今の学生の就職活動を見ていると、昨秋から継続しており流石にもう確定したいと思う学生が多いことでしょう。良い条件がこれから先にあるかもしれないと思いつつも、いつまでも流動的な状態にあるのは辛いことです。しかも、第一希望でない企業から内々定を得たら遠慮(辞退)しつつ走り続けるプレッシャーは相当なものだと思います。

つまり、今は内定ゴールをもう少し先に伸ばしたい企業が居ても、ランナーの学生は「もう勘弁して下さいよ。」と脚を止めようとしている構図になっているようです。(一方で、そろそろ走り出そうかという学生も居ります。)

マラソンは日本人の得意種目ですが、それには強い精神力、体力のペース配分が不可欠です。更に現代では選手個人の努力だけではなく、選手をサポートするチームも求められるようになってきました。

長期化した就職活動がマラソンと同じなら、今の学生を支援するチームは大学の就職課(キャリアセンター)なのでしょう。また、マラソン大会を主催している企業も学生を長く走らせたいなら、途中で給水地を設けたりして大会運営のスポンサーになることが必要でしょう。ゴールを設定して待っているだけでは学生がゴールまでたどり着けないかもしれません。

もっとも疲れ果てている採用担当者と学生を見ていると、この壮大なマラソン大会に意味があるかどうかはまた別の問題です。できることならお互い感動的なゴールシーンを見たいものですが。

 

 

第89号:新卒確保は福利厚生から教育投資へ

新緑の季節です。GWにちょっと田舎までドライブして参りましたが、水田には水がはられて田植えが盛んに行われておりました。今では機械化が進んでおり、大勢の人手を介する風景は見られませんが、何事も一斉に行う日本人の動きを見ていると、改めて日本人の精神的なルーツは稲作における集団活動なのかなあ、と感じました。企業が学生を集めるこれからのポイントもそこにあるように思います。

就職戦線も第二期に入り、採用担当者は内々定者の数確保に躍起になっております。少子化と求人増が同時に発生しておりますので、どこも苦戦するのは仕方のないことですが、メディアでも言われているとおり企業側はバブル期のように選考基準を緩やかにすることは少なく、当時の痛みは忘れていないということでしょう。

企業が学生を惹きつけようとする内容も当時とは変わってきております。今では語り草になっている、豪勢な独身寮、ホテルでの豪華な内々定者懇親会や海外旅行等はなくなり、替わって入社後の研修内容や人事配属に重点が置かれるようになってきました。つまり福利厚生から教育投資への変換です。これは今の学生にとって第一の企業選択ポイントが「自分が速く成長できる」であることを企業が受け入れはじめ、同時に企業側の、できるだけ早く戦力にしたい、できるだけ早く能力を見極めたい、(そして優秀な社員には)できるだけ長く定着して欲しい、という思惑が一致してきたということです。

企業が行う教育投資は新入社員の集団帰属意識も高め、社員の定着率の向上に効果があります。私が居た海外企業(ITコンサルタント)での研修で思い出されるのは、世界中の新入社員を米国本社に一同集めて集合研修を行い、「仲間意識」を醸成していたことです。ITバブル全盛のときに、何故こんな非効率なことを?と研修担当者に尋ねてみたら、「IT全盛企業だからこそ、最初にやらないと仲間意識が生まれないんだよ。日本企業もよくやってるよね。」との返事。一本とられましたが、まさにこれは村中総出の「田植え」ですね。

先日、大学AO入試の「合格」をこの5月末に出すとの報道があり、物議を醸しています。まさに季節感にぴったりの「青田買い」ですが、その是非はともかく、「青田買い」するならしっかりその後の育成まで手間暇をかけて丹精をこめたいものです。バブルを経て紆余曲折して参りましたが、大学も企業も「速く成長したい」という若者の願いにうまく応えて相互発展していきたいものですね。その中に日本文化の強さと魅力が醸成されてくるのでしょう。