第359号:院落ち学生の対応で感じる採用担当者の資質

出張で新幹線に乗り、車窓から黄金色の稲穂を見ると、日本列島もようやく秋らしくなってきたと感じます。そして、この時期は大学院試験の結果が出て、採用担当者にとっては「落ち穂拾い」の季節です。今年もまた真っ青になって駆け込んでくる学生達を有志の企業にご紹介していますが、企業のまちまちな対応をみていると、何となく採用担当者の「資質」を感じることがあります。

企業に追加募集の可能性を電話で問い合わせてみると次の3パターンが多いです。

1.即答で「今年度はもう終了したので関心ありません。」

⇒大企業で10月1日の内定式を前に人員を確定している。

2.即答で「是非、紹介して下さい。すぐに会います。」

⇒新興企業で退職者が多く、年中採用活動をしている。

3.迷いながら「どんな学生さんですか?と質問してくる。」

⇒中堅企業やBtoB系で知名度が低く、内定辞退に悩まされている。

勿論、院落ち学生に紹介したくなるのは3番目のパターンの企業です。1番目はとりつく島もなくお願いするのも時間の無駄です。2番目は紹介しやすいですがブラック的な企業の可能性もあります。

3番目のように質問してくる企業採用担当者には、こんな心理が働いています。

「もう欠員はわずかだけど、専攻学部は合うかなあ。」

「営業部員が欲しいけどコミュニケーション力はあるかなあ。」

「内定式も近いけど、間に合うかなあ。」

「応募者1名だと役員面接は設定しにくいなあ。」

上記のように、応募者の資質だけでなく、選考手続きの設定の「面倒くささ」も感じるのです。

 

ということで、私が採用担当者の資質として感じるのは、この「面倒くさいことをやる人」かどうかという点ですが、これはどんな仕事についても言えることかもしれません。世の中で100%成功する仕事とは時給で支払われるアルバイトのようなものです。しかし学生もやりたがる「企画」という仕事には常に可能性という課題があり、これを高める力のある人が資質のある人です。

3番目の「ご縁があるかわかりませんが、とりあえず会ってみましょう」という対応をしてくれる採用担当者は、まず自分で動いて可能性を判断し、会ってみて良さそうだと感じたら社内の調整を進めます。地味な仕事で小さな企画かもしれませんが、こういう人はマメな性格で着実に成果を上げるタイプで、いわゆるコンピテンシーのある方です。

「予算がないから」「時間がないから」「人手がないから」等のできない理由が先に立ち、面倒くさいことをやらない人は、比較的大手企業に多いです。個人の力より企業の力で仕事を進めることが可能ですから。これまで多くの企業採用担当者の方々にお目にかかりましたが、デキル採用担当者は中堅企業に多かったのは、もしかすると十分でない環境だから育ったのかもしれませんね。

第358号:若者の東京一極集中と首都圏大学入学者抑制

周知の通り、東京23区の大学新増設抑制がニュースになっています。首都圏への若者の集中抑止のために、大学定員で対処しようという政策ですが、全国知事会でも賛否両論になりもめにもめています。奇遇にも、私が今春、修了した大学院の研究ではこのテーマを扱っていたのですが、今回の政策にはまったく教育的な視点が抜け落ちており、目が点になりました。

私の在籍していた法政大学院政策創造研究科は、地方再生を主な研究領域としており、指導教官だった小峰隆夫教授(現大正大学)は、元内閣府官僚で経済白書を書かれておりました。大学院では人口問題と地方再生を研究され、「人口オーナス」という就労人口構成比の変化(労働人口が減って社会負担が大きくなる)に警鐘を鳴らしておられました。
そのゼミに所属していた私は『人口オーナス下における大学教育の課題と産学間の人材ミスマッチの実証研究』という修論をまとめたのですが、以下のようなロジックです。

1.人口オーナスは大学生数にも影響を出し始めた

⇒郊外、小型、教養系が過疎化になり、大都市、大規模、実務系の大学に集中する。

2.過疎化になる大学が学生を惹きつける王道はカリキュラム改革である

⇒しかし大学教育と就業力とには認知差があるので摺り合わせが求められる。

3.大学と企業の連携には双方の意識改革&行動が必要である

⇒大学はアクティブラーニングを強化、企業(社会)はインターンシップを改善すべき。

この論文を書いている最中に、政府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が改訂され、大都市圏への若者集中を是正する政策が打ち出されはじめました(昨年12月改訂)。その中には「地方創生インターンシップ」など、教育的な配慮が盛り込まれておりますが、今回の文科省の動きは、内閣から言われたので(不本意ながら無思慮に)動いたと感じさせ、これでは過去の事務次官と同じです。

この問題は簡単に結論を出せるものではありませんが、今週おめにかかった福岡県の優良中小企業の社長のコメントを紹介してヒントとしたいと思います。

旧帝大といっても地元しか知らない人はまったく使えません。学生のうちに一度、東京に行って戻ってきた学生の方が欲しいです。我々の市場はもはや国内だけではないのですから。」

このコメントは、世界中に大きな影響を与えた神話学者キャンベルの書いた『千の顔を持つ英雄』を思い出させます。英雄は地元を旅立ち、異国で何事かをなして地元に戻る。世界中の神話に登場する英雄に共通の行動パターンです。若者を地元の英雄にするために、単なる数あわせの人口調整ではなく、しっかりした教育方針を踏まえた政策を望みたいですね。

 

▼参考URL:千の顔を持つ英雄(ジョーゼフ・キャンベル)

https://www.amazon.co.jp/dp/4150504520

▼参考URL:大学をどう変える(下) 強みを伸ばし自ら将来像描こう(日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO20183070Q7A820C1PE8000/