第179号:4年生の自主留年&再就職活動

この時期に内定辞退された採用担当者から怒りのクレームの電話を戴いた皆様はおられませんか?3年生の就職活動が本格的になってきましたが、卒業間近になった4年生が内定を辞退して自主的に留年するケースが見受けられます。

 

締め切り間際にいきなり大転換の意思決定をする最近の若者特有の行動パターンかもしれませんが、ようやく送り出せると思った学生をまた面倒をみるというのは就職課の方々には頭の痛いことでしょう。内定を取れなかった学生がこうした動きをみせて、公務員試験を目指したり、1学年下の学生と一緒に再度就職活動を始めたりすることは珍しいことではありません。しかし採用担当者の視点で見ると、今シーズンの「自主留年&再就職活動」はかなり厳しい選択になりそうな気がします。

 

というのは、現時点での企業の採用予定数は昨春同様の低水準にあり、採用担当者の最大の悩みは急増する応募者の効率良い選考だからです。まっさらの3年生と、再就職活動の4年生を比較してみたときに、多くの企業では前者を選択するでしょう。勿論、エントリーは同様に扱われますが、昨年内定が取れなかった学生は面接で必ず留年の理由を聞かれます。そこに採用担当者を納得させられる理由があれば良いのですが、それが無ければ結果は明らかです。

 

この状況はかつての受験戦争時代を思い出させます。今は昔話となりましたが、当時は現役生と浪人生の競争がありました。一般的には経験を積んだ浪人生の合格率の方が高かったものですが、現在の就職活動ではそれが逆転して現役生の方が有利です。また受験浪人の場合は、高い目標にチャレンジして学力向上を目指したわけですが、就職活動では人気企業ばかり目指した結果、内定が取れなかったと判断されがちです。

 

悩ましい理由がもう一つあります。それは採用時期の早期化です。この時期に就職留年という意思決定をした4年生は、いますぐエントリーして企業の選考に向かわざるをえません。そして、採用担当者から「何故、留年したのですか?」「留年を決めてどんな成長をしましたか?」と問われます。さてそこで、どれだけ成長したかを語れるでしょう?

もし早めに留年を決めていて、昨春と比べてTOEICが300点アップしたとか、中国語をビジネスレベルで使えるようになったとか、3年生と比較して相当に高い成長度を見せられなかったら、採用担当者は同レベルの3年生を選ぶことでしょう。

 

今の時代、私は実を言うとキャンパスライフを充実させるための計画的留年は積極的に勧めたいと思っています。今の学生は無駄や回り道が出来ずに没個性化していると感じていますので。しかし、この時期の切羽詰まっての自主留年は相当の覚悟をもって行うべきでしょう。思い切って腹をくくり、これからの半年間は死にものぐるいで採用担当者に評価される経験を積んで夏採用にかけるとか、留学に出て海外の留学生就職フォーラムからエントリーするとか、どうせやるならば、採用担当者の留年偏見を吹き飛ばすようなチャレンジを見せて欲しいと思います。

 

第178号:自己・中心のエントリーシート

大学の期末試験が終わり、ぼちぼち企業の採用活動が始まってきました。この不況のせいなのか例年よりも少々ゆっくりしている気配です。エントリーシート(ES)の受付も始まり、学生は山ほどプレエントリーした企業に向けて必死にESを書き始めていますが、最近のESの傾向として感じられるのは、その内容が自己中心的なところです。

具体的には以下のような点です。

1.消費者・顧客目線になってはいるが、販売者・企業目線になっていない。

⇒今の学生のプレエントリー数は増加していますが、志望企業群は身の回りの耐久消費財を扱う企業が中心で、自分の気に入った商品の良さを他の人にも勧めたいという気持ちを志望動機にしている学生が本当に多いです。確かにお客様の気持ちは大事ですが、企業が採用したいのはそれを販売・企画する側の人間です。こうした学生は、「その商品を販売する企画を1つあげてみて下さい。」という質問に、誰でも思いつくような一般的な回答しかできません。逆にインターンシップの経験があって、企業側の舞台裏を知っている学生などは具体的な提案が出てきます。

2.自己PR体験談志望動機とが結びついていない。

⇒「学生時代に頑張ったことを具体的に説明する」という定番の課題について語られている内容が、志望動機とつながっていない学生が多いです。一所懸命なことは伝わってくるのですが、「それは何のために書いているの?」「そのPRはうちの会社でどんな仕事をしたくて書いているの?」と問いたくなります。非常に多いアルバイトの話で、非正規社員としての笑顔の仕事ぶりをアピールされてもこのご時世では正社員採用には結びつきません。

何故、こうしたESが増えてきたかとあえて採用担当者の視点で想像してみると、コンピテンシー面接の流行によって志望動機を聞かない企業が増えてきたからかもしれません。バブルの頃の面接では頑張ったことよりも志望動機の方が重視されていました。それほど実現性が無かったとしても、将来への夢や世界への野望などを問われれば、多少根拠の無い自信でもそれなりに風呂敷を広げることができましたし、それをキッカケに社会で活躍する自分を考え始めたものです。

ところがこの10年間に企業が精鋭採用にシフトして、学生の将来性(志望動機)を見るのではなく学生の過去の実績(体験談)を求め続けた結果、どうも今の学生を身の回りしか見えない小粒な人間にしてしまったような気がします。(コンピテンシー面接は過去の実績をみて将来の可能性を類推するものなのでちゃんと将来性を考えているのですが、ESの設問がそうした期待よりも根拠ばかり求めている印象を学生に与えてしまったのではないかという危惧です。)独創的で個性的な人物を求む、と言いながら、選考手法はあまりにも没個性なことに採用担当者も気づくべき時なのかもしれません。

就職活動は自分中心の世界から社会中心の世界に入っていくことです。その当事者である学生と採用担当者がお互いの夢と期待を大いに語るべき場であって欲しいものです。