第38号:3年以内に3割が辞めるのは異常なことか?

先日の厚生労働省の発表では、今春の大学卒業者の内定率が73.5%となり現在の計算方式になってから(平成8年から)過去最低になったということでした。就職指導をされる方には厳しい数字ですが、別の面からの数値を比較してみると、あながち悪いとも言いきれないと思います。統計数値は貴重な情報ですが、他の関連指標との比較や環境の変化、統計期間の設定等に気を付けて判断したいものです。

内定率の低下の背景にはいろいろな事情があるかと思いますが、この数値の見方が難しいことは皆様の方がよくご存知だと思います。いわゆる「母集団の設定」で内定率は左右されますし、経済不況と学生の意識の多様化によって就職指導も過去とは比較にならないほど難しくなってきています。それにもっと大きな数値の変化は、大学生の全体数の増加です。1992年の4年制大学卒業者数は44万人であったのにたいして、2002年にはこれが55万人と、なんと11万人も増加しています。サービス産業の台頭が高等専門教育を受けた学生を求めているとはいえ、これだけ大学生が増えれば進路が多様化するのも当然なことであり、卒業=就職という公式が変わってくるのも当然でしょう。

またよくいわれる「7・5・3の法則」も怪しいものがあるかと思います。「新卒大学生は就職して3年以内に3割が辞める時代です。」と、多くの就職評論家がこの数値を取り上げており、第二新卒が急増しているかのように訴えておりますが、15年前の1988年でも29.4%の新入社員が入社3年以内に退職しています(旧労働省資料)。(この数値を使う方が15年前の数値を知らないことは多いです。)今まで知らなかった数値が出てくると急増しているように感じてしまいますが、問題は環境と質の変化の方ですね。

15年前というとちょうど私も社会人4年目頃で、まだまだ転職者は少ない終身雇用全盛の時代です。志をもって新たな分野に挑戦すべく転職・退職した者を、企業や社会はどちらかといえば裏切り者とか落伍者というようなイメージで見ていました。キャリア自立を従業員に求める今とは雲泥の違いです。

というわけで、この大学生が急増して卒業後の進路が多様化している時代に、内定率が下がるのは当然のことでしょう。勿論、ここで何の目的もなくフリーターになってしまう学生を肯定するつもりは全くありません。そもそもフリーターは、「なる」ものでも「目指す」ものでもなく、無職の「状態」を指すものです。何かの志をもって励んでいる若者を、フリーターという統計に入れてしまうことも問題だと思います。

学生の生き方が多様化していく時代、内定率=就職率だけではなく、内定率=意識自立率(目的発見率)としてこちらは100%を目指したいものですね。数値を楽観的にみようというわけではありませんが、自信をもって職業指導をしようではありませんか。

 

第37号:前向きな経営から後ろ向きの経営へ

新年、明けましておめでとうございます。就職支援活動もこれからますますお忙しくなるかと思いますが、皆様のご活躍とご健勝をお祈り致します。さて、今年はいよいよ国立大学の独立行政法人化が始まり、ロースクールや専門職大学院の開学等、大学の構造改革の元年というような気がします。そこで今回は少し夢物語のようなことを自由に書いてみたいと思います。新年に免じてどうぞご容赦下さい。

常日頃から感じていることですが、教育産業はこれからますます有望で重要な業界になると思うのです。世間では「少子化で大学はこれから大変だ。」と言う方も居りますが、それは視点が一方向しか向いていない発言でしょう。最大の産業となった第三次産業(サービス産業)の到来で、現代は知恵で勝負する時代になったわけであり、高等教育がますます重要になり、これからの大学は超有望な業界です。既に多くに大学が動き出しているように、これからの大学は一度、卒業したら終わりではなく、社会で働いてから必要に応じてまた学びに戻る社会人大学生が増えてくる、いわゆるリカレント教育が一般的になってくると思われるからです。カルチャー・スクールではない本格的な生涯学習の時代の到来になるわけですが、そのためには大学での講義も社会人のニーズに耐えられる高度なものになっていかなければなりません。

また、こういったリカレント教育には、もう一つ大きな効果があります。社会人大学生がキャンパスに増えて新卒学生とコミュニケーションが生まれてくれば、自然と新卒学生も敬語を覚えるでしょうし、就職活動に必要な企業の現場の話もリアルに聞くことができるでしょう。そういった社会人大学生を同級生にもつ新卒学生にとっては下手なインターンシップや企業セミナーよりも有意義な社会教育・職業教育になります。つまり社会人大学生を受け入れるということは、キャリアカウンセラーを雇うようなものですね。業界セミナーを生徒に依頼することもできるわけです。このコミュニケーションを活性化させることによって、日本社会で消え去りそうなタテのコミュニケーションも復活するのではないかと思われます。もしかするとこの生徒間コミュニケーションの活性化は、就職課の新しい有望な仕事になるかもしれません。

こうしてみると、これまでのように新卒入学者だけを対象に見ていた前向きな経営から、卒業生をリピーターとして再び惹きつける後ろ向きの経営を取り入れることが今の大学の最重要課題であり、社会のニーズも高いことではないかと思います。大学というのは本当に、これからの社会に無くてはならない国民のキャリア・センターとしての機能を担うことが期待され、素晴らしい職場になるわけですね。停滞する日本の復活のキーもここにあるのではないかと思われます。道路公団の年末の顛末をみていると、国の構造改革もだんだん雲行きが怪しくなってきましたが、そんなものはもう放っておいて、大学の構造改革の方がドンドン追い抜いていってしまいましょう。

初夢に見るほど、大学という素晴らしい職場と組織の活性化を祈っております。どうぞ本年も宜しくお願い致します。