第385号:医学部不正入試と学歴フィルター

2018年は大学にとって歴史に残る試練の始まりの年になりそうですね。18歳人口減少問題に始まり、運動部関係の各種事件、経団連の採用ルール廃止、そして官僚子息裏口入学事件医学部の大学入試不正事。過去においては人口増加と経済成長の勢いで目立たなかった様々な問題が一気に吹き出してきたようです。

今まさに炎上中の医学部不正入試問題ですが、医学部は元々特殊な存在で、入試や仕事の特殊性については、私も実際に以下のようなことを見聞きしてきました。これらは全部、私が直接当事者達から伺った話で伝聞ではない事実です。

・総合大学の附属高校で成績優秀な生徒が、大学側から高額な寄付(1000万円位)出せば医学部に進学できるといわれた。

・医者(ある医師会の有力者)の子供が、まったく勉強していなかったのに私学医大に入学できた。

・小学生から高額なお受験投資で子供を医師に育てあげた親が「医者の家系でもない私が、経営者として十分な収入がなければ子供を医学部に入れるのは無理だった」と嘆いた。

・外科医は40歳までしか高度な手術ができない(老眼が入るため)ので、若い人(現役入学者)の方が有望だと話していた医者。

私は医者とは全く縁の無い家系ですが、これだけの話しを耳にしてきましたから、皆様の中でも似たようなエピソードに触れたことがあるのではないでしょうか。

この入試不正問題(浪人や女性が不利益に扱われる)は、ここまで炎上してしまったので、大学側も何らかの対処を取らなければならないでしょうが、仕事の現状を考えるとなかなか難しそうです。「特別AO入試応募枠」とか「紹介応募枠」とか設定して、入り口から分けるとスッキリしますが、一般入試との募集人数比率の設定の問題や、国の補助金が打ち切られるリスクも出てきます。

企業の採用活動でいえば、違法性はありませんが学歴フィルターと似ています。「そんな選考基準があるんなら最初から言って下さいよ!」ですね。大学も企業も募集段階から公開した方が選考側も楽ですが、公開すれば今度は「差別だ!」と言われそうなのでノーコメントが殆どです。しかし、経営のグローバル化を目指す経団連会長ならば、学歴フィルターと同じ機能をもち、米国でも普通に導入されている「指定校制度」を復活させたり「推薦募集枠」を喜んで導入したりしそうです。

医学部の入試不正問題は出口に国家試験があるのがまだ幸いですが、かつての日本の「指定校制度」は大学ブランド(受験偏差値)だけを見ていて、入学後の学生の学びをあまり見ていませんでした。今回の事件をキッカケに、企業が大学教育の中身をしっかり見るようになるならば、災い転じて福となす、となるかもしれません。今年も残り2ヶ月、災いは年内に片付けて新しい年を迎えたいものですね。

第384号:採用ルール廃止についての学生討議

10月10日の朝刊の一面には「経団連の採用ルール廃止」が並びました。たまたまその日の3年生の授業はプレゼンテーションとグループディスカッションの演習だったので、これをテーマにしてみましたが、学生の視点はなかなか冷静でした。

授業ではまず個人で賛成か反対かの立場を決めて論拠をまとめ、1分間の個人プレゼンテーションを行い、その後に同じ立場のグループに分かれて討議をしてからグループ別の発表を行いました。集計の結果と理由は以下の通りです。奇しくも大手就職情報企業の学生調査アンケート結果(採用ルールは必要が約70%)と似たものになりました。

ルールの廃止には、反対(62.5%)賛成(37.5%)

▼反対理由
・学生の(勉強への)モチベーションが低下する
・(早期化により)企業側に辞退者が増加する
・新たなミスマッチが発生する
⇒早く決まっても、就活は続けるので学生の意識が変わる
⇒早く決まると勉強せず遊ぶので、伸びるはずの学生が低迷する

▼賛成理由
・学生が主体性を獲得できる機会になる
・多忙になるので時間管理力が向上する
・上記の結果としてミスマッチが減る

▼条件付き賛成意見
⇒大学が学生の学習環境等を守ってくれるなら賛成

論拠の知見やデータの不足は否めないものの、思い込みや感情に偏った意見ではなく冷静に分析しており、授業の狙い(ロジカルシンキング&プレゼンテーション)は達成できました。結果として授業前にこのニュース報道に不安がっていた学生も少し安心できたようです。

最後のまとめで学生に教えたのは、アリストテレスの「実践知」です。法政大学の看板でもありますが、実践知とは単に仕事ができるだけではなく、社会の課題解決のための知見(教養)をもち、それを正しい方向に進めるためのモラルvirtue美徳)をもつことです。経済的なメリット・デメリットだけではなく、それが人類を幸福にするか、社会を良い方向に導くか、を判断して行動できるかです。

経営学者で世界的権威の野中郁次郎一橋大学名誉教授も、この重要性を経営者に説いていますので、経団連を初めとする経営者諸氏にはルールがなくともモラルで活動できるところを見せて欲しいです。

参考URL

▼速報:就活日程ルール撤廃による企業・学生の影響は?:ディスコ
https://www.disc.co.jp/press_release/6434/

▼就活を「自由化・通年化」しても、うまくいかないこれだけの理由:日経Biz Gate
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXZZO3578154026092018000000?channel=DF040620184168