第149号:大学祭で知った学生の資質

今年も残り一ヶ月となりました。先日の3連休で大学祭のシーズンも終了しましたね。これで3年生も心置きなく就職活動に入れることでしょう。さて、今年は私が非常勤講師でお世話になっている大学で学生と一緒に大学祭に参加する機会がありました。日頃、授業で良く知っている学生達と一緒にとあるイベントを企画実行したのですが、この経験から全く見たことのない学生の性格や資質が見えてきました。それは教師としては嬉しいことでもあるのですが、採用担当者としてみると、改めて採用選考の難しさを感じてしまったのです。

 

今回、私が関わった大学祭のイベントはクラシックを中心としたコンサートの開催です。大教室を予約して外部から音楽家を招いてチケットを販売するという大学でよく見かける企画です。10名ほどの学生が主体となって運営したのですが、その殆どは私の授業(キャリア論)の履修者でした。授業ではレポートや質疑応答をはじめ、グループ・ディスカッション等でも良く知っているはずでしたが、こういったイベントを通じて深く触れ合ったのは初めてのことです。

 

まず驚かされたのが「自主性」「行動力」の発揮です。メンバーに分担を決めて仕事を進めていったのですが、どうしても想定外の仕事が発生してきます。その際に「あ、それ私がやります。」「チケットは私が食堂で売ってきます。」という言葉とともに引き受けた学生は、授業の中では控えめな学生でした。

 

「指導力」を発揮した上級生も居りました。日頃は一歩下がっていて何もしないでいるように見えたのが、下級生が経験不足で壁にぶつかっているのを見るや、的確なアドバイスをして対処の知恵を授けていました。なかなか動けない下級生に対して大胆な「決断力」を発揮しています。後で聞いたところによると、後輩のために最初はあえて黙っていたとか。私はこの学生の模擬面接も行ったことがあるのですが、そんな指導力には気づきませんでした。

 

反面、日頃から「責任感」が強くてしっかりしているように見えた学生は、依頼されたことを自分中心に考えてしまって最終的に目標が達成できないことがありました。その成果はともかく、心配になったのはこの学生は自分の仕事には満足していて、「(自分のできることは)しっかりやった。」と思い込んでいるところです。いわゆる「自分に正直な等身大の学生」なんですね。会社で一緒に仕事をすると一番、困る部下のパターンです。

 

こういった学生の資質は、大人数の授業では把握することはできません。当然ながら、どんなに工夫しても面接という手法で見分けるのも困難でしょう。ゼミ活動や(正当な)インターンシップなどの一定期間一緒に過ごして、かつ仕事と同様にストレス下の状態で観察して初めてわかることです。

そういう点では、改めて採用選考の難しさを感じると同時に、学生自身も自分の資質に気づいていないのではないか、と深く考えさせられた大学祭でした。お互い、もっと良いマッチングの方法はないものでしょうかね。

 

第148号:農耕型採用・狩猟型採用・養殖型採用

経済環境が大きく変わるときには企業の採用活動も変わります。私は1990年のバブル期前までの採用活動を「農耕型採用」、バブル期後を「狩猟型採用」と区分してきましたが、日本のITバブル崩壊の2002年以降を「養殖型採用」と名付けています。この造語は、このメルマガでは2年前に初めて使いましたが、大手企業を中心にだんだんと増えてきたようです。その動きはこれからのキャリア教育や就職セミナーは勿論、大学のアイデンティティにも影響を及ぼしてくるのではないかと思っています。

それぞれを簡単に説明すると以下の通りです。

農耕型採用」・・・大学の勉強にはあまり期待せず、白紙から企業が新入社員を教育する。経済環境が良くて企業に人材育成の余裕があり、大学進学率がそれほど高くなかった売り手市場の時代の形態。

狩猟型採用」・・・経済環境が厳しくなる一方で大学進学率が向上し、買い手市場の採用活動で企業が少数厳選採用を行う形態。新入社員の早期自立を求めて「即戦力を求める」という文言が流行る。

養殖型採用」・・・経済環境が復調したものの大学の大衆化はますます進み、入社前から企業が大学生の能力開発に着手し始める。寄付講座、長期インターンシップ等が代表的事例。

つまり「養殖型採用」とは産学連携の人材育成のことですが、採用活動に直結しているわけではありません。間接的な特定企業と特定大学の関係強化です。つい先週もソニーと慶応大学による技術者育成の共同プロジェクトが報道されましたが、こういったケースはこれからますます増えてくると思われますが、以下のような問題も出てきます。

・大企業が有利になる。・・・寄付講座には相当な企業の資金負担や余力が必要です。

・大学のアイデンティティが変わる。・・・アカデミズム(学術中心)からプラクティカル・スキル(実用中心)へ。

結果的に、大学が「職業予備校」に向かう可能性が高くなります。(私は、それはそれで一つの選択肢だと思っています。大学も大学生も増えすぎてしまった現在、全ての大学が同じアイデンティティでは存在価値が無くなるでしょう。)それが良いことかという議論はさておき、経済環境が厳しくなるこれからは、企業が大学に求めるものはプラクティカル・スキルに向かわざるをえませんし、その期待に応えることによって大学もまた社会と連携した人材育成ができるようになるのではないかと思います。

とても難しい問題ではありますが、大学祭のようなお祭り騒ぎや受験テクニックのような就職活動はそろそろ止めて、今回の経済危機が企業と大学の良い関係作りのキッカケになればと期待しています。

それが企業の採用活動と、学生の就職活動を是正するものであれば尚、幸いです。

プラクティカル・スキルは、アリストテレスの「実践知」の意。