第204号:未来を信じて

この度の大震災では多くの方々に直接・間接の被害がありましたことを心よりお見舞い申し上げます。被災地で苦労されている方々の報道を聴く度に、一日も早い復旧を祈るばかりです。しかし、こうした中だからこそ、未来を信じる気持ちを忘れずにいたいと思います。

 

このような状況において、企業も今後の採用活動をどうすべきか戸惑っております。被害規模の大きさからは現場担当社の判断だけで動けないことは明らかで、既にいくつかの企業から表明されているとおり、当面の採用活動を延期し、現状を把握することで精一杯です。企業によっては採用活動そのものを中断せざるを得ないところも出てくるでしょう。

採用担当者が当面考えなければならないのは、まず入社直前の内定者(4年生)をどうするか?ですが、直接被害のある現地関係企業か、便乗内定取消をするような悪質企業ではない限り、内定取消はあまり出ないと思われます。数年前に内定取消騒ぎで世間の目も厳しくなっておりますし、これから内定取消をする手続きの方が大変です。

逆に、厳しく考えなければならないのは応募者(3年生)の採用数をどうするか?ということです。この春はやや景気が上向く気配でしたが、今回の震災では昨年より採用数が減少することは間違いありません。採用時期を5月や6月まで延期したとしても、時間が経つほど経済状況が下降局面に向かうでしょうから、選考基準もますます厳格にせざるをえません。

 

こんな状況の中で応募者の学生に心がけて欲しいのは「厳選応募」です。不況下で有名大企業に数多く応募したくなる気持ちはわかりますが、やみくもにエントリーをするのでは志望動機が浅く曖昧になるだけです。しかも、採用数が多い(100人以上)の企業ほど人員計画はぶれやすくなります。この5月初旬には金融、6月初旬には商社・メーカーの少数採用に多数応募者が集中すると思われますので、競争も激しくなるでしょう。是非、リスク分散を考えた「厳選応募」をして欲しいです。

 

さて、政府からは主要経済団体に内定取消防止や被災地の応募者への配慮が養成されています。しかし、今回の災害は個別の企業の努力では対応しきれません。政府に望みたいのは具体的な雇用機会の創出、例えばこの5~6月に内定が取れなかった学生たちへの直接の支援です。今の非常事態が収束してくれば、必ず復興事業で人手が必要になります。崩壊してしまった地方自治体などで、長期の災害復興ボランティアとして若者を活用し、その活動をしっかり記録し、将来の就職活動に資するキャリアとなるように。大学もそうしたボランティアを単なる留年とせずに学費免除の休学期間と認め、災害復興事業に関わる企業では極力インターンシップを設定して若者の育成機会として欲しいです。学生の方々の就職ができない不安も、被災地の現状を見れば吹き飛んでしまうでしょう。

 

今はまだ将来の夢や希望を語る気持ちにはなれないかもしれませんが、未来を強く信じ、いまこそ産官学が連携し、数年後には日本が世界に誇れる歴史をつくりあげたいものです。今回の震災に際して、規律を守って辛抱強く対応されている被災者の方々、最前線で勇敢に救助、支援、復旧に当たっている方々に心から敬意を表します。貧者の一灯。今月の原稿料は赤十字社を通じて被災地のために寄付させていただくことにしました。

 

第203号:新卒一括採用の良さ

日本の新卒一括採用はガラパゴス化しているので止めるべきだという発言をよく耳にします。しかし、今の日本では新卒一括採用のメリットの方が大きいと私は思います。それは、社会人育成を大学と企業が自然と連携して行っている有機的なシステムで、世界でもなかなか見ない良いものだからです。

 

新卒一括採用に反対の方の意見は主に以下のものだと思います。

1.新卒だけでは多様な人材が採用出来ず、企業が画一的な人材ばかりになる。

2.就職時の経済状況が悪くて就職出来ないのは本人の能力とは関係なくかわいそうである。

3.世界でこのシステムを行っている国は日本と韓国だけでグローバル・スタンダードではない。

 

それぞれに私の意見を述べてみると、まず1のような新卒一括採用だけしか行わない企業は既に少数派だと思います。30年前ならばともかく、いまでは新卒一括採用と中途採用の両方を使い分けている企業が殆どでしょう。また、画一的と言いますが、未だにそうした人材を重宝している業界も多いです。中央集権的な人事政策の大企業では、本社はエリートですが、支店は没個性のワーカーが望ましいと考えている企業は数多あります。

2については、不況になれば新卒採用も中途採用も止まるので(むしろ中途採用の方が先に止まります)、新卒一括採用制度の問題ではありません。また、そうした運・不運に左右されることを、不況期間が相当に長ければともかく、国や企業が支援することは妥当でしょうか?例えば、バブル崩壊期に一番、損をしたのは住宅(マイホーム)を購入したり、金融資産を運用する余裕のあった30~40歳の層で、いまだに重いローンを抱えている方もおりますが、その前後の世代はあまり影響を受けておりません。就職と財テクを同じに論じることはできませんが、好不況に個人が左右されるのはいつの時代でも同じです。むしろ私の懸念は、不況を理由にして学生がすぐに就職活動を諦めてしまうことです。

最後の3の主張は、採用方式というのは、それだけで存在しているのではなく、その国の法制度・教育制度・文化的背景と相まって、その国それぞれに形成されることを忘れています。世界の大多数と違うから変だ、というだけならナンセンスです。もし日本の大学が、世界の大学と同様に職業訓練に近い教育を行えるようになれば別ですが。

 

私は何が何でも新卒一括採用を継続すべきだとは思っておりません。リクルートワークスの大久保氏が主張するように、日本は新卒採用を世界で一番、うまく運用している国だと思っているだけで、いずれは通年採用の比率は高まってくるだろうと思います。しかし、仮にいま新卒一括採用をやめて一気に通年採用に移行したしたらどうなるか?メディアや識者の方は通年採用とは企業が一年中門戸を開いていると思い込んでおりますが、それは大きな誤解です。中途採用と同じく、必要な時期に必要な人員だけしか採用せず、しかも中途採用に近くなるので十分な社員教育は行わなくなるでしょう。

 

つまり、新卒一括採用の学生にとっての最大のメリットは、確実に企業の門戸が開く時機がわかるということと、即戦力でない若者を社会人のイロハから教育すると言う点です。日本の最強の職業教育は、企業の新人研修なのですから。そうした新人からの人間関係を通じて醸成される仲間意識や「恩」が、日本人の強さだと思います。これを忘れて通年採用に向かうのは相当に危険なことだと感じています。