第381号:オープンキャンパスでの保護者向けセミナー

大学の夏休みといえばオープンキャンパスがすっかり風物詩として定着しました。各大学を回る親子連れを見ていると微笑ましく感じます。私も保護者向けセミナーで講師を行いますが、熱心に質問してくる親御さんに対応していると、キャリアの投資相談を受けているようです。こうした機会に、日頃なかなか話の出来ない親子が対話をするのはとても良いことだと思います。

さて、女優綾瀬はるか主演の『義母と娘のブルース』というTVドラマが高視聴率だそうです。先日、この番組で大学受験に関する親子のやりとりのシーンが出てきて注視させられました。高校生の娘は大学受験で「そこそこ知名度のある大学に入れたら」と考えていましたが、義母や友人の「やりたいことを見つけて、それに合わせて大学や学部を選ぶ」という話しに触れてコンプレックスを感じてしまいました。娘の本音では、自分は勉強はできないけれど、献身的に面倒をみてくれるキャリアウーマンの義母の期待に少しでも近づきたいというもので、大学志望動機が幼すぎると感じたのでしょう。

私も義母と似た考えで、高校のキャリア教育では大学・学部という組織の意義や歴史を教え、社会の仕事を教え、その目的にあった大学・学部を選ぶのが基本だと思います。若者はやりたいことが見えないと言いますが、やる気がないのではなく、やりたいこと(社会のこと)を知る機会が少ないからです。プロ野球や甲子園という夢をもつ高校球児が頑張れるように(スポーツを職業にするという難題はちょっと横に置きます)。

しかし、子供が親の期待に応えたいという気持ちもわかります。実際、私の教え子にも、憧れの航空会社CAに内定したのに「先生、本当にこれで良かったんでしょうか?実は私はそれほどCAになりたいとは思っていませんが、母や祖母が喜ぶので。」と語る者がいました。同様の話しは、アナウンサーや教員になった卒業生からも耳にします。

どんなキッカケであれ、仕事に就いたらそこに自分のやり甲斐を見出して職場に定着していく人は多いです。それを自分のものとしないで他責的になる若者はミスマッチを理由に早期離職していくか、または親の期待から卒業して(親の期待を果たして?)自分の夢を見つけて転職していくようです。

私もオープンキャンパス等で保護者向けの講演を致します。通常は大学のキャリア教育について、最近の就職市場や学生の意識等について話しますが、子供との接し方についても高い関心を持たれます。スキルとしてはカウンセリングやコーチングの基本を伝えつつ、その親御さん自身の就労観子供に対する就労観を考えて貰うようにします。

社会がどんどん成熟していく中で、就労観も社会そのものも大きく変わり、今の子供は今の親とは異なる生き方をするようになるでしょう。就職、結婚、出産、住居の意思決定の内容もスタイルも、保護者が大学生だった30年前とは様変わりしてきています。家族の関係もその話し合いのなかから育まれるのではないかと思います。オープンキャンパスが、親子それぞれのキャリアを一緒に見直す機会になると良いですね。

 

第380号:レポート・期末試験の「20代のキャリアプラン」

春学期の期末試験も終わりお盆休みを前に、教員は採点の追い込みとなり、職員の皆様はオープンキャンパス等でご多忙なことでしょう。私も先日、授業のレポート・筆記試験の採点を終えましたが、たまに課題にする「20代のキャリアプラン」を見ていると、最近は一定のパターンが見えてきました。これは企業採用担当者も今後、意識していかなければならないことだと思います。

近年、学生のキャリアプランで増加中なのは以下のパターンです。

・大企業に入社して3年間は頑張る。

・その後、外資系に転職して専門性を磨く。

・その後、留学or進学して社会活動(or結婚&出産)もする。

これらは、就活面接でよく問われる「10年後の貴方」という質問とほぼ同じです。流石に学生も採用選考の場では「転職」を「社内異動」と言い換える大人の対応をしています。

キャリア形成を企業に依存せず自分で作るのは欧米型の特長ですが、日本の学生の意識もメンバーシップ型からジョブ型に徐々に移行してきたのか、またはキャリア教育の成果かもしれません。

もっとも、学生の意識は実際の知見(実践体験)に基づかない耳学問が多いですから、そのまま良しとするのも問題です。マスコミがもてはやすスーパースターもレアケースが多いです。

さて、伝統型日本企業が考えなければならないのは、こうした若者を如何に活かして能力を発揮させ、利益に貢献し始めた頃に初期投資回収の視点になるのではなく、再投資でより大きな利益を相互がえられるような人事制度、リテンション施策でしょう。流行の表現をすればメンバーシップ型雇用2.0ですね。

このようなキャリアが認められてくると、大学新卒3年以内退職言説は、立派なキャリアプランとして評価が変わるかもしれません。過去の視点だけで現在の現象を見ているといずれ時代に遅れになるのは、昨今の官僚やスポーツ関係の不祥事を見ていても同じです。

ちなみに、この課題での私の主な評価ポイントは以下です。企業の採用選考基準にも似たようなものでしょう。内容の評価よりも、授業の基本や論理性が指導通りにできているかが重要です。即戦力は求めていませんが、大学での基本(即戦力性・汎用性)を求めています。

・授業での知見を発揮しているか?

・構造的に論じているか?

・具体的か?(夢ではなく目標にしているか?)

・明日から実行できるか?

同様な質問で「この夏休みの貴方のキャリアプラン」を課することもあります。プランは実行できなければ青い鳥と同じですが、まずは青い鳥でも描いてみると、自分自身の良い点や未熟さに気づけて、長い夏休みを少しは有意義に過ごせるのではないかと思います