第222号:採用活動に関する大学との共同研究-5

毎年大学後期は企業の人事労務管理を研究している大学のゼミ生と採用活動に関する共同研究を行っておりますが、今年は『学生・企業間におけるグローバル人材の認識差』がテーマでした。研究にご協力戴いた企業人事担当者(約10社)を招き、今週その報告会を行いました。グローバル人材というものは就職セミナーでは頻繁に目にしますが、学生と企業の認識には埋めがたい大きな溝があるようです。

 

この研究では学生(425人)と企業(76社)から集めたアンケート回答に加えて、直接訪問した企業(約10社)のインタビューをまとめています。その中でマスコミでもよく取り上げられる「グローバル人材を見据えた新卒社員に必要なもの」については、以下の点について学生と企業とで大きな違いが見られました。

・学生が重視しているが、企業はそれほどでもないもの(上位3つ)

1位:高度な語学力、2位:異文化適応力、3位:国際的視野

・企業が重視しているが、学生はそれほどでもないもの(上位3つ)

1位:情熱、2位:向上心、3位:一般教養

 

これらをみると、学生は具体的なスキルに着目しており、企業はそれよりも資質や人間性に着目しているのが明らかです。研究では更にこうした現象が現れるメカニズムについても考察し、企業の情報発信方法について課題があることを指摘いたしました。何分、大きなテーマだけに企業からの指摘も厳しく研究の不十分な点も明らかになりましたが、学生企業相互に有意義な質疑応答がなされました。

 

このゼミ学生達は全員3年生なので、12月になって始まった企業セミナーを周りながら研究報告をまとめるのに非常に難儀しておりましたが、その就職活動から面白いことを2つ発見しておりました。

・グローバル化に遅れている企業ほど、グローバル化が大事だと主張している。

⇒進んでいる企業はそれほどアピールしない。

・グローバル人材に求めるものは、どこの企業も似ている

⇒「情熱」「向上心」とは良く聴き、勢いはわかるが曖昧でよくわからない。

 

結果、企業への提言としては、現在の企業の一般的な採用方法(Webエントリー⇒大規模セミナー⇒ES⇒面接)は、時間・労力が取られるわりには学生と企業の理解を埋める機能を果たせておらず、長期インターンシップ等の新たな告知採用方法が必要である、となりました。当たり前の結論ですが、採用担当者の方々も実はそれは課題と思っていると共感されていました。今回のテーマが壮大だったので学生達は苦労しておりましたが、その研究結果またまた大きな問題が浮き彫りになったわけです。

 

しかし、この研究活動を通じて、学生達は就職活動や企業の採用活動、そして新卒就職市場についておそらく日本でトップレベルの理解に達しました。そして、大学の研究こそが一番の就職活動であるということに気付いてくれたわけです。指導には大変労力を取られましたが、こうした調査分析報告手法は、どんな学問でも指導できるはずです。苛烈な就職環境に惑わされずに対処する能力を、大学は与えていきたいものですね。末文になりますが、良いお年をお迎え下さいませ。

第221号:採用担当者セミナー三社三様

12月に入り採用広報が一斉に始まりました。採用担当者が各大学セミナーで忙しく飛び回っておりますが、いろいろな個性があって面白いです。採用担当者は会社の顔であり、良くも悪くも学生への印象を形成しますのでやり甲斐のある仕事です。先日、とある大学の合同セミナーで三社三様の個性を聴いてきましたのでご紹介しましょう。

 

理系の文系就職という主旨で行われたセミナーで、登壇された3社の採用担当者達は奇遇にも皆さん入社3年以内という若い方々でした。以下に簡単にそれぞれの個性をまとめます。

先発は有名大企業のA社です。勢いある話し方で「当社は文系も理系も関係ありません!」とビジネススケールの大きさを大声でアピールしている点は総合商社らしい豪快さです。聴講している学生は理系なので、日頃こうした勢いあるセミナーを聴く機会は少ないです。反面、個別の取り扱い製品やビジネスについての話は少なかったので、理系の強さを活かしたいと感じている学生には少々、物足りないと感じられたのではないかと思います。

 

中継ぎ中堅企業のB社は、A社とは対照的な落ち着いた話し方で、ビジネス規模よりも収益性や個別の商品について淡々と説明しておられました。理系の研究開発者向けのセミナーによくあるパターンです。学生には聴きやすい反面、ややインパクトに欠ける感じですが、ニッチな市場で技術者相手にクールな営業を希望する学生には好感をもたれると思います。丁寧な原稿を手元に用意されて読み上げるように話をされていましたが、最後に原稿ではなく個人の仕事観を話されていたのは印象的でした。

 

クローザーのC社は、学生が1時間以上も聴き続けて疲れ気味なところに気付かれ、いきなり「ストレッチしましょう!」と学生の気分転換から入られました。その後の説明で印象的だったのは、プレゼンテーションのスタイルです。A社が一方的にまくし立て、B社は受け身で淡々と説明するのに対し、C社は常に学生に軽い質問を投げてコミュニケーションをとりながら進めていきます。顧客に対し、提案型の営業をしたい学生に共感されたと思います。

 

採用担当者の盲点になりがちなのは、自分のプレゼンテーションが学生にどのように見えているのか気付きにくい点です。なかなか難しいのは、ターゲットとする学生は誰で、何をどうアピールするか、と絞り込む点です。万人に受けるプレゼンテーションというのはありませんから、そのメリハリが大事です。なので、こうした合同セミナーでは自社の特長や自分の個性に気付く良い機会です。

一般的に言って有名大企業ほどこうした点にわりと無頓着です。BtoB系の無名企業の採用担当者だった私もそうでしたが、合同セミナーでは特に知恵を絞って自社の魅力をアピールするプレゼンを考え、その駆け引き(?)に燃えました。

 

ところで、今回の3社の若い採用担当者の方々のプレゼンテーションはどれも個性があり好感がもてました。企業規模や業界特性などに関係なく、若い社員が自己流ながらも試行錯誤しながら現場で頑張っていること、それが何よりも就職活動中の学生へのアピールになるのでしょうね。採用担当者の先輩として、師走に全国を飛び回りはじめた後輩達にエールを送りたいと思います。