第230号:就業力育成ビデオ

ちょうど1年前のこのコラムで、法政大学における文科省「就業力GP」の特任教員に就いたことをお伝えしました。この1年間、授業を通じたキャリア教育のプログラム開発をはじめ、様々な試行錯誤を行って参りましたが、その成果の一つとして「就業力育成ビデオ」を作りました。これは今後、ご希望のある大学には無償で提供して参ります。

 

このビデオを制作した目的は、主に以下の三点です。

  • 学生に仕事の現場をできるだけリアルに伝えること
  • 教員に大学の学びは社会で通用することを再認識して戴くこと
  • 企業に産学連携のキャリア教育に参画して戴くこと

まず、殆どの学生は企業で働いた経験を持っていません。良いインターンシップができれば理想的ですが、実施内容、期間、受け入れ企業等で、すべての学生にその機会提供をするのが困難なことは、言うまでもありません。アルバイト経験も、その多くが非正規社員労働で、採用選考で求めるものとは異なります。それを知らない学生の自己PRは、どんなに一所懸命に話しても採用担当者には響きません。

 

次に、「私の授業は就職には役に立ちません」と口にする大学教員がおられます。確かに大学の研究の中には仕事に直結するものではなく、物事の本質を究める知的活動という面があります。しかしそれだけに、応用範囲は広いものです。例えば人事制度や経営戦略の立案には、人間の心理が深く関わっています。就職活動や企業での仕事経験の無い教員には、そうしたことは未知の分野なのでしょう。

 

最後に、多くの企業は自社の仕事理解機会の提供をせずに求める人材要件のハードルを高くしています。仕事柄、数多くの企業セミナーを見聞きしますが、正直、表面的なものであったり、自社の宣伝で終わっているものが多く、仕事の大変さ(それは裏返せばやり甲斐です)を伝えきれておりません。充実した企業セミナーは、インターンシップと同じく、特定の少人数だけに実施されていたりします。

 

このような背景のなかで大学が学生にすべきことは、やはり授業時間を通じて仕事の現場と大学での学びの関係を伝える工夫をすることでしょう。このビデオでは有志の企業に協力を戴き、仕事の実例と現場をリアルに描写してみました。このビデオを見ながら、学生や教員に大学教育の実用性を感じて貰いたいと思っています。昨年度は、2本のビデオ(旅行代理店遍、産業機械遍)を制作し、今週から下記サイトでダイジェスト版の公開を始めました。一般の配布は来月末頃からの予定です。このビデオ教材はシリーズ化し、今後もリリースしていく予定です。

 

このビデオは文部科学省の就業力育成支援事業予算で作成したものですが、周知の通り、突然の通達で今年度から廃止となってしまいました。しかし、若者の就業力育成は、もはや大学だけの問題ではなく、広く社会の問題、更にはグローバル競争をリードすべき日本国の喫緊の課題です。そうした志に共感して戴ける大学・企業を募り、産学連携教育の一事業として継続していきたいと思います。

 

▼就業力育成教材ビデオ-1「ハタラクチカラ(社会人1年目の現場)」

http://3step.hosei.ac.jp/news/details/2012/04/18/id1400

第229号:内定の順回転と未内定の逆回転

企業の内定出しも始まり、学生の顔色にも大きく違いが出てきました。メディアは「勝ち組・負け組」の二極化でとらえることが好きですが、大企業の採用数は、全大学生数よりずっと少ないので、結果が二極化することは当たり前のことです。しかし、同じ大学の同じ学部でも、結果に差が出てくることがありますが、それは何故なのでしょうか?そのメカニズムがわかれば、未内定学生にとって現状打開のヒントになると思います。

 

勝ち組学生で典型的なのは、他者にない秀でた経験をもった学生です。例えば、日中英語の三カ国語に堪能でスポーツ万能で品行方正というような、天が二物も三物も与えたような人物です。しかし、ここではそうした超エリート人材ではなく、もう少し一般的な学生を考えます。というのは、採用担当者にとって評価が難しいのは、最優秀な人材ではなく、平均以上、優秀未満という「中の上」の人物の評価の誰に内定を出すか、という点であり、そうした僅差の応募者の中でも、内定を取れる人と取れない人の二極化が起きているからです。

 

その「中の上」評価の人物の結果が分かれる要因は、早く1つの内定を獲るかどうかです。勝ち組である内定獲得者には「内定の順回転(好循環)」が発生します。内定を獲たことで、面接のポイントがわかり、自分の話し方に自信がもて、態度にも堂々とした自信と落ち着きが現れ、その結果、次の内定が出やすくなるからです。その内定は、倍率の低い中小企業でも良いのです。

 

採用担当者の方でも、他社の応募状況を必ず聴きますが、その際に内定を持っている学生だと見る目が変わります。特に経験の浅い採用担当者の場合は顕著です。逆に、慣れた採用担当者が、ある大手企業の内定を持っている学生を面接すると、その企業の今年の採用基準がわかります(景気によって多少

採用基準はぶれるものです)。他社の選考基準をそのまま使っても問題無いわけですから、思い切って「他社の最終選考で不合格だった人を求めます」という募集広告を出せば、かなり楽な採用選考ができます。現実に、かつて「(内定をもっているけど)秘かに就職活動をしている人を求む」という募集広告を出した企業がありました。

 

逆に、未内定の学生は「未内定の逆回転(悪循環)」に陥ることが多いです。採用選考は、人物のほんの一面を見るだけなのに、全人格を否定されてしまったように感じて、ドンドン自信を失っていき、どうして良いのか自分でもわからないままに惰性で面接を受け続けている状態です。

 

一度こうした逆回転に入ると、なかなか自分では抜け出せなくなりますので、就職課やキャリアカウンセラー等のアドバイスが必要だと思います。また、悪循環に陥る学生には最初から有名企業ばかり受ける傾向も見られます。今年のように採用選考期間が集中してしまうと、応募時期が限られる焦りもあるのでしょう。事前準備ができないままに、多くの企業に「とりあえず」エントリーだけ行った結果、そのハードスケジュールをこなしているうちにドンドン逆回転の速度が上がり、休むことも怖くなります。

そんな場合、あえて志望分野方向性を変えたり、思い切って休んでみることも大事だと思います。自分を冷静に見ることができたなら、きっと自分の回転方向が見えてきて、逆回転を止め、順回転に転換するヒントも見えてくると思います。