第246号:採用活動に関する大学との共同研究-6

今年も人事労務管理を研究している大学のゼミ生との共同研究を行いました。本年度のテーマは『インターンシップの効果(フィードバックの有効性)』でした。倫理憲章の設定により、今シーズンは1dayインターンシップが激減し、5日間のものが急増しました。また採用直結の表現も使えなくなりましたので、正直、採用担当者からの関心からインターンシップは視野の外になってきたようですが、学生と企業の意識の違いは相当にあるようです。

 

この研究は、9月から12月にかけて企業と学生の意識調査を、定量調査(アンケート)と定性調査(インタビュー)を行うもので、学生の就職活動と企業の採用活動の認識差を明らかにして、企業に対して学生の目線から提言をしていくものです。本年度は、689名の学生アンケートと66社の企業アンケート分析、そして11社の企業インタビューを行いました。その結果、以下のような傾向が見受けられました。

 

・企業の意図がなくても(採用活動とは関係ないと明言していても)、学生はインターンシップを採用活動の一環と思い込んでいる(期待している)。

・インターンシップは、実施企業への応募意欲向上だけではなく入社意欲向上にも効果があり、その主たる要因は(インターンシップのプログラムよりも)社員との関係性構築である。

・企業はインターンシップの成果についてフィードバック(評価)を伝えているが、学生が求めているのは組織成果ではなく能力・適性に対する個人評価である。(そこまで対処している企業は少ない。)

 

先週、これらの研究内容報告会を開催し、10名ほどの企業人事担当者に対してプレゼンテーションを行い、学生と採用担当者との討議を行いました。その結果、採用担当者からは「目から鱗がおちた」「インターンシップのあり方を見直したい」というコメント戴き、好評のうちに終了いたしました。

 

振り返ってみると、この3ヶ月半の研究は、私の仕事(人事コンサルティング、大学教育)のインターンシップだったと言えるかもしれません。参加した4名の学生達は、当初は知識・経験不足から非常に苦労しており、社会人からは厳しい指摘を貰い、煮詰まった時には喧嘩までしておりました。しかし、そうした時期を乗り越えて学生達は大きく成長し、上記のような成果を出すことができました。

私自身、改めてインターンシップの効果を認めると同時に、これによって学生の能力評価も可能になる(採用活動に自然とつながる)ことを体感できました。人材の育成と評価は本当に苦労しますが、手間をかけただけの成果は必ず得られるものです。翻って、多くの採用担当者のかけている手間は、本当に意味があるものなのか、と考えさせられました。

 

最後に、この研究活動を終えた学生から届いたメールを下記にお伝え致します。ありきたりの文章ですが、きっとこの学生は自分に誇りを持って就職活動に臨むことでしょう。

「中学・高校時代は部活を頑張った!と胸を張って言えたのですが、大学に入ってからは本当に頑張ったものがなく、悶々としていましたが、今回、胸を張って頑張ったと言えるものができました。本当に感謝しております。」

末文になりますが、皆様、良いお年をお迎え下さいませ。

第245号:経団連の加盟企業とは

12月となり企業の採用広報が始まりました。一気に学生と企業が動き出すのを見ていると、日本経済団体連合会(経団連)の影響力はさすがなものだと思わされます。経団連に加盟している企業は1285社(2012年3月現在)で、産業全体から見ればわずかなものですが、この方針に準ずる企業は多いものですね。

 

経団連の定めた倫理憲章を改めて見てみると、その主旨はなかなか良いもので、就職活動をする学生にも是非一読を勧めたいものです。憲法と同じで、存在は知っていても実際に読んだことのある方は少ないでしょう。これを読んで次に思うのは、「こんな良いことを言っている企業は何処なんだ?」という自然な疑問です。ところが、経団連の加盟企業は、不正利用を防止するという理由から、Web上での公開はされておりません。(経団連会館に訪問すれば加盟企業は閲覧できます。)

 

せっかくの倫理憲章を遵守する優良企業を知りたい(是非、入社したい)と、学生が思っても簡単にはわからないのは困ったものです。一方で多くの外資系企業のように、経団連に非加盟の企業は倫理憲章を無視して既に選考を始め、内定を出している企業もありますから、ますます就活学生は疑心暗鬼になります。

 

ところが、つい12月11日、経団連から『「採用選考に関する企業の倫理憲章」の趣旨実現をめざす共同宣言』がなされ、そこにはこの倫理憲章を遵守する企業群(825社)の名前が公開されました(文末URL参照)。こうして見ると優良企業が名を連ねておりますが、マスコミ業界が見当たらないのは残念です。

 

経団連もなかなかやるものですね。こうなると次に対応して戴きたいのは、やはり企業の採用広報時期の問題です。ただでさえ多忙な師走から、期末試験後の春休みに変更して戴きたいものですが、それができないなら、倫理憲章を守っているかどうかの監査と罰則の設定です。これも空しい希望かと思っていましたら、とある業界では内部告発制度を設定していてお互いを監視しあっておりました。江戸時代の五人組を彷彿とさせますが、抜け駆け防止には効果があるのでしょう。

 

何度かこのコラムでもお伝えしたとおり、私個人は、採用広報開始は春休みの始まる2月から、採用選考は夏休みの始まる8月から、というのがベストだと思っています。マスコミが宣伝するように、就職活動が準備不足の学生が多いのなら、その準備がもっともしやすい時期にすべきではないでしょうか?

12月に選挙という暴挙(?)は40年ぶりだそうですが、採用選考開始時期は、立法など必要なく良識ある企業の判断で改善できることなのですから。

 

▼参考URL:「採用選考に関する企業の倫理憲章」の趣旨実現をめざす共同宣言

http://www.keidanren.or.jp/policy/2012/085_sengen.html