第391号:体育会学生の新卒人材紹介活用

私立大学では期末試験のシーズンとなり、私も自分の授業科目の試験監督に出向きました。3年生以上が対象の科目なのですが、リクルートスーツスタイルの学生がチラホラ居ます。「今日は何かあるの?」と尋ねてみると、「企業のインターンシップです」「採用選考です」とのこと。秋の授業中も多かったのですが、大学の期末試験中だろうと企業は大学(学生)の都合など無関心なようですね。

 そんな中で涼しげな顔をしている体育会の学生が居たので、「就活はどうしてる?」と聞いたところ、無事に内定を貰ったとのこと。部活と勉強の文武両道の学生だったので、就活もきっとスムーズにいったのだろうとは思いましたが、この学生は新卒人材紹介会社を利用したそうです。体育会でもプロを目指すレベルで活動していたので、ふつうは部活と勉強だけでとても就活などやっている時間はなかったはずです。このレベルの多くの体育会学生は自ら就活をしなくても(ついでに勉強をしなくても)、伝統ある部活のOB会が強力に面倒を見てくれます。

 しかし、この学生は自分の進路は自分で決めたいと考え、就活も自ら行おうとしましたが、たまたま新卒人材紹介の会社に出会って、そちらの紹介でスムーズに決まったそうです。一般の学生がなかなか着目しないBtoBのメーカーで業績の良い企業です。こうした実例を見ていると、大学内の活動に夢中になっている体育会学生は新卒人材紹介と特に相性が良いと感じます。米国大リーグに挑戦するプロ野球選手は珍しくなくなってきましたが、皆さんエージェント交渉代理人)のお世話になっていますしね。

 改めて学生にとって新卒人材紹介の良い点を考えると以下の3点です。

・自分で動かなくて良い(多忙な学生は助かる)
・学生目線では分からない企業に触れられる
・志望動機や業界研究が深くなくても良い(紹介されているから逆に人事が説明してくれる)

 このコラムでも5年ほど前に、新卒人材紹介業がタケノコのように芽を出して広がってきたと書きましたが、今では新卒人材紹介で検索すると、ヤマのように情報が出てきます。検索エンジンの広告も比較にならない程、増えてきました。最近の傾向は、特定の分野に特化した人材紹介業が増えてきていることです。勿論、体育会学生専門の企業もあります。こうした専門化が始まるということは、業界が黎明期から拡大期(成長期)に入ってきたということです。

 企業側の方も、少子化の中で効率の良い採用を行うことを考えるならば、人材紹介業の成功報酬型のように、採用コストが明確にわかる手法はこれからもっと流行るでしょう。日本人はとかく自前でやることを重視しますが(私もメーカー出身なのでそれは好きですが)、採用担当者自身が人員や予算を削られるとアウトソーシングに向かわざるを得なくなると思います。

となると、大学キャリアセンターも「人材紹介業の使い方」という就職セミナーが求められてくるかもしれませんね。来年度の活動計画に入れてみては如何でしょう?

第390号:期末試験答案とエントリーシートの共通点-4

新年おめでとうございます。年末から各大学で卒論提出時期となり、私学では間もなく期末試験も始まります。昔から日本の大学は出るのが楽だと言われますが、卒論はその象徴かもしれません。日本と世界では大学を見る社会背景が異なりますし、大衆化が進む日本の大学の現状は全否定しませんが、最高学府(久しく聴かなくなってきた言葉です)としての文書を書く「基本」はしっかりして欲しいと思います。

 私がレポートや論文の「基本中の基本」として授業で伝えていることは、以下の3点です。これまで何度か書いた、エントリーシートの書き方採点基準と同様です。

事実と意見と客観性
大学業界(笑)では「お作法」と言われますが、学部ではレポートでも論文でも、「事実」を分析して「意見」を展開する。その「事実」は出来る限り客観性を帯びていること。自らの体験は論文の問題意識にするのは良いですが、それだけで論じては自己流になってしまいます。こうした「作法の基本中の基本」論文と呼ぶ限りは整っていて欲しいものです。もっと具体的にいうと「数字」と「固有名詞」を必ず使うことです。

他者評価
そもそもレポートも論文も、自分ために書くのではなく、他者に見て貰うためのものです。社会に提言する意識で書くものであって、恥ずかしくて見せられない、という程度の文章ならNGです。しかしながら、他者評価を意識していない(具体的に言うと先行研究の調査をしていない)学生ほど、独善的な「自分らしさ」に傾きます。これは初中等教育で、相対評価を受けてこなかったからかもしれません。


独創性
論文の正統的な教本には「独創性」が求められると書いてありますが、これに囚われすぎると却って書けなくなります。そもそも今の学問はどんどん知見が増えて分野の裾野の広すぎるので、学部生では革新的な提言は難しいでしょう。「独創性」を意識することは大事ですが、その程度については気負いすぎるとまた自己流(独善性)になります。それには、上述の先行研究(就活なら他者の自己PR内容)に当たってみれば、独創性がわかってきます。逆に、他者を見ると独創性(自分らしさ)が出なくなると考える学生が多いように見えます。

という訳で、良い論文を書きたい気持ちは分かりますが、まずは運転の上手いドライバーではなく、交通ルールを守って安全運転ができるドライバーになれば良いと思います。学部の卒論はA級ライセンスではなく単なる運転免許で、路上(社会)に出てから上手い運転ができるようになれば良いのです。

就活のエントリーシートも、抜きんでて光るモノを目指すよりは、「この学生は基本はできているな、面接に呼んでみよう」と思われれば良いのですから。論文でもレポートでも原稿でも仕事でも、最高を目指したいけれど、現実にはがあり、未完成の意識でリリースすることが多いでしょう。でも、それはゴールではなく、スタート地点だと思えば踏ん切りもつくと思います。