第189号:採用担当者と学生の認識のズレ

この時期は、企業の採用担当者が来季(2012年卒)向けの採用戦略を煮詰めているところですが、大学職員の皆さんも今春の学生の就職支援活動のレビューを行い、今後の対策や方針を考える時期なのでしょう。先日、大学職業指導研究会に招かれ、パネルディスカッションにて採用担当者としての意見を述べて参りました。第三分科会という女子大学生の支援についてのグループで、サブタイトルに「結果につなげる学生支援のあり方」と付けられていることからも、今春の就職状況の厳しさが察せられました。

私の他に大学職員、公的職業支援の方が登壇されましたが、パネルディスカッションに先立ち、3つの異なるセクターからそれぞれ短い講演を行いました。私は採用担当者の視点から、面接の場面で感じる「採用担当者と学生の認識のズレ」について、以下のような点をいくつか指摘して参りました。

・自己PRと志望動機のズレ

多くの学生はサークルやバイトの体験談から自己PRをまとめますが、それが志望動機をつながっていないことが非常に多いです。以前も指摘したとおり、今はコンピテンシー面接が主流で志望動機よりも行動事実を中心に聴かれる影響かもしれません。しかし自己PRを聴いていて(特に女子学生では)、「それは何のために話しているのか?」「自分の就きたい仕事についてどう活かせると考えているのか?」と思わされることが多いです。どんなに力を入れたアルバイト経験でも、それが非正規社員の視点から出ていなければ、採用するわけにはいきません。

私は、こうした認識のズレの原因は、企業や仕事の認識不足だと思っています。もっと言うと、業界・企業研究をろくにやらずに、つまり目標を定めることなく自己PRを考えているところです。皆さんの大学での就職ガイダンスでも、最初の回に「まずは自己分析から始めましょう!」と指導されておりませんか?それはもしかすると非常に危険なことかもしれません。

これからの3年生向けの就職ガイダンスで、改めて伝えて戴きたいと思うのは、「自分という商品」の販売方法をしっかり考える視点、ビジネス・センスです。採用面接は、応募者の相談にのるキャリア・カウンセリングではありません。自分という商品は、その企業にとってどれだけ魅力があり、投資価値があるかを売り込む場です。それは、他者と比べてどれだけ競争力があるのか、何処にもっていけば売れる可能性が高くなるのか、どうPRすれば良さが分かって貰えるのか、そうした基本的な知識を最初にしっかり身に付けて欲しいと思います。結果のでない多くの女子学生を見ていると、こうした点が憧れやイメージで始まっており、本番の面接にぶつかってから戸惑っている方が殆どです。

就職活動は、若者にとって、アルバイトではない本当に「最初の仕事」の第一歩なのです。仕事は大学を卒業して就職してから始まると思っていては、この厳しい時代を乗り越えては行けません。(逆に、こうしたことを踏まえて活動している学生はちゃんと内定を得ています。)

もっとも、女子学生の場合、こうしたことをアタマでわかっていても、行動に出ない学生が非常に多く、それは認識のズレの次の課題です。私も授業に就職指導に日々、苦労しており、そうした学生の認識を変え、更に如何に動かすかに悪戦苦闘している毎日です。

第188号:学生に求められるリーダーシップとチームワーク

企業の求める人材像が明確ではない、企業は採用選考基準を明らかにすべきだ、ということは各方面からよく言われることです。企業が無数にあることや、同じ企業であっても時期や経営状況や採用担当者によって選考基準が変動することなどがその原因でしょうが、最近の企業の採用選考手法を良く見てみると、おおまかな企業の求める人材像というのは浮かび上がってきます。

 

例えば、ここ数年の採用選考手法でもっとも顕著な傾向はグループ・ワークの導入でしょう。これは数年前から流行になってきましたが、リーマンショックを境に企業の位置づけが変わってきています。景気の良かった以前は、業界・企業理解を進めるためのシミュレーション・ゲーム的なものが多く、学生の就職活動支援や広報活動的なものが主流でした。しかしその後は、大きく変わり、評価・選考的な色合いがドンドン濃くなってきました。

特に不況による応募者の急増により、グループ・ディスカッションも、以前は6人の1グループにつき選考者が2名で時間も50分間程度で行ったのに対し、最近では5グループ(30人)を2名の選考者で30分間で行うという例も出てきています。これは明らかに採用効率の向上を狙ったものですね。

こうしたグループ・ワークになってくると選考もラフにならざるをえませんが、グループ・ワークでの選考基準である、リーダーシップ(自主性)とチームワーク(組織内行動特性)は比較的判断しやすいです。面接と違って、応募者を相対的に評価できますし、選考者は観察に集中できます。グループ・ワークで最初に不合格にするのは、頓珍漢な発言をする学生よりも、無反応・受け身の応募者です。

 

このリーダーシップとチームワークですが、今の学生のコミュニケーション力を見ていると、ますます低下しているように感じます。この二つの資質は、授業においてもハッキリ見られるもので、誰でも経験すれば確実に向上するものですが、逆に未経験の学生が就職ガイダンス等の解説だけで上達するようなものではありません。授業、ゼミ活動、サークル活動、アルバイト等、リーダーシップとチームワークを体験できる場ならば何処でも良いのですが、実体験が必須です。しかしながら、今の学生はそうした体験機会が減少し、「緩い絆」の小規模な交友関係が増えている様です。果たして、そうしたものを評価してくれる企業はあるでしょうか?

つまり、いまの採用選考手法でシビアに求められてきたのは、自己分析などの就職活動の成果ではなく、大学生としての充実したキャンパスライフを過ごしたかどうかです。これはコンピテンシー面接で行動事実(成果)が問われるのも同じです。採用選考は改めて学生の本質を問うようになってきたのですね。

 

さて、私の属する法政大学大学院で、こうした企業や社会の変化の中で、どんなリーダーシップやチームワークが求められるのか、人事部はどう支援するべきなのか、どんな学生生活が評価されるのかを考えるシンポジウムを開催致します。ご関心の有る方はどうぞお運び下さい。意見交換いたしましょう!

 

▼参考URL:7月17日(土)法政大学大学院 政策創造研究科 無料シンポジウム

『変革の時代におけるリーダーシップとキャリア開発

~社会人・企業人事部・大学生の課題と挑戦~』

http://chiikizukuri.gr.jp/blog/2010/07/post-43.html