第272号:就職活動と大学成績

先月、日本経済新聞の一面を飾った記事に、就職活動(採用選考)における大学成績の扱い方がありました。12月の就職活動が本格的になる時期にタイムリーな報道(広報?)だと思って静観注視してきましたが、扱われ方が落ち着いてきたようです。

 

本件のニュースタイトルを並べてみると面白いです。

「就活、激変! 成績を問う企業が続出する理由」東洋経済オンライン(11月)

「採用、再び成績重視 三菱商事や富士通など15社」日経新聞(12月)

「採用基準が迷走する理由とは?」ハフィントンポスト(1月)

「オールAでも不満? 成績重視する企業のホンネ」日経新聞(1月)

 

ご興味有る方は、各ニュースタイトルを検索してみて下さい。昨年末は、多くの企業が採用選考に大学成績を重視することになったと盛り上がっておりましたが、年をこえてみると、ちょっと待てそうでもないぞ、となり、最近はやはり(日本では)大学成績だけではないだろう、という流れがみえます。

 

私も身近な企業採用担当者数十人に尋ねてみましたが、殆どの企業は「大学成績は見るけど特別扱いはしない」との回答でした。これは前々回にお伝えした「採用活動に関する大学との共同研究-7」と同じことです(文系採用に限ります)。採用担当者は、学業は軽視していませんが、学生も自ら話さないし、特段、質問していませんでした。

 

しかし一方で、採用活動を知らない一般社会人の方(これは就活学生とその親御さんの受け止め方と同じでしょう)に尋ねてみると、「大学成績が見直されるんだって?今の学生は大変だね」との認知でした。大手企業15社が、某社の大学成績情報を採用しただけで、これだけのインパクトを与えるとは、流石に日経新聞の一面です。

 

大学成績を企業が重視するのはどういうことなのか?この大きなテーマの良し悪しは、この短いコラムでは語りきれませんが、近づける努力は必要なことでしょう。その際に大切なことは、企業が大学の授業を評価する(知ろうとする)だけではなく、大学も企業の求める能力を知り、大学の知見をもって解き明かそうとする努力です。

よく人事部が言う抽象的な「求める人材像」の明確化などではありません。人事の向こうにある働く現場の課題に、大学の力で取り組もうとすることです。今、多くの大学が取り組んでいるPBLは、その有効な手段になって欲しいですし、それが採用活動(就職活動)につながれば良いと思います。

 

ビジネスコンテストなどをやる場合でも、学生の単なる思いつき発表会ではなく、仮説をたてて、実地見学・統計調査・質問調査・サンプル作成・試行等を行って検証した「企画」にすることで、そのベースになる「統計学」「心理学」「経営学」「経済学」等の有効性を学生に教えることができます。それが学習意欲の向上につながり、大学成績の向上につながり、最終的に企業に納得させられたら良いですね。このような大学と企業の関係性の中に、大学成績のあり方が見えてくるのではと思います。

第271号:使い回しコピーは指導のチャンス

冬期休暇が終わり、大学も期末試験の時期になりました。コピーマシンの前には学生が行列をなし、友人のノートをコピーしまくっています。試験前の風物詩といえる後景ですが、授業のレポートでも「使い回し」を行う学生がたまにおります。きっとそうした学生は、企業のエントリーシートでも行っているのでしょうが、成績評価でも採用選考でも、あまり良い結果は出ないでしょう。

 

私のシラバスでは、15回の授業のうち3回欠席すると成績評価対象外になります。健康上の理由、アルバイト、就職活動だろうが、区別はしていません。しかし欠席した事情によっては、1回分だけレポートでの穴埋めを許すことにしています。(3回の欠席の場合、レポートを出せば2回欠席の扱いで評価対象になります。)

レポートのテーマは、以下の中から選ばせることが多いです。

1.欠席した理由(および欠席した日に考えたこと)

2.私のキャンパスライフとキャリア

3.自由テーマ

 

採点基準は、授業で説明しているアカデミックスキル(論理的記述)で書かれているかと、内容が授業とどのように関連づけられているかですが、上記のテーマを出した場合、期末試験等の繁忙な時期ですと、3の自由テーマを選ぶ学生が増えてきます。学生は「自由テーマ」なら何を書いても良いだろうと安易に思い、上記の採点基準をつい忘れてしまうのでしょう。結果、書き直し(不合格)になるケースも多いです。

つい先日も、締切日ギリギリに提出されたレポートで、全く私の授業とは関係のない内容のものがありました。当初は提出先を間違えたのかと思いましたが、学生に確認してみると「自由テーマだから何でも良いと思った。それで単位を貰ったこともある。」とのこと。しかし、私は受理せず再提出を求めました。レポートの使い回しは認められませんから。

 

こんな時、学生に助け船を出すことがあります。同じレポートをそのまま出すのではなく、そのレポートをデータ(材料)と扱って、私の授業や自分自身の能力開発(キャリア)につなげる書き方をする、つまり分析と考察を書き加えることです。これは、就職活動で、自分の体験してきた事実(データ)をどのように分析(自己PR)や、考察(結論⇒その企業への志望動機)につなげるのと同じことです。1つの体験から多くの知見を考え出すことです。

 

すべての授業でこのようなやり方が通じるとは思いませんが、少なくとも私の考えるキャリア教育では有効かつ社会でも通じます。それは大学での学びを社会や就活で活かせるようになるということで、「自由テーマに」はまった「使い回しコピー」の学生は絶好の指導チャンスです。

 

逆に応募者が山のように来る採用選考では、絶好の不合格ポイントです。就活のエントリーシートで、「ああ、これは何処の会社にも使えるワンパターンだな。締切日ギリギリにとりあえず出してしまったんだな。」などと思われるようなものを書かせてはいけません。「自由」は難しいけど、ちゃんと理解して、やり甲斐があるものとして取り組める若者に育てなければいけませんね。