第216号:戻ってきたオフシーズン

台風水害で影響のある方々にはお見舞いを申し上げます。大学関係者の皆様におかれては、学生の通学や授業の実施について神経を尖らせていることと思います。

 

今年の自然災害は歴史に残る大きなものとなってしまいましたが、企業の採用活動についても今年は大きな転換期となります。倫理憲章の設定による3年生(2013卒)向けの採用活動の見直しは明らかで、私の本業の採用コンサルティングにお伺いしても、採用担当者の方々は12月からのロケットダッシュ・スタートの準備に余念がありません。既に12月以降は春までスケジュールがぎっしり入っておられます。

 

その反面、10~11月は何をしたら良いでしょう?という相談も多いです。表だった動きはできないけれど、何もしないのも落ち着かず、何かできないか?という悩みです。リクルーターや流行のソーシャルメディアでアンダーグラウンドの採用活動を進めている企業もありますが、私はこれを機会に採用担当者がオフシーズンになってしまえば良いと思っています。実際、1990年代の半ば頃まで、採用担当者は7~9月は仕事が少なくて毎日定時に帰宅できました。10月頃から広告媒体や採用DMの準備などが始まると一気に忙しくなり、人事部内の季節労働者と言われていたものです。

 

ところがITメディアの登場によって、Webサイト対応が始まり、エントリーシートが始まり、採用インターンシップが始まり、早期化がどんどん進み、その結果、採用担当者は1年中多忙となりオフシーズンを失ってしまいました。そして、何かしていないと落ち着かない精神状態になってしまったわけです。元々、(採用)広報活動というのは、ここまでやれば大丈夫というゴールは見えづらいもので、学生の悩みである「何社回れば良いのですか?」という心理と似ています。

 

しかし、採用活動も就職活動も長ければ良いというものでもありません。加熱した仕事を続けていると、この仕事をやっていて良いのだろうか?という重要な問題を考える機会を失います。これはどんな仕事でも同じでしょう。流行のゲームに興じ過ぎる若者が、夢中に続けている(続けさせられている)ことに気づかず、無思考状態になり、考える力や習慣を失っていくのも同様です。

 

活動シーズンが短いと就職できない学生が出るという人も居りますが、私の経験からすると、決まる人は早く内定するし、決まらない人は(同じことを)いくらやっても、根本的なところを変えないと内定は出ません。だからこそ、採用担当者も大学も学生も、今年を機会に就職活動のオフシーズンを取り戻し、冷静になって考えるようになって欲しいと思います。

 

自然災害は如何ともし難いものですが、若者を育てる環境破壊は人災です。高い理念と深い人智を持ってすれば、必ず立て直すことができると思います。

 

 

第215号:保護者の就職支援スタンス

最近は大学の保護者会の講演に招かれる機会が増えてきました。ご依頼内容は何処の大学でもほぼ同じで、「企業の求める人材像」「応募学生の傾向」「面接に臨む心構え」等が中心です。採用面接をしていると、良くも悪くも「親の顔が見たい」と思うことがしばしばありますが、まさかそうした機会が本当に訪れるとは思いませんでした。採用担当者はいまや親の教育成果を評価させられているのかもしれません。

講演では更に、「親としての就職支援」ということも依頼されることが多いです。しかし、これはなかなか難しいテーマです。というのは、採用担当者はエントリーシートの評価・採点はできても、添削はできないのと同じで、目の前の学生の人物評価はできても、どうすれば内定するかという答えなど持ってはおりません。ましてや応募学生以上に複雑多様な家族関係についてコメントするなど畏れ多いことです。同じコメントで、ある親御さんは満足したのに、ある親御さんは怒るということもありますし。(一歩間違えればモンスター化です。)

とはいえ、過保護にすると言うのではなく、若者の自立に親の支援というものが今まで以上に必要になった時代だというのは間違いようです。社会が高度に進んだ国家では人間の成熟(独り立ち)は遅れます。世の中が高度・複雑になるほど、求められる知識やスキルが多くなるのですから当然で、先進国には共通して見られる現象です。しかし、若者の自立支援とは、学生の成人としての自立を妨げるものであってはなりません。環境を与える、整えるということが、逆に学生の自立を妨げている可能性がないか気をつけたいところです。

具体的な例をあげましょう。残念ながら私には子供がおりませんので、大学授業の中で親の成すべきことを考えさせられた例をひとつ紹介します。授業において私語をする学生の問題です。私の授業では私語を許しませんので、講義をしっかり聴きたい学生には授業評価アンケートでも幸いながら好評です。私語や爆睡する学生を教室から追い出したこともありますので、直接学生からも「良かったです!」「他の先生は放置状態なんです。」と感謝されることもあります。それを聞き、最初は私も悦に入っておりましたが、今は「ちょっと待てよ」と考え直しております。

というのは、こうした静かな授業環境を望む学生は、往々にして真面目で成績優秀な人物です。しかしその反面、タフさに欠ける、自分の環境を自分で整える力に欠けている可能性があります。本当に望ましいのは、もし周りで私語をして迷惑な学生が居た場合、教師や授業評価アンケートに書き込むのではなく、直接その場で、その学生に注意できる学生のはずです。これは、公共の交通機関で高齢者に自分の席を譲るというのと同じ感覚ではないでしょうか。(流石に電車の中で騒ぐ乗客には、相手をよく見てから注意した方が良いご時世ですが。)

与えた環境の中で、子供に自立のチャレンジをさせるのは、親にとっても大変な勇気のいることだとは思いますが、保護者の就職支援についても、まずはこうした本当の自立について親のスタンスを見直して貰うところが最初ではないかと思います。