第84号:模擬面接でわかる自己分析違い

今年も大学や学生サークルからの模擬面接に数多く呼ばれております。招かれる時期がだんだんと早くなってきているせいなのか、まだとても本番面接まで行えるレベルではありませんが、最近、目についてきたのは自己分析の「不足」ではなく「違い」です。

模擬面接の前に自己分析を行った方が良いのは常識ですが、自分の価値観・判断基準を知るための自己分析(内側の自己分析)だけで終わってしまい、“自分を企業に売り込むための情報を整理する”自己分析(外側の自己分析)になっていない学生が本当に多いです。モノヅクリに例えれば、前者は素材を集めてくる工程で、後者は素材を加工する工程です。採用担当者が求めるのは当然ながら後者です。前者だけではどんな商品かわからないので購入する(採用する)ことはできません。

自分自身の新人営業マン時代の体験で恐縮ですが、当時、ベテランの上司からよく言われた言葉があります。

製品を売るな!商品を売れ!」

当時はその意味がすぐにわからなかったのですが、なんとか一人前の営業マンになった時その意味がわかりました。「製品」というのは工場から出たばかりの“生の”ままです。それをそのまま売る(単に価格や性能だけを説明する)のではなく、それを購入するお客様に合わせて“売り方”を加えるということです。私の扱っていた半導体という電子部品は複雑な高機能製品で、お客様によって使い方がまちまちなのです。ですから売り込むお客様を事前に調べてどんな使い方をしたら良いか、競合製品と何処がどの位優れているか(または弱い点をどうカバーするか)、を十分におさえておかないとなかなか購入を決めて戴けません。

電子部品でさえそうなのですから、更に複雑で使い方の難しい人間という製品を買って貰うためにはちゃんと素材を加工して、“商品”にしないといけません。最近は自己分析をサポートしてくれる有料セミナーもありますが、内側の自己分析だけでなく外側の自己分析まで行って、ちゃんと自分自身を顧客に魅力ある“商品”にまで仕上げてきて欲しいと思います。

どうも今の学生は自分を売り込む“営業活動”が苦手なようです。製品のままで誰かが買ってくれるのを待っているのではなかなか売れません。就職活動は自分自身を企業に買って貰う営業活動であり、しかも他者に代行して貰うわけにはいきません。ビジネスの第一歩であることをちゃんと理解してくれたなら、面接の場で話す内容がきっと変わってくると思います。

補足:冒頭で「自己分析違い」と述べておりますが、「製品」を「商品」にするという意味ならば「自己分析不足」という言葉でも構いません。しかし、今の学生に「自己分析不足」という言葉を伝えるとまたまた内側に入ってしまうことがありますので、敢えて「自己分析違い」という言葉にしております。

 

第83号:大学入試に学ぶ採用活動

期末試験が終わったらすぐに大学入試と就職課の方々もきっとご多忙を極めている頃と推察致します。比較的小規模な大学では職員が一丸となって対応しなければならないことでしょう。企業でも採用シーズンになると一般社員も企業セミナーや面接官に調達に苦労するあたり、大学就職課と企業採用担当者は本当に似ている業務だと思います。大学入試も今はAO入試の導入による多様化が進んでおりますが、その選考方法も企業の採用選考手法と共通するものが多く学ぶところが多いです。

「自己推薦方式」「プレゼンテーション方式」「セミナー方式」「課題論文方式」・・・、大学出願者を多様な選考基準で測定しようという試みは企業の採用選考方法を考える際にとても参考になります。大学と企業とどちらが早いのかわかりませんが、企業にも「(理工系中心の)推薦選考」「プレゼンテーション面接」「グループ・ディスカッション面接」「ドラフト型面接」「論文審査」は広く導入されており、流行のAO入試も出願条件の内容を見ると企業で大流行のコンピテンシー面接と同じく高校時代の行動実績(事実・成果)を重視していますね。

このように相似点の多い大学入試と企業採用選考ですが、応募者の形成方法については大学の方が一歩先を行っていると感じることがあります。つい先日、関西学院大学が協定高校に対して「関学クラス」を設置してクラス全員が関学大に進学できるというニュースが話題になりました。関学大からは教員も派遣されて面倒をみてくれるそうです。これを見た企業採用担当者の中には是非取り組んでみたいと思った人も居ることでしょうが、マスコミからは「青田買いだ!」と叩かれそうです。そのせいではないですが、ご存知の通り大企業の場合はクラス全員どころか学校を創設して学校丸ごと採用しようとするところも出てきていますね。

少子化の時代になったいま、企業の人材調達の考え方も、「採用してから能力開発へ」から「能力開発してから採用へ」という方向に向かうと思います。「農耕型採用(採用してから能力開発)」から「養殖型採用(能力開発してから採用へ)」と向かう流れです。上記の関学大の方法や旧来の入社を前提とした奨学金制度などはまさに養殖型採用で、これからいろいろな形で企業が大学教育に関わってくることでしょう。

(企業にはもう一つ中途採用に適用される「狩猟型採用(能力開発された人を採用)」というのもありますが、これは大学では編入学の受け入れということになるので、なかなか難しいと思います。多くの企業は「養殖型採用」より「狩猟型採用」を選びますが、人材の流動化が低い日本では供給不足になっていて恒常的な求人難が続いています。)

さて皆さんの大学の入試はどんな結果が出ることでしょう。大学の入試方法の進化も参考になりますが、辞退者の欠員補充はどうするかも興味津々です。採用面接を行いながら横目で大学入試状況を見ているこの頃です。