第193号:就職課職員のキャリア

大学の後期授業が開講してきましたね。企業の採用担当者もいよいよ始動です。日本企業の会計年度は4月スタートが多いですが、採用の年間の仕事は10月の広報活動から開始という感じです。(今は夏インターンシップ等が入ってきたので7月スタートになってきましたが・・・。)

こうした期の切れ目には人事異動も多く、夏の間に仕込んだ広報ツールや大学訪問スケジュールをいざ実行と思いきや、練りに練った採用戦略を後任の方に渡して別の部署に異動せざるをえないこともあります。皆さんの就職課の職員についても似たようなことはありませんか?なかなか心残りではありますが、採用や就職課の仕事で得られるキャリアは他の部署でも使えるものが多いです。

 

採用担当者と就職課職員の職場は、以下のような人材育成にとても良い環境がある点が似ていると私は思っています。

・対外的な折衝が多く、大学外部との交渉力が身につく

・臨機応変の対応が必要なので、状況対応力、忍耐力、根性がつく

・資料、統計からの客観的データで判断する分析力がつく

・大学の最終的な役割(社会の期待に応える有望な人材の輩出)が意識、体感できる

・学生から感謝されてやり甲斐がある(苦労の方が多いかもしれませんが)

こうした経験は他の部署でも可能でしょうが、対内・対外の両方のコミュニケーション力がつくというのは就職課ならではで、本人のキャリアだけでなく大学にとっても大きな財産ではないかと思います。

 

先日、とある大学の講演で、就職2年目の若い職員の方に会いました。卒業してすぐ母校に就職したそうで、新卒ながら就職課という外部と接する部署に配属されただけあり、しっかりした若者でした。おそらく彼も数年後には大学の人事ローテーションを経ながらプロの職員として成長していくのでしょう。これは企業の人事も同じで、新卒採用の人材は異動によっていくつかの部署を経験された方が良いと思います。よほど高度な専門性を大学時代に習得していない限り、特定分野のスペシャリストになるよりは、各部署を経てジェネラリストとしてスタートした方が人材として大成することでしょう。

 

しかし、10年以上働いた後、または中途採用の方の場合は、ある程度本人のキャリアを配慮した働き方(具体的に言えば固定化)を配慮すべきではないかと思います。私はそれで(人事部門から異動を言い渡された時に)会社を辞めましたし、たまに異動内示を受けた大学就職課の方が就職コンサルタントとして転職したいという相談に来られる方も居られます。そこまで思い切られるのは珍しいとは思いますが、確かなことは、ある程度の時間を経て身についたキャリアはその人のアイデンティティになっているということであり、大学人事もそろそろそうした点を考慮に入れるべきではなかということです。(企業はもう20年くらい前から人事制度を変えてきています。)

 

もっとも、異動対象となる人材を見ていると、やはり将来有望な方が多く、組織としての期待もあるのでしょうね。できる採用担当者が営業に抜擢されるというのは良くあるケースです。私も部下を引き抜かれたときは戦力面とメンタル面で辛かったですが、彼の成功と更なる成長を祈って見送りました。部下は私の自慢であり、誇りですから、企業の中に採用の仕事を理解してくれている人材が広がることを祈りながら。就職戦線開戦前夜ですが、皆様のご健闘をお祈りいたします。

第192号:卒業3年後まで新卒扱いだって!?

先日の新聞で「大卒後3年は新卒扱いを」という提言を日本学術会議がまとめたという記事を見て、学術会議とあろうものが、そのような単純不毛な提言をするとは・・・と唖然と致しました。念のため、原典に当たってみたところ、確かに最終的な提案にはそのような内容は書かれておりますが、全体(かなりのボリュームです)を見てみると、今回の回答書はなかなか良く書かれたものだとわかりました。マスコミの単純な言説に惑わされてはいけませんね。(原典にあたるというのは大学で学んだ社会で通用する実力です。)

 

「大卒後3年は新卒扱いを」という記事は、今回の回答書がまとまる前(3月)にも報告書案として報道されておりましたが、多くの採用担当者からは「またまた自己改革を棚に上げた学者さんの企業への要求か」と思われたのではないかと思います。しかしながら、今回の回答書では大学・企業・学生の課題をかなり客観的かつ現実的にまとめていると思います。「戦後の経済社会の構造的な変化からその将来展望を踏まえて、なおかつ現在の就職活動と採用活動の実態まで含めて論じた例は、学術会議においてはもちろんのこと、他の団体を見渡しても今回が初めて試みではないかと思われる。」と自負しているのも間違いないでしょう。そもそも、この回答書のタイトルが「大学教育の分野別保証の在り方について」という自己批判的なものなのですから、報道の中心が「大卒後3年は新卒扱いを」と書く方が理解不足です。この回答書の中では、そうした企業への要求や規制は現実的でないことも、大卒後3年位は大学側の就職支援が必要であるということもちゃんと書かれています。

 

しかし、百歩譲って採用担当者が「大卒後3年は新卒扱いを」という提言を受け入れるためには、かつての受験戦争時代の浪人生のように、若者は時間が経てば何らかの形で成長・学習するという前提が必要です。企業は基本的に営利団体なのですから福祉や社会貢献のために雇用を行うことは、よほど余裕のある時代にしかありえません。政治家も「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と訴えますが、雇用政策が経済を盛り上げることはまずありえません。事業見通しが未定のままに、まず人材(それも即戦力にならない新卒)を雇用してから考えるという経営者が居たら、採用担当者は不況でも仕事があって嬉しい(怖い)です。話は逆で、景気の良い企業はいつも人手不足で雇用は自然に生まれています。

 

せっかく力の入った回答書がまとまったのですから、マスコミの企業批判や政治の道具にして欲しくはないものです。この回答書がどのような形で政策になってくるのか、注意深くみていきたいと思います。採用担当者だって、大卒後3年間成長し続ける人材なら大歓迎ですからね。

 

*参考URL

▼大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会:

http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/daigaku/

▼報告「大学教育の分野別質保証の在り方について」:

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-k100-1.pdf