第111号:就職受験証明書

大学での新学期が始まりました。昨年からキャリア教育の授業を担当している私ですが、就職シーズン真っ盛り!というのを目の当たりにしました。教室に履修届の出ている学生が半分しか居りません。逆に、出席している学生から「先生、××君は今日は就活で休むそうです。」との数多くの伝言。ああ、こうやって採用担当者は大学の学事日程に迷惑をかけているのですね・・・。

 

練りに練った4年生向けの新しいプログラムを、期待と気合いと少々の不安を抱えて望んだ講義初日でしたが、それらは上記の通り見事なカウンターパンチを貰ってしまいました。授業は毎回の積み重ねを考慮しながら組み立てて進んで参りますし、特に私の講義はグループ・ディスカッション等のワークショップがあるので受講生が半分では実施できません。参加している学生だけで進めることもできるのですが、それでは欠席した学生を取り残すことになりますし、今日出席している学生も来週は企業の採用面接に呼び出されているかもしれません。困ったものですね。結局、出席学生には「企業を取り巻く雇用環境と採用戦略の関係」という授業(?)を行ったら思いの外、大好評でしたが。

 

2回目の講義では、初日に欠席した学生が、「就職受験証明書」なる珍しい(?)書類を提出してきました。大学の就職課が用意した書式に受験企業の名称と担当者のサインが入っております。そういえば私が現場の採用担当者であったとき、それらしい書類にサインをした記憶があります。本来ならば、企業が大学の学事に重大な影響を出しているのですから、企業の方から「欠席お詫び状」でも出して欲しいものですが、恥ずかしながら当時はそういった配慮に欠けておりました。(勿論、応募学生には「授業と選考がぶつかったら遠慮無く言って下さい。日程を調整します。」とは伝えておりましたが。)立場が変わって新米教員としては、これをどう受け止めて良いものか悩みます。

 

つい先日、今シーズンの求人倍率が発表になり、大企業と中小企業の倍率格差はますます大きくなりましたが、過去最高の売り手市場になっております。これからしばらくは学生(大学)の立場が強いので、大学側から企業に採用活動の是正変革を要求するのに良い時期です。教育改革に匹敵するほどの重要なことだと思います。

 

しかし、採用担当者に休日出勤、残業での面接日程のご依頼はどうぞご勘弁を。愛すべき採用担当者仲間は、もう過労死になりそうなほど働いておりますので。

第110号:就職支援とキャリア教育

新年度になりました。桜の季節に新入生を迎えるというのはやはり良いものですね。自然が新たな若者の旅立ちを祝福しているようです。私も昨年から大学非常勤講師として暖かく迎えられ、試行錯誤しながらキャリア教育に取り組んで参りましたが、この時期に改めて新入生に望むのは、現実を受け入れる勇気です。それこそがキャリア教育の第一歩であり、4年間のキャンパスライフと就職活動が成功するかどうかのキーになるでしょう。

 

この1年間、学生と触れ合って驚いたことは、意外と多くの学生が「自分はこの大学に望んで入ったのではない」と思い続けていたことです。大学受験に失敗したという意識ですが、入学したばかりならともかく、高学年になっても現実を受け入れることができずにネガティブな気持ちでキャンパスライフを過ごしているというのは驚きでした。経緯はどうあれ、この現実をどう良くするかと考えないのは、自分の時間を入学時で止めてしまうことです。失敗だったら失敗と認め、さてどうするかと考え始めれば、止まった時間が動き出し、失敗は成功のタネに変えられます。

 

就職活動でもこれは大事な能力なのです。自己分析をするときに学生が陥りがちな失敗は自分の過去を「客観的に分析」してしまうことです。企業の採用担当者が知りたいのは、そういった事実そのものではなく、そういった事実を踏まえて学生がどれだけ成長してきたか、です。つまり、採用担当者が求める自己分析は「主観的な意思」なのです。「分析」という言葉が良くないのかもしれませんね。私は自己分析とは、自分の過去の事実を現在の時間で見つめ直してその意味を読み解くことであり、更にそれをどう活かしていくか創造することだと思っています。だから自己分析とはクリエイティブな活動なのです。

 

『時計の針は元には戻らない、だが自らの意志で進めることはできる。』とはあるアニメのセリフですが、昨年の1年間の低学年キャリア教育では、学生にこういったものの考え方を教え、学生の時計の針を動かし、更に早く進めるように指導してきました。時計の針を動かし、有意義なキャンパスライフに自ら変えていくことが、就職活動で「もっとも力を入れたこと」をより大きなものにすることになるのです。

 

私は、就職支援が学生へのサービスであるの対し、キャリア教育はあくまで教育でありスタンスは異なるものと考えています。サービスは学生のニーズに合わせて提供するものであるのに対し、教育は(信念に基づき)学生に強いるものである、ということです。このことは教育職員の方々には釈迦に説法ですが、大切なことは学生がそれをちゃんと理解しているかどうかです。自主性は放っておいても育ちませんし、リーダーシップも役割が来なければ身に付きません。

 

多くの新入生を迎えるこの時期、改めて学生に勇気を伝える勇気をもって今年も頑張りたいと思います。それが学生生活の総括である就職活動を成功に導くと信じています。