第302号:大学生による採用活動プロデュース

政治の世界ではありませんが、企業の採用活動も粛々と進んでいるようです。現時点での2016年卒学生の内定率速報では4%程度で例年と同じ位ですが、今シーズンは学生も企業も「先が見えなくて不安だ」という声を耳にします。その不安を消すにはどうするか?それは未来を自分で創ってしまうことです。

 

私の授業でも就活中の受講生から「不安だ」との大合唱を聞かされるので、先日の授業で学生達に伝えました。「そんなに不安なら、どうすれば良いかを皆で考えてみたらどうだ?」というわけで彼らにグループ・ディスカッションをさせてみたところ、面白いアイデアが飛び出してきました。それは、企業の採用活動を自分たちでプロデュースしてしまおう、ということです。

 

彼らのアイデアの元は大学受験でした。内部進学や自己推薦入試等で大学受験が早く決まってしまえば気が楽だという発想で、いつ企業が採用活動をするのかわからないなら、自分たちの都合ではじめてしまえと考えました。大企業の採用担当者からは相手にされないかもしれませんが、倫理憲章に縛られていない企業で採用後ろ倒しに困惑している企業なら話しにのってくれるかもしれない、ということです。ちょうど大学受験にも指定校推薦があるように。

 

実は彼らの企画には布石があって、それはこの3月に終わった文科省のプロジェクト(産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業)です。この補助金事業で法政は、オリジナルのビデオ教材やアセスメントツールを開発して学生に試行してきました。これまでご紹介したように、一部の企業ではこれらを採用広報や内定者研修に活用して戴きました。時には大学の授業におこし戴いて学生とディスカッションを行って評価して戴いたりもしており、こうした経験が、学生のヒントになっています。

 

荒唐無稽な企画で企業に持ち込んでも一笑に付されてしまうかもしれませんが、私はそれでも構わないと思っています。開き直って行動している彼らは、もう不安ではなく未知の世界を自分たちで創造することを楽しんでいますから。不安というのは、仲間との共同作業によって消えていき、逆に期待というワクワク感に変えられ、その過程で精神的にも成長していきます。

 

「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ。」これはパーソナルコンピュータの父といわれる米国の計算機科学者のアラン・ケイが1971年に残した名言です。授業で私がよく学生に伝えている言葉ですが、逆に私も学生に見習ってみたいと思います。今年度の私の課題は、これまで培ってきたプロジェクトの資産を、広く学内外に展開することです。来月から始めるビデオ教材の研究会(新作ビデオ発表会)では、授業や就職支援での活用方法だけではなく、企業の研修や採用活動にも活用できることも視野にいれてみようと思います。皆さんもこの混沌とした今シーズンの不安を期待に変えていきませんか?

 

▼ご参考:5月8日(月)15:30~17:20 法政大学市ヶ谷キャンパス

ビデオ教材研究会(2015年度 第1回)

http://3dep.hosei.ac.jp/event/details/2015/04/22/id3729

第301号:元気な留年のススメ

大学が新年度に入り、1年で最も活気に溢れている時期ですね。そんなキャンパスでは卒業が出来なくて留年している学生もチラホラ見かけます。心なしか肩身が狭そうに見えたり、開き直って妙に明るかったりと表情は様々ですが、私は元気な留年生が増えたら大学はもっと面白くなるのではないかと思っています。採用担当者の声でよく耳にする「最近は個性的な学生が少なくなった」というものも少し解消できるのはないでしょうか。

 

個性的な学生が少なくなった理由には、以下のようなものが考えられます。

・画一的な非正規労働(アルバイト)に多くの学生が従事するようになった。

・ITの進展により、情報の伝搬速度が速まり受け売り現象が増えた。

・何でも用意されていて、創意工夫や失敗の経験が減った。

・浪人生が減って現役学生が増えた。

 

大学大衆化の時代になって、本来ならば学生は多様化していても不思議ではないのですが、残念ながら多様化したのは学力(それも下位の方向へ拡大)くらいで、行動や思考バターンは画一化が進んでいると感じます。私が大学に進学した頃は、全国各地からやってきた学生や、浪人していた学生と出会うことができ、同じ大学の同期なのにこんなにも考え方や習慣が違うのか!と新鮮な驚きがありました。

しかし現状は全国何処に行っても同じチェーンのスーパーやコンビニやカフェがあり、浪人生も減りました(学校基本調査で浪人率は、2013年度で12.4%、1985年度では38.5%)。つまり、空間的にも時間的にも今の大学生は多様化できなくなっているのです。

 

法政大学では、かつてこの多様化を意図的に作り出すことに挑戦したことがあります。10年ほど前のキャリアデザイン学部設立時に、入学生の20%を社会人にしようと募集をかけたのです。社会人と学生が同じ場で過ごし、学び、語り合うことによって、相互成長、多様な学びを狙ったのです。しかし残念ながら、社会人入学者は少数にとどまってしまいました。

 

こんな現状の中で、私のススメは積極的に留年すること。かつて浪人が珍しくなかったように、大学を元気に5年間過ごして卒業する学生が増えてきたら大学は面白くなると思います。就職留年だって良いです。日本の一般的な新卒採用が2浪まで許されるように、1留などは多目に見てくれます。欧米のように、卒業してから就活をするのは、今の日本ではあまり現実的ではありません。もし留年という言葉がどうしても気になるならば、社会人大学院のように、入学募集時から予め4年卒業コース、5年卒業コース、6年卒業コースと分けてしまうという手もあります。5年・6年コースの学生が途中で気が変わったら早期に(4年で)卒業できるようにすればなお良いでしょう。

 

新学期の熱気にうなされた夢物語のような話しをしましたが、こんな風に学生が多様化すると学生は多様化できるでしょうし、経済要因とか倫理憲章の変更とか外部的な環境変化にも柔軟に対応できる(卒業時期を自分で選べる)ような若者が増えてくるのではないかと思います。