第328号:採用活動の「旬」

鮎漁解禁(7月1日が多い)と聞けば、太公望ならずとも夏の訪れを感じワクワクするものでしょう。しかし、今年の就活については解禁日直前というのにあまり盛り上がっていないようです。既にマスコミで報じられているとおり、学生も企業も粛々とフライングをしていますから。

 

物事には何でも潮時やタイミングがあります。私は商社マン時代に一所懸命に営業活動を行っていましたが、初心者の頃は顧客にはそうした時期があるとは気づけませんでした。努力しても売れないのは自分の力量不足のせいだと思っていたのですが、タイミングを知らずに無駄な活動をしていたということが後からわかりました。

私が販売していた半導体はコンピューターや通信機器に使われる部品で、お客様は高い技術力をもったメーカーの開発者です。そして、このお客様の仕事には、材料を選んでいる時期、試作している時期、量産している時期等があります。このタイミング(選定時期)を上手く掴んで売り込めば、商談はまとまりやすいですが、材料の選定が終わってしまうと、どんなに売り込んでもチャンスは殆どありません。

 

このような状況にあるのが今の採用担当者です。春先からES(エントリーシート)等で形成した母集団の面談を続け、最終判断がすぐに出せるように仕込みを続けてきました。企業のタイミングは多様ですが、多くの大手企業は解禁日の6月1日に向けて選定を終了し、ここまで集めた学生が逃げないようにフォロー(面談)をしています。つまり、いま学生が売り込んでも(応募しても)、しばらくは手元に集めた材料(母集団)で手一杯なのです。

ですから、この時期に呼び出される機会がなかった学生は、ジタバタせずにちょっと自分のやり方を見直す時間にあてた方が良いでしょう。というのは、これまでは各社各様のタイミングでしたが、解禁日から全体が一つのタイミングに集約されます。6月の1週目で一気に結果が出て学生のホンネもわかり、内々定を出した企業の第一希望者実数がわかります。結果、想定外の辞退者が出てしまった企業は次の母集団形成に入り、再び選定時期が始まります。一方、学生側も、これまで結果が出ずにキープされてきた企業から最終選考不合格を言い渡されたり、第一希望に内々定を貰ったので複数内定を辞退したりしますので、これまた応募時期が盛んになります。

 

ところで、学生を採用するのに良い「旬」とはいつでしょう?旬はただのタイミングではありません。漁業でも農業でも生物には自然の旬があり、それは収穫物にもっとも脂がのって魅力的な時期です。就活をする学生の旬、企業から見てもっとも魅力的な時期はあるはずですが、現状の争奪戦は成熟だろうが未熟だろうが奪い合いの様相です。勿体ないのは、未成熟な状態の学生が能力不足な学生と混同されてしまうことです。これは企業にも学生にも不幸なことですね。

 

若者の成長は漁業や農業の収穫物ほどに均一ではありませんが、貴重な自然資源の枯渇を防ぎ、密漁を防いで多くの若者に一番脂がのった収穫時期に解禁日が設定されると良いですね。

 

 

第327号:言文不一致ESのススメ

江戸時代までは、話し言葉は口語体で書き言葉は文語体を用いていたが、明治時代になると夏目漱石や二葉亭四迷らによる言文一致運動が起きた・・・、というのを日本史で習いませんでしたか?元々、日本語は書き言葉と話し言葉は別々の発達をしてきたそうですが、ペンを取って手紙をしたためるよりメールやLINEで連絡を取るようになった現代では、若者の言葉はしっかり言文一致になってきたようです。そしてこの影響がエントリーシート(ES)の書き方に現れています。

ESの採点基準はいろいろありますが、例えば限られた文字数でできるだけ多くの情報を伝えるスキルを把握するには、数字、漢字、固有名詞を多用しているかを見れば良いです。また、無駄な描写をせず、できるだけ簡潔な表現をしていることが望ましいのですが、それには冒頭で述べた「話し言葉」と「書き言葉」の使い分けができているかで判断します。実際に私が見たESの例で見てみましょう。

▼学生の書いたES

「私の学生時代の1番エネルギーを注いだ経験はアルバイトです。私は、高校時代から苦手だった初対面の人とのコミュニケーションを少しでも克服しようと思い、あえてアルバイトは百貨店のテニスショップでの接客を選びました。最初はドキドキの連続でした。しかし、目標を持ってはじめた以上、逃げてはいけないと思い、誰よりもはやくお客さまに挨拶することを心がけ、取り組みました。 アルバイトを始めて2年以上になりますが、今ではコミュニケーションに対する苦手意識はなくなってきましたし、また、最近では店長から「2年前とは大きく変わったね。」と言われたことがとても嬉しく、自信にもなっています。」(283文字)

すらすらと読みやすいですが、それは文章が会話調の口語体だからです。確かに面白いのですが、無駄な表現が多く、文字数に比して読者が得られる有益な情報量(応募者の強み)は意外と少ないです。また、本人は頑張った経験なので是非書きたいのでしょうが「対人コミュニケーションが苦手」という表現を使うのもどうかと思います。読み方によってはやっと人並みになったのかな、とも捉えられかねません(どうせ書くなら「社会人にも通用するコミュニケーション力を身に付けたくて」とかすれば)。
これをシンプルに改訂してみたのが以下です。

▼改訂例

「大学入学後に百貨店のテニスショップでアルバイトを始め、2年以上頑張っています。接客業は初めてでしたが、誰よりも早くお客様に挨拶をすることを心がけ、店長から高く評価されるようになりました。」(93文字)

ちょっと無味乾燥ですね。でも、この学生の「能力」で採用担当者が得られる有益な情報はこれくらいです。文字数が半分以下になりましたので、更にまた別の能力について書けば当初のものより倍以上の情報を採用担当者に与えることができます。言い方を変えれば、当初の文章は面接の会話用して改訂例をESや履歴書の文書用使い分ければ良いのです。

ところが、学生の中には履歴書やESや面接の文章・文体が、全部同じの「超言文一致」の人がいます。何が原因かはわかりませんが、ツイッターやLINEでどんなに長時間呟いても、書くための訓練をしなければ文章力は向上しません。是非、メディア特性を活かした表現をして欲しいものです。