第15号:採用担当者とキャリアカウンセラー

昨年、キャリアカウンセラーのトレーニングを受けました。この資格の受講者の約6割が人材紹介・人材派遣のいわゆる人材ビジネスの方々ですが、中には大学・高校の進路指導担当の方、そして企業の採用担当者の方も居られます。もしかするとそれは大学生に対して最も優れたキャリアカウンセラーなのかもしれません。

採用担当者とキャリアカウンセラーの仕事は似て非なるものです。この二つの仕事の共通点は、対人コミュニケーションが求められ、アセスメント評価を行う点です。来訪された応募者のやりたいこと、描いているキャリアを的確に聴き取り、アセスメント・ツール(筆記試験等)によって適性・能力を測ります。話が苦手な応募者に対しては、話がしやすいように歩み寄ったり、場合によってはアドバイスを行うこともあります。一方、全く異なるのがその目的です。キャリアカウンセラーがクライアント(応募者)のために面談を行うのに対し、採用担当者はあくまで企業の採用目的のために面接を行います。キャリアカウンセラーはクライアントの感情・気持ちに対して最大限の注意を払って精神的な関係構築をはかり、クライアントのために最大限の努力をはかります。逆に採用担当者は、応募者の熱意を評価はしますが、応募者の感情にとらわれて私情を移入しては採用選考の公平性を欠いてしまいます。

先日、キャリアカウンセラーの資格をもった採用担当者の方と一緒に、ボランティアで就職活動中の大学生との面談を行いました。就業経験の無い大学生の場合、相談内容は内面にある心の問題よりも、未知の世界へのアプローチの仕方、つまり自分と社会の関わりをどうやって作るかという点が多いようです。そんな時、採用業務を経験しているキャリアカウンセラー、自社の現場を経験してきた採用担当者は自分の経験の中から非常に上手なアドバイスを行っていました。カウンセリングの中でもキャリアカウンセリングの難しい点は、このようなLMI(労働市場情報)の知識・経験が求められる点なのでしょう。キャリアカウンセリングでは指示的な言い方は避けますが、時間の限られた就職活動では学生の内面の課題をいち早く積極的な行動に移していくことが大事だと思います。

余談ながら、いつも採用選考という立場で学生に接する採用担当者は、知らない間に自分の態度が大きくなってしまうことがあります。そんな時、立場が180度変わるキャリアカウンセリングという仕事は採用担当者が忘れがちな心の謙虚さを思い出させてくれる効果もあるようです。

第14号:人材育成型採用活動

新年になり、各大学のみなさまにおかれましては、いよいよ就職活動支援の最盛期に入られる頃でしょう。今年も企業を取り巻く経済環境は厳しいと思われますが、企業の人材採用については手を抜くことなく、いろいろな試みが行なわれています。先日、新聞記事に大きく取り上げられた北海道大学と企業による「産学連携即戦力育成」という施策もそのひとつでしょう。

「即戦力」というものをどこまで学生に期待できるかは別として、採用した新卒人材を一日も早く戦力にするという考えから、できるだけ戦力に近い学生を採用する、という考えになってきているのは何処の企業でも同じです。とはいうものの、そういった人材と出会うことが難しくなっているならば、企業が入社前から育成してから採用するしかありません。

北大における試みは、いわゆる「寄付講座」の発展版になりますが、大学に民間で活躍した人材が入ることによって社会人のセカンドキャリアもできるし、結果的に大学と社会が近づくことになると思います。特にこのケースのようなIT業界では民間企業での技術革新が速く、企業の研究者を教育者として大学が取り込むことは意義が大きいでしょう。同じような試みが、理工系の分野だけではなく、社会系の分野においても増えてきて欲しいと思います。

これまで採用担当者の仕事は、ある意味、単調でワンパターンであり「季節労働」といわれておりましたが、そういった仕事はアウトソーシングにむかったりITで効率化され、今後はどの大学とどのようなリレーション作りをしていくか、という点に創意工夫を求められてくるでしょう。インターンシップのように企業が学生を受け入れる形、企業が学校へ人材を送り込んでいく形、はたまたトヨタ・中部電力・JR東海のように学校そのものを作ってしまう形、こういった人材育成を通じて採用活動につながるような仕組みを考えるのがこれからの人事採用担当者の仕事です。学校と社会の接点である、就職担当者と採用担当者がお互いに知恵を出しながら、有機的な関係を考える新しい1年になることを祈っております。本年も宜しくお願い致します。