第62号:「自己紹介」と「自己PR」

就職活動では、採用担当者がどうでも良いと思っていることに意外と悩んでいる学生が多いです。前回、模擬面接について書きましたが、参加学生から一番多かった質問は「『自己紹介』と『自己PR』は何が違うのですか?」でした。面接者は厳密にこの言葉を区別していませんし、面接者毎に定義が違いますから正解などないのですが、デジタル時代で単純にA=Bとの公式でつながらないと動けないのは今の学生の大きな傾向のようですね。

あまりに悩んで眠れそうもない学生が居たので、下記のようなアドバイスを伝えました。

「自己紹介」=口頭で伝える自分の名刺、インデックスのようなもの、1分程度。

「自己PR」=自己紹介で出した項目(インデックス)の具体例等をあげながら自分のアピールポイントを説明すること。長くても3分位まで。

ということで、もし面接者が「1分程度で自己紹介して下さい。」と言われたら、その企業で伝えたいこと(主な活動や長所等)を3件位あげてみる。

もし「3分位で自己紹介(自己PR)を・・・」と言われたら、上記のインデックス(自己紹介)から始めて詳細(自己PR)を付け加える。用意した内容を全部話す必要はなく「3件有りますが、特に××について述べます。」とその企業に一番適していそうな1件(自分が一番、その企業の採用担当者に売り込みたい点)を集中的に話しても構いません。

特に時間指定もなく「自己紹介(自己PR)して下さい」と言われたら臨機応変に判断して(どうもデジタル世代にはこれができないようですが・・・)、まずは1分位話してみて、面接者の反応を見ながら続けるかどうか判断すれば良いです。よく考えればわかることですが、初対面の人間に最初から3分間も話されたら、それだけで第一印象はあまり良くないでしょう。

一番、面接者が聞かされたくないのは、用意したことをテープのように話されることです。特に履歴書やエントリーシートのままに話されたら、面接者の心情は間違いなく「早く終わってくれ。」となっています。とはいうものの、就職活動の最初の段階では決められた文書を話すことから始める方がとりつきやすいのも確かです。早く「会話」としてそれを伝えられるようになって欲しいです。スポーツでも芸術でも基本の型の練習はつまらないですが、それを踏まえて応用ができて個性が出てきます。

とある週刊誌の記事に「内定とれる面接」という特集がありました。その中で超有名企業の採用担当者が、「志望動機・自己PRは聞かない。行動事実だけを話せばよい。それで会社の方が判断する。」と発言されておりました。この記事だけでは真意はわかりませんが、私には何とも学生を見下した書き方と映りました。背景には、確かに年々低下(超マニュアル化、生徒化)する大学生の実態があります。行動実績中心に質問するのが最近の面接の主流であり、採用担当者の判断のバラツキもなくなるでしょうが、肝心なのは行動実績を学生がどう捉えて今後に活かしていくかという点だと思います。それが志望動機と自己PRに繋がっていれば、何の問題もありません。私は過去の行動実績を本人がどう捉えているか、その見方や発見こそが良い自己PRと考えております。そんな志望動機や自己PRは是非、聴かせて戴きたいと考えています。

 

第61号:模擬面接参加は“とりあえず”思考?

採用担当者はこの時期ご縁のある大学に招かれて模擬面接の面接官もよく行います。昨年からProfessional Recruiters Clubで就職指導のお手伝いを引き受けている大学でも模擬面接を行いましたが、採用面接という特種な環境下でふつうに会話するというのはなかなか難しいことです。今回、参加して戴いた学生の一部の方は、以前にお会いしたこともあるのでふだんの会話でどれだけしゃべれるか、どれだけ良い人物かを知っているのですが、模擬面接では実力を発揮できない方が殆どです。

ふつう、企業の採用面接では以下の5段階で応募者の合否判定をしているでしょう。

レベル1:立ち居振る舞い(第一印象)

レベル2:話し方(敬語、積極性)

レベル3:話しの構成(論理的思考)

レベル4:話しの内容(実体験の難度、行動力、学習能力)

レベル5:人間的魅力(人間性、本人のもつ哲学)

今回の模擬面接で、レベル4まで会話が進められたのはごく少数でした。

思うように話せなかった学生が多かったのは、模擬面接の実施時期が昨年よりも1ヶ月ほど早かったせいかもしれません。企業の先行早期化に対応して大学内指導も早期化しているようですね。しかし、もっと気になったのは、学生の“とりあえず”思考です。模擬面接を受講するに際し、事前準備をしてからやってくる学生は少なく、まず体験してから考える、という学生が殆どです。そのため、せっかく採用担当者が腕まくりをして望んでも、たった1回の模擬面接ではこちらが指導したいレベルの「会話の構成・内容」まで行けることは少なく、それ以前の「入退室の立ち居振る舞い」「履歴書の書き方」「話し方」までで終わってしまうことが殆どです。

学生の“とりあえず”思考を生んでいる原因に思いを巡らせると、やはり情報過多社会、スピード社会という現代の世相が浮かびます。特に就職活動はそれが凝縮されているようです。企業は早期に、一時期に、大量に、学生への応募エントリー、セミナー参加を求めます。学生は企業が開催する就職セミナーに十分に調べていく間もなく、“とりあえず”参加して、その雰囲気や印象で応募するかどうかを決める。こんな構図を見ていると、採用担当者が学生の準備不足を嘆くどころか、企業の作る情報津波が“とりあえず”学生を生んでいると言っても良いかもしれません。

しかしながらこんな時代だからこそ、事前にしっかりと準備して就職活動に臨む学生が光ってくるのも確かなことですね。努力をする学生にとってはやりやすい、採用担当者にとっても見分けやすい、それが今の少数精鋭採用を生んでいるのかもしれません。