第411号:早期採用選考は、採用担当者の訓練

早くも秋学期も半分以上終え、学生の勉強の秋も集大成の時期に・・・、と言いたいところですが、今年度は異変が起きています。企業主体のインターンシップが、頻繁に開催され授業を欠席する3年生が急増しています。しかも、インターンシップという名ばかりの早期母集団形成の採用活動になっていますから。

経団連ルールがなくなった初年度ということで、想像はしておりましたが、これだけ授業で可視化されると悩ましくなります。私は複数の大学で非常勤講師や就職ガイダンス、就職相談員(キャリアカウンセラー)をやっていますが、高偏差値の有名大学ほどインターンシップへの勧誘が多くなっています。上位校の学生は、山の様な案内メールの取捨選択とスケジュール調整に追われていますが、中堅以下の学生は、何事もないように大学祭に夢中になっていたりします。

学生の秋学期履修登録授業出席にも大きな変化が出てきました。先輩からいろいろアドバイスを貰った学生等は、3年生の秋からインターンシップが増えることを聞いているので、私の授業の様に出席がうるさく授業外課題もある科目は避け、いわゆる「楽単」を中心しています。そうしたことを気にせず私の授業を履修した学生は、出席に苦労して(私は就活やインターンシップによる欠席は認めず、休んだ場合は補講やレポートを課します)、昨年度は殆どいなかったリタイア授業放棄)者が17%、更に出席日数が厳しそうな学生も17%出ています。おそらく30%は単位未修になるでしょう。

どんなに「勉強は学生の本分だ」、という懐かしい説教をしても効果はないでしょうし、企業の囲い込みもますます進むと思われます。最近の「名ばかりインターンシップ」では、終了後に学生に個別のメールが届き「貴方のインターンシップでの言動は有望だったので、内密に早期優遇の選考を案内します」と呼び込まれます。現実的にはインターンシップに参加しなくても、その企業への門が閉ざされたわけではありませんが、学生としては千載一遇の機会として飛びつきたいでしょう。

一方、企業側からすると、有名校の学生を早期選考する作業は、学歴フィルターも似ていますが、採用選考の業務を考える上ではどうしてもやりたくなります。というのは、今のネット時代の新卒採用方式では、どうしても採用選考開始時期が集中し、一気に応募者が来るので対応がこんなになるからです。インターネットでのコンサートチケット販売が開始日に応募が集中し、サーバーがパンクすることがあるのと同じです。

つまり企業の早期優遇選考は、応募者数の平準化という意味があるのです。そして、それは来たるべき(?)通年採用へ向かうプロセスといえるかもしれません。通年採用になると、応募者のキャリアに応じて企業の対応にも差が出てきます。即戦力の学生(日本では殆ど不可能だと思いますが)には、応募段階で早期に選考プロセスが汲まれ、更に面接の評価に応じて賃金や配属等の高処遇が決定されます。

世間では「新卒採用は時代遅れで通年採用に向かうべきだ」という言説が広まっていますが、そういう方々に中途採用と同じ通年採用で就職・転職したことがあるのか、本当の通年採用をやったことがあるのか?と問いたくなることがあります。その目線で見ると、今の早期囲い込み新卒採用しかやったことのない企業採用担当者(日本は中途採用の経験も転職もしたことのないピュアな採用担当者が意外と多い)の訓練になっているのではないでしょうか。全員が初心者ですから、学生も大学も企業も当分、混沌とした状態は続きそうです。

第410号:英語民間検定試験の導入延期と企業の語学力評価

大学入試改革の一環として進められてきた英語民間検定試験の導入が延期となりました。導入については各大学が判断に迷うなか、昨年7月には東大が成績提出を求めないと方針決定し、混迷を深めてきたことは周知のことです。ことの推移はさておき、英語民間検定試験は企業の採用選考基準として既に参考にされてきていますが、その評価については企業毎、職種毎に温度差があります。

女子大学での教え子にはCA志望者が多く、例年数多くの学生がES添削や模擬面接の相談にやってきます。皆様も実感されてきていると思いますが、ここ数年CAの採用選考基準が上がってきています。例年ならば内定水準と思われた学生が不合格になることが多くなり、その原因は英語の要求水準が上がっていることにありそうです。

もっとも、これは学生の言い分を聞いてのことなので、本当に英語力で落ちたかどうかはわかりません。企業が学生に採用選考不合格を伝えるには、筆記試験等の客観的基準の方が企業のイメージもわるくなりませんし、学生本人もその方が納得しやすいからです。

企業採用担当者が学生に欠けている能力を調べた調査では、2010年の経産省の大規模調査がよく引用されます。その要素の上位と下位を以下にあげました。(企業人事採用担当者2958人の回答)

▼企業が学生に対し、不足していると回答した能力要素上位

1位:主体性(20.4%)、2位:コミュニケーション力(19.0%)、3位:粘り強さ(15.3%)

▼企業が学生に対し、不足していると回答した能力要素下位

1位:簿記(0.1%)、2位:PCスキル(0.2%)、3位:TOEIC等の語学力(0.4%)

上記の通り、この調査では学生の語学力が不足している回答した採用担当者は殆どおりません。企業採用担当者の多くは語学力が大事だと言いますが、何故このような回答になるのでしょうか?それには、以下の理由があげられます。これらは他の下位要素である簿記PCスキルについても言えます。

1.企業毎に部署毎に使う頻度程度が異なる要素

2.企業に研修制度等があり、入社後または外部でも学べる要素

3.過去資格結果)よりも現在能力経緯)を重視する

つまり企業採用担当者は、語学力英語)は、配属部署・職種・業務等で、使用頻度が大きく異なる能力要素であり、もしそれが必要になったら入社後に学べば良いと考えているからです。実際、簿記PCスキル英語社内研修科目を持っていない大企業は皆無でしょうし、外部の英語民間検定試験で結果を出したら報奨金を出す企業もあります。

そして採用担当者がなにより重視するのは、英語の資格そのものではなく、英語学習過程において、どんな資質計画性忍耐力向上心等)を身につけたかです。それが採用担当者のよく言う「総合的な判断」「人物重視採用」の正体です。即戦力として英語能力を求める企業は、上記のCAの例や外資系企業の様に当社から募集要項に掲載してきます。

今回の事例では、英語能力評価の公平性が問題となりましたが、更に国語での記述式試験で同様な問題が起きないことを祈るばかりです。企業側としては、ES評価方法の他山の石として参考にさせて戴くかもしれませんが。