第21号:新人研修の風景から

企業の採用担当者には研修業務を兼務している方も多く、この時期はまさパニックともいえるような状況で仕事をされています。新入社員研修では基本的な社会人マナーから始めることが多いですが、先日、ある人事担当者からショッキングなことを伺いました。今の学生のコミュニケーション・スタイルを実感させられましたので、ご紹介したいと思います。

一般的なビジネス・マナーとして、お決まりの「電話応対」があります。初対面(電話なので初会話?)の社外の方に対して、頭を下げて「お世話になっています。」という言葉を自然に発するのはなかなか時間のかかるものですが、こういった挨拶を通じて社会の一員という自覚がだんだんと生まれてくるものです。ところが、ある会社の研修で、こういうことを言った新入社員がいました。

「自分にとって、電話というのは今までは携帯が中心で、未知の人と電話で話す経験がありませんでした。ビジネスでは、未知の人と電話で話さなければいけないんですね。」

最近の学生の傾向として、小集団での密なコミュニケーションが多いとは聞いておりましたが、社会人になっての電話が「未知との遭遇」とは・・・。今はこういう時代なのだ、と改めて思いましたが、「社会人としての常識」というものも、こちらの常識で捉えていてはいかんなあ、と考えさせられました。確かに日本では無言でもモノを買うことのできる便利な国ですが、新入社員も社会の中での自分の新たな居場所探しで大変ですね。

さてまた一方で、今年の学生の自己PRでは、自分でサークルを立ち上げた(何故かフットサルが多い)というものが多いようです。不思議なもので、学生の方々が個別に考えていても、何故かブームのように同じものになってしまうという傾向があります。学生としては、独創力、企画力・行動力のアピールにつなげたいようですが、既存のサークルに入るということが減っていて、自分の居心地の良い大きさの組織を気のあった仲間と作るという傾向は、上記の電話での「未知との遭遇」へとつながっていくような気がしてなりません。

第20号:米国の大学キャリアセンターの課題

先月末に、キャリアカウンセリングの資格認定団体のひとつであるJCDA(日本キャリア開発協会)のフォーラムを聴講してきました。とても盛況で、資格取得者、企業人事担当者、学校関係者等の多くの参加がありました。当日は、4名の研究者からの講演があり、その中でペンシルバニア州立大学のキャリアセンター長であるジャック・レイマン氏の講演のポイントをいくつかご紹介したいと思います。「新ミレニアムに向けたキャリア・サービスの緊急課題」ということで“アメリカ型モデル”として紹介されましたが、その内容は日本の大学と企業の今後のあり方に大きな示唆を与えてくれるものと思います。
(参考URL http://www.j-cda.org/cda_forum_2003/forum.html)

外資系企業の人事担当者として勤務していた頃に、米国大学のキャリアセンターにはとてもお世話になっていました。今回、紹介されたペンシルバニア州立大学のキャリアセンターはその規模も全米屈指の規模のものです。
(参考URL http://www.sa.psu.edu/career/)
しかし、彼らが今後の課題としているものは、日本の大学に求められるものと全く同じであろうと思います。また、これは採用担当者にとっても今後の大学との関係つくりの大きなヒントになりました。

●デジタル全盛時代からアナログ人間関係への見直し
「大教室での講演やコンピュータによる教育、email、Web、ビデオに中でますます人間関係は希薄になり、“人の声の届かない”体制に抵抗をもつ学生や卒業生が増えている。あらゆる仕事の場面で最も多く求められるのは対人スキルであって、技術・管理スキル・企業家精神ではないことを思い出すべきである。」

●学生はますます多様化するためこれまでの倍の労力がかかる
「学生のニーズも多様化し、特別なニーズを持つ集団への特別なキャリア開発プログラムを用意すべきである。」
(米国ではいわゆるマイノリティという移民者等をさしますが、日本ではフリーターとか企業への就職以外の多様な人生を目指す学生、と解して良いのではないでしょうか。)

●これまでの企業の人材採用はもはや時代遅れ
「共同学習やインターンシップ制度の実習プログラムを中心とした新しい就職支援体制を開発しなければならない。」
(米国でも意外とインターシップや寄付講座のような授業と密接になったプログラムは少ないということですね。短期間で判断する面接や筆記試験ではなく、大学内での講義に企業も深く関わっていく中で自然と学生も企業も出会えるシステムが必要だということなのでしょう。)

●同窓会の連携が最重要である
「卒業生の支援による協力体制を作り上げ、またその卒業生に対しても質の高い有料キャリア・サービスを行えるようにする。卒業生からの資金援助を受けるには、私たちの活動が適切で信頼されるようなデータを提供し、資金要求を正当化しなければならない。」
(卒業生へのサポートを、個人的な関係だけではなく、正式なサービスとして提供しようということですね。)

フォーラム終了後に講演者とお話し致しましたが、「見学はWelcomeなので、いつでもどうぞ。」とのことです。日本の就職部で新たなサービスで頭を悩まされている方は、一度、ご見学に行かれてはどうでしょうか?きっと未来の就職部のヒントが見つかるかと思います。