第361号:大学教育と就職指導をつなぐキャリア教育

「この秋は大学の就職セミナーに学生の集まりが今ひとつです。」と、先日、大学就職課職員の方から伺いました。昨年までは100人規模で集まった人気講座に数名の申込しかない日があるとか。この大学だけの現象なのかは定かではありませんが、一葉落ちて天下の秋を知るように、2018年問題を控えて就職指導のあり方もそろそろ見直されるべき時期なのかもしれません。

最近の学生を見ているとだいぶ忙しそうです。大学祭のシーズンのせいかと思いきや、主力の3年生は就活で忙しかったり、文科省ご指導の学業重視政策で大学祭そのものが縮小になったりしているところもあるそうです。確かに、例年ではこの時期にあまり見られなかった平日インターンシップが増え、学内では入ゼミ生募集を兼ねたオープンゼミで授業を欠席する学生も目立ってきました。

こうした中で学生の就職指導を進めるには、大学教育との融合を本気で図るべき時期になってきたのかもしれません。10年ほど前から登場・発展してきた多種多様なキャリア教育は、本来の大学教育と就職指導をつなぐ役割を果たしてきたと思います。それらは「社会人基礎力」を代表にするように、当初は大学外部からの要請が強かったせいか、本来の大学教育に「ネジ止め」されてきましたが、これからは「融合」することによって就職指導の効率化が図れるのではないでしょうか。その視点から、私はキャリア教育について以下の三つの定義をもっています。

1.生徒から学生へ導くもの

正解のある問題を効率的に解く力を求められた高校の学習方法から、正解のない問題に取り組む意思、自ら問いを設定して解き明かす力を身につける大学の学び方の違いを指導・演習すること。

2.大学の学びを社会に向けて応用する

研究活動の成果を社会に展開する応用力と発信力を身につけ、大学低学年次に身につけた資質を更に伸ばす。PBL(Project Based Learning)を用いた産学連携型授業で社会の評価を受けながら実践する。

3.学問を統合して理解するもの

大学教育には高学年になり専門科目が中心になるに従い、幅広い視野を忘れがちな構造的宿命がある。その学際領域の学びを育むために各学部の知見を得た高学年次に学部横断の公開授業を行う。この学習からいずれの学問にも共通の「アカデミックスキル」を気付かせ、大学の学びの汎用性を認識させる。

上述の三つの定義を総じて「キャリア教育とは大学と社会をつなぐもの」といえましょう。バレエに例えれば、本来の大学教育はクラシックバレエ的で、世俗の事象や経験をメタ認知化(言語化・理論化・法則化)して天上をめざす伝統的学問でしたが、その後にモダンバレエ的な地に足を着けたフィールドワークが登場してきました。前者は理想を求め続ける故に天から降りられず、後者は多様で実践的なので地上から離れられません。この天に上がった概念を地上に戻す(有効活用・応用する)のが、現代の実践知型キャリア教育(PBL・インターンシップ等)ではないかと思います。そんな形で発展すれば、就職指導の形もこれから新たな形態に変わっていくのではないでしょうか。

▼参考URL:学園祭 縮小傾向…「就活熱」「学業重視」 2017/10/27 (毎日新聞)

https://mainichi.jp/articles/20171022/k00/00m/040/110000c

第360号:授業におけるRJP(Realistic Job Preview)

大学授業の履修登録期間というものがありますね。新学期の最初の1~2回がお試し参加で、授業内容や教員との相性(?)を確認してから履修確定になるシステムです。これは私のようにグループワークを行う授業では、なかなかメンバーを確定できずにやりにくいですが、一方で、楽な授業ではないことを知らしめるには良いと思います。それは企業が採用広報で使うRJP(Realistic Job Preview)になるからです。

RJPは、神戸大学の金井壽宏教授が企業採用担当者に広くご紹介されたので、皆さんも耳にされたことがあるかもしれません。採用広報において、良いことや楽しいことだけではなく、大変なこと、苦労することも包み隠さず伝えることです。どんな新入社員も多少経験する理想と現実のギャップをできるだけ埋める工程です。例として有名なのは、1900年頃のロンドンで出されたという新聞広告の以下の文章です。

『求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の日々。絶えざる危険。生還の保障はない。成功の暁には名誉と賞賛を得る。アーネスト・シャクルトン』

これは南極探検の隊員募集の広告で、5000人が応募したといわれています。これと同じ手法は、企業もよく使っていて、入社後に早期に退職されるよりは、最初から避けて貰う、入社するからには覚悟して貰う、というワクチン効果です。ブラック企業かどうかを見分ける時にも有効ではないかと思います。良心的な人事はとりあえず入れてしまえば後でなんとかなる、とは考えませんから。

ということで、私はいつも初回の授業で「プレゼンテーションは必須」「無断遅刻・欠席不可」等と言ってきたのですが、昨年からシラバスにも「私語厳禁」と記載したら履修者が3割ほど減りました。元々、教室が一杯になっていたので良いかと思っていたのですが、先日の授業で「私の方針に合わないと思えば履修しない方が良いです」と言ったら、その場で2~3人の学生が退席しました。この現象はあまり見られるものではありませんが、やる気のある学生(覚悟を決めた学生)が残るので良しとしています。

少し心配になったのは、退席した学生達は「自分にあった環境」でしか生きたくない(生きられない)のではないかということです。環境に相当に恵まれていない限り、自分の思うとおりの人生など歩めませんし、そうした葛藤のなかで人は成長したり仕事力が付いてくるものです。若者が誤解しているのは、大学は成功する場ではなく「実験と冒険の場」であること。未知のこと、未経験なことをやるから上手くいかないことの方が当たり前だということです。

「だから、大学には失敗などありえないし、上手くいかないから面白い。」

とか話すと気を取り直して参加する学生も多いですが、それでも友達と一緒でないと嫌な子も居て、見ていて伸びそうな子が友人(出席番号が近い者同士が多い)と共に来なくなって、勿体ないなと思います。どれだけ多くの若者が自分の可能性を知らずに閉じていることでしょうね。