第33号:海外の留学生キャリアフェアにて

毎年秋には米国で日本人留学生を対象とした大きなキャリアフェア(合同企業説明会)があり、視察して参りました。同時多発テロ事件依頼、企業の採用担当者は海外へのアプローチを控えてきましたが、徐々に復活してきており、Professional Recruiters Clubのメンバーも数社参加しています。なかなか日本国内では得難い、バイタリティのあるユニークな発想を持った学生に出会うのが楽しみなのですが、どうもここ数年、そういった若者が影を潜めてきたようです。

キャリアフェアの会場に入ってすぐに目に飛び込んできたのは、単一色のカラーです。みなさん、見事にリクルート・スーツ着用なのですが、ほぼ全員、紺系のカラーなのです。かつてはグレーやベージュの方も散在し、女性の中には超一流ブランドの赤いスーツの方や私服の方も居りました。フェアの主催者から服装の推薦(強制ではない)があるにせよ、殆どの方がそういった細かいこと(実際、採用担当者は非常識な服装で無い限りあまり気にしません)を守っているというのはこの10年前から留学生を見てきた立場としては衝撃的です。留学生もマニュアル通りに無難な選択をする学生が増えてしまったのでしょうか。

学生の動向や参加企業のご感想を伺うと、個性的だった留学生がだんだんと均質化し、日本で就職活動をしている新卒学生と似てきていることを異口同音に話されます。あんまり会った学生を覚えていない、という採用担当者のご感想が印象的でした。企業が海外まで出張して留学生を採用する目的は、語学力は勿論、生意気とでも言えるような自己主張をする若者に出会うためでしょう。しかし、このままでは日本の新卒学生と変わらなくなってしまいそうです。

インターネットによる情報網は便利な反面、いわゆる経済学で言うところの「情報の非対称性」を失わせ、中の人間の均質化を促進します。特にデジタル情報で伝えられるのは言語化できる一部の情報に過ぎず、実物というアナログ情報が欠損します。大勢の人に同じ情報が行き渡るということは素晴らしいことですが、毎日多くの情報を受け取りすぎて、何の疑問もなく受け入れてしまう習慣ができてしまうのは怖いことです。留学生の場合、互いに離れた地域に住んでいることが多いので、日本の学生以上にその傾向があるのかもしれません。

日本でもOB訪問をした学生が、その情報をクチコミやネットで盛んに発信していますが、真偽を確かめずに信じ込み、伝言ゲームのように「高度情報化社会」が「高度受け売り化社会」になってしまっては困りますね。

しかし、よくよく考えてみると企業の採用方法も没個性化しているところが多いです。エントリーシートなどはまさに学生の規格化作業以外のなにものでも無く、学生の没個性化の原因は企業の採用方法にも原因があるのかもしれません。無意識に型にはめてしまっている企業、それを受け入れている学生、没個性化されたつまらない社会にならないように気を付けたいものです。

 

第32号:内定式で学生に求めるもの

かつて10月1日は採用担当者にとって仕事の正否を問われる1日でした。内定式当日に、果たして本当に内定者はやってきてくれるのか?会場の受付で、一人、また一人とやってくる学生の出席をチェックするのは、総選挙を戦う党首のような心境です。まさに内定者に「踏み絵」を踏んで貰っているようなものですね。(一番、問題なのは踏み絵を踏みに来ない内定者なのですが・・・。)

最近はシーズンが早くなってしまったので、採用担当者の意識はもう3年生の対応に行ってしまっておりますが、10月の1週目は多くの採用担当者が内定者のフォローに追われておりました。内定通知を用意し、実効性のある研修を行ったり懇親会を行ったり、期待をこめて学生を迎えるスタイルは様々です。中にはTOIECを実施して、学生の気分を引き締めているところもあります。

気のせいか、最近は入社前に学生に課題を出す企業が増えているようです。やはり早期化ということが大きな理由なのかもしれません。なんといっても、4月に内定を得た学生にとっては10月1日は道半ばですから、「内定したなら、時間のある学生のうちに思いっきり遊んでおいて下さい。」というかつての人事の決まり文句も、下手をすると「4年生は1年間、丸ごと遊んでいて下さい。」ということになってしまいます。企業にとってもこの期間を少しでも即戦力に近づいて欲しいと思うのでしょう。大企業では論文を書かせ、流行のインターネットを活用したe-Learningを用意する企業も増えました。この経済環境では企業に頼っていられない、と熱心に受講する内定者も多いです。

内定式の意味合いは多様になってきておりますが、内定式で企業が学生に求めるもので一番大きなものは、やはり入社の意思を含めての社会人としてのコミットメント、大人の自覚ではないかと思います。内定通知書という社会人へのパスポートは、多くの学生にとって初めて自分の意思で手にする自己責任の契約書でしょう。多くの企業が内定通知書を渡し、法的に労働者としての立場を一歩向上させるわけですが、これを機会に社会人としての意識も一歩上げて欲しいと願います。

社会人に求められる、法律を遵守するという義務を理解するだけではなく、そういったルールが無いときこそ、自己判断・自己責任で行動できる“大人”になって欲しいと思います。ありきたりではありますが、デジタル全盛の現代こそ、ますますこういったアナログの感覚を身に付けて欲しいと思います。