第94号:授業を通じて教える就職活動

非常勤講師を担当している大学の前期授業が終了しました。学生一人一人のレポートを見ながら成績をつけていくのは大変な作業でしたが、改めてわかったのは授業を通じて就職活動の基本はしっかり教えられるということでした。同時に、多くの学生は自分の可能性を眠らせたままキャンパスライフを過ごしているのだなあと感じました。これはおそらく日本の最大の資源である若者のエネルギーを眠らせているということですね。

私の担当している「キャリア開発論」という講義は、いわゆるキャリア教育にあたるもので、それは以下の3つの分野を中心としています。

1.マインド系(人生哲学、リーダーシップ等)⇒心の成長

2.スキル系(プレゼンテーション、グループ・ディスカッション等)⇒対人スキルの向上

3.ビジネス系(マーケティング、資料作成等)⇒社会状況の理解

特に講義ではマインド系を中心として、自分自身のキャリアモデルを探し、自己成長の方向性を定めることに重点をおいております。そのため、レポートでも重視して指導していたのが、受け売りではなく自分の意見を書くことです。

ところが、学生は最初ピンときておりませんでした。毎回書かせているレポートでも講義で話した内容をそのまま「理解したこと」として書いてくる学生が半分以上で、これでは学生が何を考えているのかわかりませんでした。これが就職活動なら、企業セミナーで聞いたことをそのままエントリーシートや面接に書いているようなもので、あっさり不合格になってしまいます。いわゆる「生徒」であって「学生」になっていないのですね。就職ガイダンスと同様、授業でも「知識ではなく見識を書け」「講義を聴いてから考えるのが学生だ」と毎回、口をすっぱくして伝えていたところ、最初は戸惑っていたものの、レポートの内容にドンドン個性が出てきました。

他にも議論(グループ・ディスカッション)の仕方や効果的なプレゼンテーション、はては感じや敬語の使い方まで教え込みましたが、これらは決して就職テクニックのためだけではなく、学問や仕事をする上での基本的な「技術」です。そもそも採用試験というのは、社会で通用する基本の技術や知識(ビジネス系)をちゃんと身につけているか、それを相手に伝えられるか(スキル系)、そしてそれをどのように活かして企業や社会で活躍して自分の人生を描きたいのか(マインド系)を知るために行うものです。大学に授業を通じて、いくらでも身につけることができるものですね。これは私が担当しているキャリア系の授業に限らず、どんな科目を通じても教えられることだと思うのです。

前期の授業を通じて、更に今後の課題も見えてきましたが、日本は人材の資源大国だと思い知らされました。この貴重な資源を眠らせずに発掘したいものですね。

*参考文献:

「できない大学生たちが、なぜ、就職で引っ張りだこになったか」カワン・スタント:三笠書房

「学生と読む『三四郎』」石原千秋:新潮選書

 

第93号:採用活動としてのインターンシップ

はやいもので巷では2008年卒の学生(学部3年生、修士1年生)向けの就職ガイダンスが始まってきました。例年ならこの時期は自己分析・業界研究等、就職活動の初期段階のセミナーが多いのですが、今年は採用面接のスキルとかエントリーシートの書き方等、かなり具体的な就職テクニックの問い合わせを受けていて驚いています。この背景には夏のインターンシップの存在があるようです。

今年は就職ガイダンスにちょっとした異変を感じています。前回のメルマガで4年生向けの「就職リターンマッチ」について書きましたが、最近は4年生向けのガイダンスに3年生が顔を出しているのです。とある大学では、20名ほど集まった学生の殆どが3年生で面食らいました。参加者に事情を聞いてみると、「来年のために今から聞いておこうと。」という用意周到な方も居られましたが、最も多かった回答は「インターンシップの選考対策のためです。」というもの。

周知のとおり、今は3年生に向けての夏のインターンシップ募集をかけている企業が多いです。これまでインターンシップでシビアな選考をする企業は大手の一部でしたが、最近は多くの企業が事前の軽い選考(エントリーシートによる書類選考や短時間の面接)をするようになってきたようです。それが結果的に3年生の就職テクニック研究に走らせているようです。

インターンシップの捉え方は企業によってマチマチです。長期のものから短期のものまで、給与の出る社員同様のものからアルバイト作業のようなものまで、多種多様になってきていますね。最近の調査では学生は短期のものを多く受講することを好み、長期間に渡って1社に拘束されるものは嫌う傾向があるとのこと。これではインターンシップの本来の意義は達成できなくなるのですが、企業側の方でも「ワン・デイ・インターンシップ」という恐るべき非常識な言葉を定着させてしまったので、いたしかたないですね。

こういった短期のインターンシップで、しかも大人数で共通のプログラム(多くは簡単なグループ・ディスカッション等のワークショップ)をこなすものはキャリア教育としてのインターンシップではなく、採用活動のための母集団形成に他ならないでしょう。このようなセミナーを数多く受け、深く一つの企業・業界を掘り下げない学生さんは、就職活動でも多くを回りすぎて志望動機が浅くなかなか内定が取れない学生とイメージが重なってきます。どんな経験でも無駄にはならないと思いますが、彼らが来年の「リターンマッチ」セミナーに顔を出さないことを祈っています。