第102号:採用戦力になっている内定者

就職・採用活動の長期化により、入社までの内定期間も長くなりましたので採用担当者は内定者に対しての辞退防止のフォロー策にも気を遣うこの頃です。この時期になると3年生(修士1年生)向けの来シーズンの採用活動も盛んになって参りますが、最近は内定者を採用活動に引き出す企業も多くなりました。入社前教育として集合研修や教材を渡すくらいならまだ良いですが、「戦力」として扱うならば、せめてアルバイトとして扱って欲しいと思うこの頃です。

 

今は昔、私たちの世代が就職活動を行っていた頃は解禁日が10月1日であり、(4年の)夏休みに内定を持っている友人が居ると羨望のまなざしで見られたものでした。のどかな時代で入社までの内定期間の約6ヶ月、内定した企業の採用担当者に「何か入社前にやっておいた方が良い勉強はありますか?」とこちらから尋ねてみても、「学生のうちに思いっきり遊んでおきなさい。」と言われることが多く、入社前に膨大な課題を与えられるのは金融機関に内定した学生くらいでした。

 

ご存知の通り、入社前に内定者を最大限に戦力にしているのは人材ビジネス(人材派遣・紹介、就職情報等)業界でしょう。学生自身の日常の活動やネットワークがまさに即戦力になる産業ですから。大学内で後輩を集めて先輩体験談を行ったり、就職活動支援サークルを作ったり、ときには企業の人事部を訪問して就職イベントの提案まで持ってきてくれます。人材ビジネスに内定した学生にとって、これらは確かにとても良い「インターンシップ」でしょう。しかし企業サイドから見たとき、彼らは明らかに有望な戦力になっているわけですから、待遇面での考慮も忘れないで欲しいと思います。

 

私も以前、学生サークルから起業した就職情報のベンチャー企業とお付き合いがありました。熱心な内定者が稚拙ながらも学生らしい提案をもってきたので、広告でも出してあげようかと、いざ企画書や名刺をよく見てみると連絡先が個人の携帯電話番号・メールアドレスになっていることに気づきました。学生本人に確認してみると、内定企業のボランティアとして自主的に活動しているとのこと。しかし、たとえ本人が納得していたとしても、企業としては無給で働く学生個人と取引するわけにはいきません。その学生さんに法的なことも説明して、アルバイト社員になって貰ってから改めて出直して戴きました。

 

これは特殊なケースだったかもしれませんが、今は内定者を自社のセミナーに参加させることは多くの企業が始めてきております。これから就職活動を始める学生には先輩体験談はなによりの情報でしょう。しかし、法律やビジネス面で知識の少ない学生には、大人がしっかり配慮してあげなければいけないと思います。逆にこういった面をしっかり学生に教えて配慮し、協力を仰ぐやり方ならば、それは内定者にとっても非常に良い社会人教育になると思うのです。

 

 

第101号:採用担当者はマニュアル通りが嫌い

ICU(国際基督教大学)の大学院生が企業採用担当者の面接における意識調査を行いたいとの依頼があり、Professional Recruiters Clubを中心に約50名の採用担当者にアンケート調査を致しましたのでその結果を少々ご紹介致します。この研究はドイツ・米国・日本の採用面接において各文化による印象管理の相違を明らかにしようということだそうですが、いわゆる採用の面接本に書かれていることが、本当かどうかを調べてみたいとのことでした。

 

▼カジュアルな服装はあんまり気にしないが好印象にはならない。

服装についての印象は「どちらでもない(43.4%)」「悪い(41.5%)」の回答で、「良い(1.9%)でした。カジュアルな服装はデメリットになってもメリットになることは殆ど無いとのことですね。これかファッション業界等で集計すると傾向が変わるかもしれませんが。

 

▼ノックは2回でも3回でも気にしない。

入室時のノックの回数ですが、2回ノックは「良い(30.2%)」「どちらでもない(56.6%)」、1回または3回ノックは「どちらでもない(77.4%)」で、殆ど気にしていないということですね。採用担当者は応募者の入室待ちの時は、選考書類の確認に集中していることが多く、ノックの回数まで気にしていないと思います。マナー研修講師は「2回はトイレのノックですので止めましょう。」と良く言われますが、これはやはり笑い話にとどめて良いと思います。

 

▼給料や手当について質問するのは好まれない

「どちらでもない(49.1%)」「悪い(49.1%)」の回答ですが、これはこの質問自体が良くないというよりは、もっと就職に関する大事なことを聞いて欲しいということだと思います。給料等の実態は企業間・企業内でも差がありすぎて回答にもあまり意味がないでしょうから。外国のように給与が個別契約で一人一人異なる国では逆に印象が悪くなることはないと思われます。

 

▼マニュアルを見るのは良いが、マニュアル通りに回答されるのは嫌い

マニュアルを読んでいることについては「どちらでもない(45.3%)」「悪い(37,7%)」でやや印象が良くないようですが、実際の面接の回答でマニュアル通りの暗記回答では「悪い(43.4%)」「非常に悪い(30.2%)」でした。やはり「生きた会話」をしたいというのは大切なことのようです。

 

正直な所、アンケートでは採用担当者が全く気にしていない設問があったり、設問文言だけでは一概に判断できないこともありますが、大きな傾向として見るには参考になるでしょう。

マニュアル・ブームは情報過多社会の若者の傾向で、考える労力を省くという非常に危ないことです。学生と日々触れ合っていての個人的な感覚ですが、今の若者は「言葉にしないとわからない」「よろしかったですか?と過去形で丁寧表現をする」等、米国化が進んでいるようです。日本人は「空気を読める高等民族(?)」だったのですが、なかなかそうはいかなくなってきたようですね。