第64号:採用担当者が描く応募者のキャリア・プラン

ようやく春らしい季節となってきましたが、花粉症に悩まされている方はご愁傷様です。この時期になると学生もだんだと面接にも慣れてきて、ぎこちない志望動機や自己PRもスムーズな「会話」になってきます。ウォーミングアップも済んで、いよいよ就職戦線キック・オフですね。既に結果の出ている企業もありますが、内定した学生のことを振り返ってみると、自分のキャリア・プランをしっかりもっている方が多いです。しかし、それは採用担当者の考えるキャリア・プランとは必ずしも一致しているとは限りません。

学生との模擬面接や個人面談(キャリアカウンセリング)を繰り返していると、有望な学生ほど就職活動で社会を知り始めて、目がキラキラしてきます。同時に「これまで自分の大学生活は何だったんだ?」「もっと早くこんなことを知っていたら学生生活も変わっていたのに。」と自分の無知に気づいてきます。そんな学生は志望動機や自己PRもどんどん良くなり、「この会社にはどういえば受かるか?」ではなく、「自分はこの会社にはこう主張していこう。」と主張の軸が定まってきます。そうなってくると迷いや悩みが減って自信が出てくるので、結果的に面接でも良い結果がついてくるようになります。迷いながらも、自分はこんな風に生きていこうという信念(キャリア・プラン)が生まれてくるのですね。

さて、採用担当者はそんな学生が主張するキャリア・プランをそのままに受け止めるかどうかはまた別の問題です。メディアでは「自分のキャリア・プランをしっかりもっている学生が求められている」、というように書かれていることもありますが、正確に言うと「採用担当者が応募者のもっているキャリア・プランを聞いて、その応募者のキャリア・プランをイメージできたら内定を出す」ということではないかと思います。つまりポイントは、学生がしっかりとしたキャリア・プランをもっているかどうかではなく、採用担当者が応募者のキャリア・プランを描けたかどうか、ということです。

上述の通り、学生の描くキャリア・プランは限られた経験や耳学問によるもので必ずしも現実的ではなかったりしますし、採用担当者が企業の内部からの視点でその学生をみた時に、異なるキャリア・プランを描くことも多いです。学生のプランを軽視しているということではなく、「そんなキャリア・プランを志望するならこんなキャリアも歩んでくれるだろうな。」という想像を働かせているということですね。企業内部には、とても学生に説明しきれない仕事情報(キャリア・プラン)があるのです。

最近、大手電機メーカーの中途採用で細かい職種別募集は止めて大まかなくくりで募集し、やってきた中途応募者と採用担当者がキャリアカウンセリング風に話し合いながら具体的志望職を決めていくという方法をとるケースが出てきました。新卒採用の場合、採用担当者が描いたキャリア・プランを選考中の段階で学生自身にフィード・バックすることはあまりありませんが、お互いがそんなプランを描けたら採用担当者は安心して内定を出すことができますね。

第63号:「三方良し」の志望動機

近江商人の古くからの商売の理念に「三方良し」というものがあります。商売は、売り手と買い手という当事者に都合がいいというものだけでなく、その取引が世間にとっても好都合(有意義)でなければならないというもので、「売り手よし、買い手よし、世間よし」それを「三方良し」と言います。採用面接で伺う志望動機もそんな考え方を持って貰えると良いのですが、最近はなかなか商売ッ気のある学生さんは少ないようです。

就職活動は、言うまでもなく自分自身を企業に売り込むための営業活動です。採用担当者が内定を出すということは、企業が「君の将来を買った!」と判断したわけですね。ところが、最近の採用面接ではどうもその点がうまく売り込めていない学生が多いようです。(相手の買いたい)自分のセールスポイントをまとめるのが自己分析の主な作業であり、それを整理したセールス・トークが志望動機ということなのですが、それが「三方良し」ではなく、「一方良し」になっていることが多いです。

「三方良し」の理念に沿った志望動機とは、下記のような内容がしっかりまとまっていることです。

・売り手よし・・・自分のやりたいことができる、やりがいがある

・買い手よし・・・企業がその学生を採用して業績が伸びる、採用担当者が評価される

・世間よし・・・その学生を採用した企業が(その学生の業績によって)社会からも評価される

「三方良し」の志望動機を話せる学生は、人生に対する視野の大きさや、仕事や社会における自分の位置づけも感じさせてくれます。これが「一方良し」になってしまっているということは、自分の利益・メリットだけを述べている、自分の熱い気持ちだけを述べている、ということです。

先日とある面接の場で、最近増えている大学院生の就職面接に立ち会いました。その方は自分が学部生に比べどれだけ勉強しているかを一生懸命に述べておりました。専門的な勉強に力を入れていた分、却って熱が入ってしまったのかもしれませんが、それを聞いている私がどれだけそれを評価しているか、という視点には欠けていたようです。こちらから「では何処でも貴方の希望する部署に就かせてあげますので、そこで何がしたいか、何ができるかを述べて下さい。」と質問したところ、具体的な話が殆ど出てきませんでした。つまり、「買い手よし」の視点が無いのです。

採用担当者はキャリアカウンセラーでも人生相談役でもありません。面接は営業活動であるという原点にかえって、「よし、君を買った!」と言わせるような志望動機や自己PRを聞かせてほしいものです。