第326号:大学を回って感じる校風

新学期の授業もそろそろ学生の履修登録が決まり、ようやく本格的な授業が始まる頃です。私は複数の大学で非常勤講師を行っていますので、この時期に多くの学生と新しい出会いは楽しみです。4月は授業以外にも就職セミナーやインターンシップやアルバイトの心構え等、ゲスト講師で招かれることもあります。そのように複数の大学での学生の受講態度を見ていると、明らかな大学毎の校風を感じます。各校の学生達はその環境に馴染んでいるので気づきませんが、これは自然と採用担当者の評価(心象)にもつながります。

新入生(1年生)の受講態度は、ほぼどの大学でも同じで、緊張感の中にも好奇心が垣間見え、真っ白で素直な人が多いです。校風が出てくるのは2~3年生になってからで、各大学の授業の規模や形態に適応して身についた独特の行動特性なのでしょう。私は講義の中で常に学生に話しかけながら授業進めるので、そのリアクションに特にそれがよく現れます。例えば以下の様なパターンです。

・高偏差値のミッション系大学

授業形態が伝統的な大人数の講義形式で教員が一方的に話すので、しっかり聴く体勢やノートを取るスキルは身についているが、質問を投げかけるとフリーズしてしまう。回答が浮かばないのではなく、大人数の教室でちゃんと答えなければというプレッシャーで戸惑ってしまう。

・中偏差値の理工系大学

学問分野が価値観を問われるものではなく真理を追究するものであり実験や課題が多いので、正解のない問いを投げかけられると真面目に悩みながら訥々と答える。「解答」はできるが個人の意見「回答」を求められるという授業に慣れていない。

・小規模な女子大学

授業の人数が少なくメガ大学のような大教室授業ではないので教員と学生の距離が近く、質問に対して人なつこく回答するが、内容は比較的自己中心で感情的なものが多い。小規模大学独特のアットホームな環境だが、他者の意見を受け入れる柔軟さに欠ける。

これらは私が経験した中での心象なので、大学毎の違いというよりは大学内で受講してきた経験の違いなのかもしれません。または高度に進化したIT社会の中でリアルタイムに反応する経験が少なくなってきたという要因の方が大きいかもしれません。いずれにしても、こうしたリアクションの違いは、それまで受講してきた授業環境や過ごしてきたキャンパスライフから身についたものでしょう。

人の行動パターンは、定着すると容易に変えることができなくなります。大学生活数年間で、受け身の体勢を続ければ即興のリアクションがとれなくなるのも無理はありません。そしてそれが顕著に現れて学生が悩むのは、就職活動の面接というリアルタイム・コミュニケーションの場です。新学期にあたり、授業というものは学生に知見を授けるだけではなく、指導形態から学生の行動パターン、ひいては学生の人生さえも左右するということを自覚しながら取り組みたいものです。

第325号:受講態度を見ていてわかるデキル学生

先日、とある大企業の小さな(10人弱の)企業説明会を見学する機会がありました。今年度は採用数がそれほど多くないのでネット等は使わずに、リクルーター等を使って狙った大学の学生だけを招待するターゲット・リクルーティングです。そのセミナーを後ろで聴いていて感じたのは、採用選考に通りそうなデキル学生は見ていてわかるということです。

採用選考とは関係のない企業セミナーと言っても、自然と目につく学生がいることは、私にも経験があります。それはレベル別に書くと以下の通りです。

1.メモを取っている。

2.リアクション(うなずき等)がある。

3.簡単な確認の質問をする。

(以下は質疑応答に入った時の場合です。)

4.深い理解を求める質問をする。

5.自分の意見を述べられる。

お察しの通り、カウンセリング・スキルを使ったアクティブリスニング(傾聴力)ですね。これらが身についている学生は好感がもてます。更に細かいところをそれぞれのレベルで見ると、以下の点があります。

1.持っているノートの形状・記述の仕方が良い。

ノートある程度の大きさ(タブレットくらい)で、覗き込んだわけではないので、内容はセミナー後に書かれた文書から判断しますが、一見して見やすくポイントを抑えています。

2.話者とアイコンタクトができる。

リアクションのタイミングが重要で、周りにつられて頷くのではありません。逆に、目立ちたがる人(自己顕示力)もわかります。

3.不明な点を自主的にすぐ質問できる。

セミナーの流れや話の切れ目を見て、適切なタイミングで不明点を確認する。わからないことをその場で聴ける勇気は、伸びる新人の共通点です。

4.聴講した内容に好奇心と疑問をもつ

時折、話者の想定外の深いとらえ方をする学生がいます。こうした点から個性や独創性を感じます。(但、脱線質問はNG)。

5.自分の仮説を即時に述べることができる。

聴講内容をその場で客観的・比較的に述べるには、自分に知見がなければできません。また、地頭と採用担当者は良く言いますが、論路的思考力の速さです。

如何でしょうか?セミナーの受講態度を注視しているだけで、相当な判断ができますね。勿論、これは外形的な判断なので実際の学生の実力が隠れていることはあります。しかし、企業の初期の採用選考ではこうした言動だけでも相当に仕事力は判断できると思います。社会では自分がどんな実力があっても、顕在的に発揮できなければ意味がありません。だから目で見てわかるというのは大事です。

翻ってみると、こうした受講スキルは大学授業でいくらでも評価・指導できると思うのです。講義をしている教員が授業中に観察評価をするのは困難ですが、同僚の教員やTAの学生にチェックして貰うとか方法は考えられます。こうした振る舞いは1日や2日でできるものではありません。日頃からの習慣になるように、1年生の新学期から身につけさせたいものですね。

ただ座って聴いているだけの講義は、相当教員が上手出ない限り、コミュ障を育成してしまいます。