第262号:ブラック企業が生まれる背景

「ブラック企業」が流行語になってきましたね。その実態や定義が曖昧なので、私はあまり気にしておりませんでした(最近話題になった「ブラック企業大賞」がネットニュース上ではエンターテイメントのコーナーに分類されていたのは苦笑しました)。しかし、厚労省が来月4000社に立ち入り調査を行うとまで聞いて、人事の視点から少し考えてみました。

 

ブラック企業というのは、文献やネット上での定量的判断としては残業時間・離職率・有給休暇取得率等を目安にしているようですが、指摘されている企業の特長を定性(業界研究)的にみてみると以下の点が共通に見受けられると思います。

1.BtoC企業(一般消費者向けビジネス)

2.急成長業界(企業)で大規模化

3.カリスマ(ワンマン)型経営者

4.社員の能力開発投資が少ない

5.少数正社員+多数非正規社員

6.仕事の発展性(専門性)が低い

 

いわゆる労働収益型産業に多く見られる傾向ですね。これらの特長を備えていても立派な企業は数多くあります。しかし、規模が大きくなり従業員が増えるほど、ブラック企業と問われるリスクは高まります。企業にとって恐ろしいことは、数万人規模の企業でも、たった一人が労働災害にあえば、それだけである日突然、ブラック企業にされてしまう可能性があることです。ネット社会になったいま、人の意識も情報の流れ方も大きく変わり、それがまたブラック企業論議を増やす背景になっていますから。

 

正社員中心の日本型雇用慣行を行ってきた企業では、そのような事態にならないように管理者には指導教育をしてきました。それがブラック企業への防止策です。しかし、急速に非正規労働者を導入して拡大してきた企業では、体制構築が企業の成長(膨張?)に追いつかないことがままあります。急速な人員ニーズ⇒非正規社員の増加⇒企業の教育不足⇒労働災害⇒ネット社会での情報拡散というブラック企業生産の公式に陥ります。

 

ここまで書いてきたところで、この話題に当てはまりそうなニュースが飛び込んできました。「秋田書店のプレゼント未発送事件」です。ことの真相はまだまったくわかりませんが、果たしてブラックなのは企業の方なのか、社員の方なのか?注視して参りましょう。

 

*参考URL

▼秋田書店・景品水増し:不正訴えた社員解雇(毎日新聞)

http://mainichi.jp/select/news/20130821dde041040005000c.html

▼不当景品類及び不当表示防止法第6条の規定に基づく措置命令について(秋田書店)

http://www.akitashoten.co.jp/news/200

▼【社告】毎日新聞の報道に対する弊社の見解について(秋田書店)

http://www.akitashoten.co.jp/news/201

第261号:エイベックスの新卒一括採用中止は仰天か?

少し前にエイベックス社が新卒一括採用を中止して、自社独自の採用方式を行うと報道されました。メディアの一部では「仰天」採用、新卒一括採用の崩壊等、注目していたようですが、私にはごく当たり前のことで、何が「仰天」なのかがわかりません。改めて思うのは「新卒一括採用」の理解とは凄く難しいことなんだなあ、ということです。

 

私がこの方式が「仰天」にはあたらないと申し上げるのは、以下の理由からです。

「新卒一括採用」は、

1.日本全体の雇用からみれば、大企業だけの特殊な方式である。

2.過去の流れからみれば、相当に変化が激しい。

3.特定の産業には不向きな方式である。

 

周知の通り、世の中の殆どの企業は中小企業であり、新卒一括採用を行っている大企業は全体の1%にも満たないです。その1%の大企業に大学生の過半数が応募しているというのは、この10年間の情報技術の発展が可能ならしめたことです。そして、その応募者の殆どが不採用になっていることに疑問を持たずに毎年継続されているということの方が仰天です。(結果、大学・学生・企業が疲弊する。)

 

新卒一括採用は、少し長い目で見れば、相当に変化をしています。例えば就職活動の解禁繰り下げについて3年生の3月1日以降にするという最近の決定も、1980年代の解禁日は4年生の10月1日でもっともっと遅かったですし、更に遡って1970年代となると、今と同じく3年生の秋から開始されていました。他にも「指定校制度」の廃止等、仰天する出来事は多かったです。

 

また、新卒一括採用など最初から気にしていない特定の産業があります。この代表がマスコミ業界、新興ベンチャー企業等で、エイベックス社もその範疇です。創業20年の同社は、新卒採用を16年前から行ってきたそうですが、それは新卒一括採用が現在のように相当に産業化されてからの参入で、採用規模も20名程度ですし中途採用の方が中心です。

 

こうした背景の中でエイベックス社が「今の」新卒一括採用に疑問をもつのは当然のことであり、私から見れば本来の姿に戻ったという印象です。年初に話題になった、岩波書店の縁故採用重視主義と同様のルネッサンスのようなものです。岩波書店が採用方式を変えたのは、ネット環境の進化による無理解な応募者の急増によるもので、エイベックス社の動きと同じです。その変更方式を、大々的にやるのか、内々でやるのかには、2社の業界・社風の違いはありますが。

 

実は私も音楽業界に関心があり、4年生の夏からは有名なレコード会社に入りこみ、モニター活動に精を出していました。給料は貰えませんが、新人アーティストの広報活動のお手伝いなどをさせて貰いました。今ならまさに「インターンシップ」ですね。それによって、殆どの若者(大学生とは限りませんでした)は、「この業界は仕事にしない方がいいや」と判断して趣味と割り切りましたが、ごく少数の者は、そのままその業界に就職しました。エイベックス社の創業者がまだ大学生になる前の時代ですが、やっと同社もそうした原点に辿り着いたようですね。