第36号:就職協定再考

今年も残りわずかとなって参りました。キャンパスにはクリスマス・ツリーも飾られ、気のせいか学生もいろいろなイベントに慌ただしくしているように見えます。大学を回っていると、今は本当に就職セミナーが真っ盛りですね。大学の就職課のスケジュールを拝見していると、就職情報企業も顔負けの業界・企業説明会の充実度に驚いてしまいます。しかし、改めてここで就職協定というものも考えさせられました。

現在、私はインターンシップを支援する学生サークルに対して、企業訪問時に必要なビジネス・マナーや渉外力のトレーニングを行っております。そのサークルの上級生の悩みに、メンバーが3年になると就職活動のために引退してしまう、というのがあります。これを聞いた時、就職活動の早期化が学生のキャンパス・ライフにそこまでの悪影響を及ぼしているのかと、学生のキャリア開発に関わる者として非常に遺憾に思いました。早期化の影響により4年生の新学期にキャンパスが閑散となってしまう現象が大問題になっておりますが、事態に改善の兆しは見られないようです。

周知のとおり、去る10月21日に日本経済団体連合会及び大学等関係団体就職問題協議会が倫理憲章(採用選考活動は卒業年次(4月以降)に実施すること)が採択され、特に今年は主要企業にも念書を取りつけており、遵守する企業が多いようで効果が期待されますが、逆に選考時期が集中してしまう懸念があります。

実際、Professional Recruiters Clubのメンバーには誰一人として就職時期の早期化を望む者は無く、逆に、「1年遅らせて4年生の夏から始めたいくらいだ。」「情けないが就職協定を復活した方が良い。」「人員計画も定まらないうちに始める採用活動は、この変化の激しい経営環境下で非常に不安だ。」「とはいうものの、煽られると動かざるをえない」という声が多く、結果として新卒採用を最小限に手控えて中途採用に移行する企業を徐々に増やしています。

就職活動の早期化は、この分野に関わる全ての関係者が深く事態を受け止める必要があると思います。他社との横並び採用方法、就職情報企業のWeb登録開始時期、大学内での業界・企業セミナーの内容と開始時期、等々見直すべき点は多いです。もっとも難しいことは、学生の職業教育を行い就業意識を早期に高めさせることと、この就職活動早期化問題に同時に対応しなければならない点です。

私は本来、就職協定には反対なのですが、この事態を収集するための短期的な対症療法としては必要になってきたと感じます。選考開始時期も4月からではなく8月以降が良いでしょう。そしてもっと重要な原因療法は、大学授業の中にキャリア教育を組み込んでいくこと、大学での勉強やサークル活動が如何に個人のキャリア形成に貢献していくかを問い直し、学生個々人を支援していくことではないかと思います。僭越な私見ながら、しっかり勉強し、しっかりサークル活動を行い、人間的に成長した若者が自然と良い就職ができるような時を待ち望んでおります。

第35号:就職課公募の選考基準

来春の国立大学の行政法人化が目前となり、大学の機構改革もいよいよ本格的になってきたようです。その中でも目を引いたのは、先日の愛媛大学の就職課の設立と課長の一般公募のニュースですね。国立大学の事務系管理職の公募は非常に珍しいことですが、こういった産学の人材交流はどんどん増えて欲しいと思います。このニュースが流れた時、Professional Recruiters Clubのメンバーで応募してみたいと思ったのは一人や二人ではないでしょう。企業の採用担当者の中には将来のキャリアとして、大学就職部で働きたいと考えている方も多いのです。

さて、もし私が大学の採用担当者で、企業採用担当の応募者の面接をする場合、どんなキャリアを重視するかな、と考えてみました。できる採用担当者の選考基準ですね。まず、次の6つの就労経験が欲しいと思います。それは新卒採用と中途採用の業務経験、日本企業と外資系企業での就労経験、大企業とベンチャー企業(中小企業)での就労経験です。6つと言っても転職を5回しているというわけではありません。日本の大企業、外資のベンチャー企業で、新卒・中途採用の業務を経験していれば、転職は1回で良いわけです。この6つの経験で実績を持っている採用担当者は、ほぼどこの企業に行っても通用する人材です。

次に、採用業務以外キャリアとして、能力開発の経験もしくはキャリアカウンセリングの勉強をしていることが望ましいと思います。何故ならば、採用担当の経験だけでは応募者側の気持ちを理解するのが難しいからです。採用担当者は応募者を企業組織の価値基準で評価することには慣れておりますが、応募者個人がどんな気持ちでやってきているかを思いやることはなかなかできません。企業の採用担当者の専門性と大学就職課の似て非なる点です。視点を180度変えて、応募者(就職希望者)の気持ちになって一緒に本人のキャリアを考えてあげるには、研修等の能力開発の業務や社員の個別相談(キャリアカウンセリング)の経験が欲しいと思います。

最後に、学生に対する「愛」と「敬」の心を持っている方が必須だと思います。「愛」は学生一人一人の存在や生き方を全面的に支援してあげること、つまりキャリアカウンセリングの基本的なスタイルですね。自分の価値基準はひとまず横に置いておいて、学生個人の生き方を尊重してあげることです。そして「敬」は向上心をもっているということです。敬語は自分よりも上の存在を認めた時に産まれる言葉です。愛情は動物も持っていますが、常に現状に疑問を持ち少しでも上を目指そうという向上心は人間だけのものでしょう。それを持った人材が、学生に対して時には社会の現実を伝えて厳しい指導をすることができるのではないでしょうか。キャリアカウンセリングが治療的なカウンセリングと異なる点も、ここにあるのではないかと思っています。

今回、大学就職課の現場もあまり知らずに理想的なことを書いてしまいましたが、就職担当者、採用担当者、能力開発担当者、若者の入職という一連の重要な仕事において、それぞれの人的交流が進み、お互いを高め合うような専門性を確立していければ素晴らしいと思います。