第173号:「就活」という言葉が嫌いな採用担当者

採用担当者にはいろいろなタイプが居られます。若くて明るいハキハキ営業型、落ち着いてスマートな兄貴型、エレガントで頼れる姉御型、重厚でいかつい説教型等々・・・。しかしあえて共通点を探してみると、やはり根が「真面目」であると感じます。それは人事部という社員の人生に直接に関与する部署であるからなのかもしれません。そのせいなのか、採用担当者は「就活」という言葉をあまり使わないような気がします。

 

先日、ある若い採用担当者の方と気楽に食事をしていたとき、「学生さんは良く言いますが、『就活』って言葉はあまり好きではないんですよね。」とポロッと語られました。この言葉が記憶に残ったのは、実は前にも別の採用担当者の方から伺ったことがあるからです。今と違って売り手市場の景気の良い時のことですが、「就活って、何だか茶化している感じがしないか?俺は絶対、使わないよ。」その方は中年だったので、やはり年配になると堅いな、という程度にしか感じなかったのですが、こうしてみるとそれは採用担当者の本音なのかもしれません。

 

その理由は、上述の通り人事部は基本的に堅い部署であること、会社説明会のプレゼンテーションや面接で正しい言葉遣いを意識していること、そしてやはり人の人生を左右する仕事をしているという責任感からなのでしょう。たまに若手の採用担当者がノリノリの会社説明会で「就活」「就活」と連発しているのを見かけますが、そうした方が採用面接に勢いで出てくることは少ないです。相当血気盛んな企業でない限り、ノリで社員を採用するわけにはいきませんからね。

ですから、応募学生として気をつけたいのは、そうした勢いに一緒に乗ってしまって、面接でもそのような態度や言葉が出てしまうことです。日頃の態度や言葉遣いはすぐに変えられるものではありませんし、採用担当者は敬語の誤用には寛大ですが、学生言葉には敏感ですからね。

 

ところが、最近の若者は照れ屋のせいか「真面目」になることが苦手なようです。大学の授業で学生に触れていると、「真面目」を「マジ」と呼んで真面目でないふりをしているようにも見えます。真面目に取り組んで失敗したときが怖いので、最初からおどけているのかもしれません。勿論、四六時中、真面目でいるのも疲れますから、必要な時だけ切り替えられれば良いのです。この切り替える習慣を早く身に付けて欲しいと思います。それは就職してからも必要な社会人のスキルでもありますから。

 

今シーズンは昨年来の厳しい状況です。学生の方には初めての就職活動なので気づかないと思いますが、こうして環境が逆転したときには気分を切り替えて当たらなければなりません。今は略語全盛のスピード社会で、「就活」「婚活」と慌ただしいですが、しっかり気分を切り替えて採用担当者に向き合って欲しいと思います。相手は、採用活動を「採活」などとは決して略さない真面目な人物が多いようですからね。

 

 

第172号:巨大母集団の憂鬱

街中にリクルートスーツの学生が増え始めました。2011年卒業者向けのセミナーが始まってきたのだなとわかりますが、秋の風物詩として定着してしまったようです。例年ならば採用担当者も夏からの準備を整え、「さあ、やるぞ!」と気合いを入れる時期でもあるのですが、今シーズンの採用担当者の方々の顔を見ていると、どうも浮かない感じが致します。シーズン前から既に倦怠感や疲労感があるような。どうも初期応募者が多すぎてこれから始まる仕事量の多さにげんなりされているようです。

 

採用担当者にとって自社への応募者が増えることは喜ばしいことです。それだけ有望な人材と出会える確率が高まると思われますし、採用広報の手応えを感じられますから。ところが今シーズンは、未だに経済や経営の見通しが不透明のままで採用予定数も定まりません。昨年の今頃は、リーマンショックがあったとはいえ、「そんなに悪くはならないだろう」「例年並みなら大丈夫だろう」「新卒採用にはそれほど影響は無いだろう」というやや楽観的な気持ちでした。しかし今季は「内定者(2010年卒業者)の配属見通しも立たないのに、本当に採用するんだろうか?」という疑心暗鬼にかられています。

 

当初は2010年卒採用がボトムで2011年には回復するだろうと思われていたものの、現時点ではそれほど増えそうにない、場合によっては2010年以下になりそうだとの見通しさえあります。

勿論、企業では採用予算(特に広告宣伝費)を削り、昨年と比べれば相当に控えめな活動をしてきたつもりが、蓋をあければ必死な学生が大挙してエントリーしてきているわけです。しかも不況となれば、例年以上に学生の大手指向は高まり、最近のメディアでも「求人倍率はバブル崩壊時ほどの最悪ではないが、応募者が人気企業に殺到してミスマッチを起こしている」と報道されています。実際、ある人気企業の採用担当者に伺ったところ、「もう母集団形成(募集広告)は出さなくても十分だと思う」とため息混じりに語られました。

 

試しに前回ご紹介した文献『就活って何だ』に掲載されていた人気企業の初期母集団を集計してみたところ、人気企業12社で約40万人のプレエントリーがありました。その12社の内定実績数合計は約2000人程度ですから、実に平均200倍という倍率です(一番人気企業では700倍に近い)。

つまり、一人採用するために199人不合格にする労力が求められるわけですね。

 

エントリーシートやWeb試験で選抜し、実際に面接する集団はドンドン絞られますが、そうして絞りに絞って厳選選抜した応募者が、更に最終選考では役員の気持ちや春の経営状況によってバッサリ不合格にされてしまうわけです。この先のことを考えると採用担当者が憂鬱な気分になるのもおわかりでしょう。

企業の顔としての役割も担うので前向きで明るいタイプが多い採用担当者たちですが、流石にこの状況では伏し目がちになりそうなシーズンです。