第240号:内定&内定辞退ブルー

多くの企業が10月1日の内定式を開催しますので、今週の採用担当者は準備に追われて慌ただしいことでしょう。学生側としては、第一希望の会社に決まってワクワクしている者もあれば、「本当にこの会社で良いんだろうか・・・」と内定ブルーに襲われる者もいます。そう、それは採用担当者にとって「内定辞退ブルー」の始まりなのです。

 

新学期が始まり、前期に就職指導をしていた学生とキャンパスで久しぶりに出会いました。開口一番、「先生、どっちの会社が良いか迷っています・・・。」複数内定なのですね。私が驚いたのは、前期終了時には、その中の1社に決めたと聞いていたからです。ところが、実際は辞退せずにそのままキープしていたのですね。これから聞かされる採用担当者の心情をお察ししました。

 

人間は、不都合な現実に直面した場合、「驚き」⇒「怒り」⇒「諦め」と心理が変化します。時間が経つと最後は現実を受け入れて「理解」に至ります。採用担当者を長年経験していると、そうした心理変化にも慣れてくるものですが、入社して1年目の新人などで、初任配属が人事部の採用業務だった場合、内定者の辞退連絡はきつい洗礼です。人間不信になりますね。私は営業から人事部に異動になったので、新社会人とは違って人間関係の機微やトラブルは相当に経験してきましたが、それでも最初は辛かったです。自分が面接をして惚れ込んで内定を出した学生が、ある日突然変わるんですよね。

 

「留学(進学)することになりました。」などは当たり前で、「親に勧められた会社に行かざるをえなくなりました。」という超お嬢様大学の学生、「教授の言うことをきいて学校推薦を受けないと卒業させて貰えません」という理系男子学生等々、「母校の職員(教員)になることになりました。」という理由を聞いたときは、就職課に配属されたら絶対に思い知らせてやる・・・と思ったものです。お陰様で、かなり人間ができるようになりました。(笑)

 

その後、内定辞退防止策をいろいろ検討しましたが、やはり人心の変化はわかりません。ならば、辞退されたらすぐに補欠を繰り上げたりしていました。大学入試と似ていますね。補欠を繰り上げると何処かの採用担当者が内定辞退ブルーになるわけですが、こっちも人員確保に必死です。

 

内定ブルーに内定辞退ブルーは、表裏の関係です。学生の相談を聞いていて思ったことは二つです。

1.選ぶ時間があり過ぎると意志決定が困難になる。

2.選ぶ情報があり過ぎると意志決定が困難になる。

 

長すぎる恋愛も多すぎる恋愛も結婚には結びつきにくいように、就職活動は長すぎても多すぎてもダメで、ソコソコにしておいた方が学生も採用担当者も(就職課職員も)助かるのかもしれません。

 

このメールマガジンが配信されたまさにいま、新人採用担当者の中には「内定辞退ブルー」になっている方が居ると思います。1日も早く癒されますように。

 

第239号:模擬授業と企業説明会

この夏もオープンキャンパスで大学は大いに賑い、大学の夏景色としてすっかり定着しました。私も昨年から駆り出され、高校生に向けて模擬授業や短いセミナー等を行っております。日頃は縁の無い制服姿の高校生達との触れ合いは新鮮で、いつも以上に楽しく双方向の授業を行っております。それはまるで採用担当者として就活大学生に接するときの気分です。

 

模擬授業と企業説明会は、本当によく似ています。企業の求める人材(大学で求められる学習能力・態度)や事業内容(授業内容)や社風(学風)等を伝え、応募意欲(入学意欲)を喚起致します。短時間のセミナーではなかなか伝えられない現場の様子は、インターンシップ(経団連のご指導で今年は1DAYが激減して5日間が急増)を導入していますが、これは法政大学でも行っている、高大連携プログラムの特待高校生の本授業参加にあたるでしょうか。

さて、このような広報活動で重要なのは、やはり登壇者の熱意や意欲やプレゼンテーションスキルです。意外と採用担当者(大学教育者も?)は視野狭窄のことがあり、多くの企業説明を聴いていると気になることがあります。例えば、以下のようなことです。

 

・受講者が多すぎる

ガイダンスや講演のように一方向の情報提供なら良いのですが、企業についての受講者の関心はそれぞれに異なるので、質疑応答がやりやすい人数の方が望ましいです。応募者の応募意欲にもつながります。特に今の若者は個人の扱われ方に敏感です。

 

・概要だけに終わる

大企業でよくあることですが、Webや資料でわかることしか説明しないことがあります。受講者は「ここだけの話」を聴きたくてやってきますので、期待外れに終わることがあります。特に大学内での合同セミナー等ではこの傾向がありますが、それは採用担当者の意識・経験値の問題です。

なので、高校生向けの模擬授業においても、高度なことを分かりやすく説明して向学心を喚起することが大事です。これは講義(内容)のレベルを下げることではありません。企業説明会でも優秀な学生ほど、ハードルの高い課題にぶつかった時に燃えます。採用担当者のレベルを見て(誤解して)、応募意欲が下がるというのはよくあることです。

 

・上目線になる

カリスマ方経営者の居るベンチャー企業や羽振りの良い企業等に多いですが、上目線で受講者を見下す講師がおります。学生から畏敬の念をもって見られることは重要ですが、それは講義の内容と伝え方を通じて受講者が自然と感じることです。最近破綻した某大企業が飛ぶ鳥を落とす勢いの時に説明を聴いたことがありますが、妙な違和感を覚えました。おそらくあまりに数多くの説明会をこなし、多くの学生が詰めかけるものですから見誤るようになったのでしょう。

 

前期の授業で嬉しかったことの一つは、オープンキャンパスで私の話を聴いて入学し、私の授業を履修してくれた学生が居たことです。これは私の企業説明を聴いて入社してくれた新人と再会できたのと同じ気分です。こうした出会いを大学も企業も大事にしていきたいものですね。