第206号:法政大学での就業力GPプロジェクト

これまで文科省の「就業力GP」については何度か触れて参りましたが、私事ながら、この4月より法政大学の特任教員(任期付き非常勤講師)に就任致しました。過去のコラムを書いていた時点では全く無かった急なご依頼で、私自身が一番、驚いておりますが、微力ながらも批評者ではなく実践者としてチャレンジしてみようと思います。

 

法政大学のプロジェクト・メンバーは、リーダーの藤村教授以下、私を含めて3名の特任教員が担当致します。特任教員はそれぞれのキャリアを活かした専門分野へのアプローチを行いますが、私の場合は言うまでもなく、まずは企業人事部との連携です。多くの企業と議論しながら「就業力」というものの外部評価基準・手法を開発したいと思っております。これまで多くの「××力」というもが提起されてきましたが、それらを聞く度に、大学教育と企業の求める人材像との距離に問題意識をもっておりました。このコラムで提唱し続けてきたことを実践する機会を戴いたわけですね。

 

以前ここで、就業力というものは、大学の通常授業を通じても十分、身に付けられるものだ、と書きました。例えば「事実」と「意見」を分けるという基本的なアカデミックの視点は、就職活動だけではなく就職後の仕事でも必須のものなのです。

私が新社会人として営業に出始めた頃、上司が新人営業マンにしつこく指導していたのは「いいか、営業会議では、顧客が言ったことと、自分が推測したことは、混同せずに報告しろ!」というものです。これは顧客の言っていたことだけを報告しろということではありません。それならば、営業はただのメッセンジャー・ボーイです(確かにそんな業界もありますが。)。大事なことは、顧客の言った事実をちゃんと確かめる、情報がなければもっと集める、そして推測する、ということです。ベテランになるほど勘がよく働きますが、その場合でも思い込みは危険で、この原則は大事です。

 

このようにアカデミック・スキルはちゃんと社会に通用するものなのですが、残念ながら当時の私は大学でそんなことを学んだ記憶がありません。試しに就職活動中の有名大学の学生にも尋ねてみましたが、「言われてみれば、ああ、確かにそうですね。大学の勉強って、そういうものなんですね!」と喜んでおりました。つまり、大学で学ぶことと、それを社会で応用するということとは別の能力なんだということです。こうしたアカデミック・スキルを再認識させる指導が就業力育成のひとつでしょう。

 

これは資格と就職の関係も同じだと思います。就職活動(採用選考)においては、資格そのものに価値があるのではなく、資格勉強の過程において身に付けた能力や視点が役立つのですが、そこを面接で主張する学生は意外と少なくて勿体ないです。学士力と就業力の関係も同じではないかと思います。学士として身に付けた基本的なアカデミック・スキルを社会で使いこなせる応用力、それが就業力というものではないでしょうか。

 

と、こんな試行錯誤を今月からはじめたところです。今後、企業だけではなく、多くの大学就職課の方々とも意見交換をしていきたいと思っております。今回採択された180校だけでなく、ご意見・ご質問等ございましたら、是非、お声掛け下さい。一緒に考えてみませんか!

 

第205号:救難・復旧・復興対策としての採用活動

震災後3週間が経ちましたが未だに被害の全容が把握しきれておりません。この時期に企業の取るべき採用活動のあり方を、敢えて就職活動に戸惑う学生への支援策として論じることをお許し下さい。いきなり就職活動が止まってしまった学生も間接的な被災者であることには間違いないでしょう。そして先が見えずにエアポケット状態になっている採用担当者が、学生に対して何ができるかを整理して将来への課題提起をする気持ちです。

 

災害における対処としては、「救難」「復旧」「復興」の3段階ですが、これを採用活動になぞらえると以下の通りになるでしょう。

「救難」⇒短期対策で即時に緊急対応すること、現応募者への採用選考スケジュールの説明、採用時期の延期、被災地方に対する特別採用枠の設定です。しかし被災地方の特別枠を設定するのが、ネスレ日本社のように完全に優先採用枠を用意するならば素晴らしいことですが、他の地域の採用選考スケジュールはそのまま先に行うのでは問題があります。というのは、今回の被災規模が明らかになるにつれ、企業への業績影響が徐々に大きくなり、時間が経つほど採用予定数が減少する可能性が高いからです。つまり、被災地方の学生が企業訪問出来るようになった頃には、採用枠が無くなっているかもしれません。ですので、全国の学生には気の毒ですが、機会公平を期するならば全員一律に選考時期を延期するのが妥当です。そして、この延期を次の段階の復旧につなげて欲しいです。

 

「復旧」⇒中期対策で現状に復帰させること、つまり採用シーズンの適正化です。何度もここで私が主張してきたとおり、採用活動早期化にはこうした経営リスクがあるにもかかわらず進めてしまい、結果、学生や企業自身にも大きな機会損失を生んでいるわけです。もし企業の採用活動が総合商社の提案の通り夏からだったなら、どれだけ多くの学生がこの春休みに被災地のボランティア活動に従事できたことでしょう。被災地に直接行かなくても、東京での募金活動や物資の調達や公共団体やボランティア団体への労務の提供や、学生得意のネットを使った被災地向けの支援も可能でしょう。

 

「復興」⇒長期対策で過去を見直しより良い形に再生すること、これにはいろいろな策が考えられますが、私が提案したいのは大学評価の見直しです。現状ではやや理想論と言われそうですが、学生の大学生活(授業成績だけでなく、課外、学外活動全般)を評価して企業が採用できるようになることです。企業が多大な金銭&時間コストをかけて就職(採用)シーズンを作るのではなく、大学の評価基準を信頼して採用することです。大学側も求める人材(選考基準)について真剣に企業と意見交換・議論して企業の採用基準に準ずるカリキュラムや推薦制度を開発することです。(念のため書きますが、就職予備校化ではありません。大学本来の知見を就職・採用活動に応用することです。)

 

幸いにも被災を逃れた地域の企業・大学・学生は、救難にむかえなくても、現状を見直して復旧について真剣に考えることはできるはずです。そして復興を単なる過去の復元とするのではなく、より良い形に創成していく、それができなければ犠牲になられた被災者の方々に申し訳がたちません。