第72号:キャリアセンターと採用担当者のプロ

去る7月25日にダイヤモンド・ビッグ&リード社主催の就職指導支援セミナーで講演の機会を戴き、「大学就職課からキャリアセンターの機能変化」ということをテーマにお話し致しました。私は以前から大学就職課職員と企業採用担当者の仕事環境と課題の共通点が気になっておりました。長らく安定的な雇用慣行の中で行われてきたこの2つの仕事は新たな職業として再生・見直されてきて欲しいという想いです。

点のサポートから線のサポートへ。これが就職課とキャリアセンターの基本的な違いではないかと思います。就職支援という一時期一課題の相談から、キャリア支援という通年多様の課題の相談が求められてきてキャリアセンターと名称変更をした大学職員の方々は十分なリソースを得られないままに走り出すことを求められていることでしょうか。これは企業採用担当者もまったく同様です。これまで新卒採用を中心に人材調達をしてきたのが、突然に中途採用から契約社員・派遣社員、業務委託(アウトソーシング)という多様な雇用戦略の企画立案・実行を求められ、はてはM&A(企業合併等)による人事政策(会社単位の採用活動ですね)まで求められてきています。

また、就職課(キャリアセンター)職員と採用担当者のもう一つの共通点は定期人事異動です。外資系企業では職種別採用なのでふつう定期人事異動はありませんが、旧来型の日本企業では3年位で定期人事異動のシーズンがやってきて、それまでとはまったく異なる業務に就くことも珍しくありません。これは大学内も全く同じことでしょう。一つの組織(大学・企業)で短期定期的に人事異動があるという仕事環境では、長期的な戦略の立案が難しいのは当然で、前任者がやってきたことに沿って任期を勤め上げるというスタイルになりがちです。必然、特定分野での専門化を育成しにくく、逆に汎用的なマネジメントのできる人材が好まれます。こういった人材育成戦略は高度成長期に日本的経営として広く高く世界から評価されたものでした。

ところが、経済環境が成熟・低迷する現在は、同じ目標を多くの組織(大学・企業)が目指すことはすぐにマーケットが飽和してシェアの奪い取り合戦になり、勝者は一部に限られ二極化になります。こんな時代には自大学・自社に最適かつ個性的で他からすぐに真似のされない戦略を企画立案・実行する能力が求められてきますが、それは自大学・自社にある情報・ノウハウだけではとても対応しきれないでしょう。

かくして、今の就職課(キャリアセンター)職員と採用担当者は外部市場でも通用するようなプロフェッショナリズムが求められてきました。大変な時代ではありますが、まさにこの二つの職業にはピンチとチャンスが一緒に訪れたと思うのです。さて、それぞれのゴールは何処に?

 

第71号:個人情報保護法でOB訪問が難しく

この4月に施行された個人情報保護法ですが、だんだんと一般の認識も高まってきました。大学就職課の職員と企業採用担当者にとっては、一番大きな影響を受けるのは企業に就職したOBと現役学生との紹介方法でしょう。双方にとって難題を抱えながら方策を考えなければなりません。

殆どの大学就職課には開架式で企業別の資料が整備されておりますね。情報の豊富な有名大学では他大学の学生も忍び込んで閲覧していることも珍しいことではないでしょう。その企業別ファイルに常備されていたOBリストが姿を消しました。重要なOBの就職体験談についても個人が特定できる部分についてはそのままで公開は難しくなり、大学職員の方々も今春、相当に作業時間をとられていたのではないでしょうか。

一方、これまで大学からの要望に応じて従業員の部署や連絡先を提出していた採用担当者は情報の提供ができなくなりました。正直なところ、採用担当者は作業が一つ減って少々楽になりました。各大学別に送られてくるOBリストのフォーマットは、大学別求人フォーマットと同様、採用担当者にとって作業負担の大きなものでしたから。(今は企業のコンピュータから人事情報の必要な部分を検索してプリントアウトして送付するだけで、大学フォーマットに記入を避けている企業が多いでしょう。)

しかし、企業のOBリストを出せないということは、学生が企業に触れる接点を失うわけですから安穏とはしていられません。特にここ数年、採用担当者は「今の学生はITの情報だけで就職活動をしている気になっていていけません。もっと自分の目と手と足を使って企業研究すべきだ。OB訪問は不可欠です。」と大学内の就職ガイダンスで言い続けてきたのですが、学生がOB訪問をするための最大の情報ルートが無くなったというのは大変なことです。たまに企業採用担当者に電話をかけてきてOB紹介を依頼する学生には、「大学就職課にOBリストを出しておりますので、そちらをご覧下さい。」という黄金の言い訳もできなくなりました。

さて、こうなってくると双方にとっての頼みの綱は、やはり学内・社内のOBを如何に活用するかでしょう。大学OB会では既に現役学生の就職支援に手を付け始めたところもありますが、就職課やキャリアセンターと連携しているところはまだまだ少ないようです。その運営についてはいろいろノウハウが必要になります。企業側は、これまで以上にOBリクルーターを活用することになるでしょう。リクルーターには個人除法保護の知識をしっかり伝えて対応して貰わなければなりませんし、社内でOB対談会を設定することも必要でしょう(特定大学だけに行うのは好ましくない面もあるのですけどね)。

いずれにしても、学生が積極的にOB訪問をするのに大変苦労する環境になってきました。企業も大学でのOB講演にはもっと本気で社員を出さないといけませんね。