第177号:戻した採用担当者

昨年末に「戻」の漢字ネタでのコラムをお送りしましたが、本当に採用時期を「戻した」企業が出てきましたね。周知のキヤノンマーケティングジャパン(CMJ)社の「訳あって、今年の採用活動に出遅れます。」宣言です。やってくれたな、というのが率直の感想です。さて、世間はこの一石をどのように受け止めるのでしょうか。

 

このニュースは就職業界関係者にとっては大きな出来事なのですが、世間の反応はそれほど大きくないようです。採用担当者の受け止め方もまちまちで心穏やかではありません。

 

「キヤノングループほどの企業もたいへんなのか。」

「企業業績悪化を美化した上手な広告だ。」

「うちもやりたかったなあ。」

「10月に同社から採用案内のDMが届いてたぞ。」

(*注:この宣言はそのDM発送後に決定されたようです)

 

しかし、根本的なことが忘れられています。

 

日本はグローバル化が遅れている、ガラパゴス化しているとの批判は盛んですが、今の就職・採用活動が恐るべきローカル・スタンダードの横並びの惰性でやっていることを。

大学生活の重要な新学期、それも入社の1年前に大騒ぎの就職イベントをやっている国家が世界にありますか?

 

理由は何でも良いのです。今の異常に早期化・長期化した採用・就職活動が是正されるなら。

大学キャンパスにもう少し平穏を取り戻して欲しいと思います。

 

冷静に見れば、この宣言文は極めて普通の経営感覚で書かれています。先の見えない経済の中で超長期の先行投資が危険なことを平明に伝えています。問題なのは、こうした当たり前の文章が稀少情報でニュースになってしまう日本の世の中の方ですね。

 

1000歩譲って春に採用活動を始めることは良いとしても、ならば夏に就職活動をする学生を無理に拘束するような真似はやめて欲しいと思います。社会も企業も大学も、これを機会に正気に戻ることが大切だと思います。

 

大学教職員の皆さん、一緒にCMJ活動(ちょっと、待て、人事採用!)してみませんか?

 

▼参考URL:

「訳あって、今年の採用活動に出遅れます。」(キヤノンマーケティングジャパン社サイト)

http://teiki.saiyo.jp/canon-mj2011/contents/dm_2/index.html

 

第176号:採用担当者は社会の壁

この不況の中で採用担当者の仕事を見ていると、採用担当者はその企業の門番であると同時に「社会の壁」だと感じることがあります。社会に出るにはまだ早い若者をせき止めている役割ですが、それはただ冷たく突き放すのではなく、若者に機会と試練を与える「大人の壁」だと思います。

多くの学生がこれまで社会の壁としてぶつかって乗り越えてきたのは小中高大の学校受験ですが、その壁が少子化の影響でドンドン低くなり、それほど苦労しなくても大学まで来られるようになりました。しかし、最後の壁である就職だけは、逆にいきなり高くなってしまい学生が戸惑っています。この壁には高いものも低いものもあるのですが、何故か高いところばかり選んでぶつかっては玉砕している学生も居ます。

壁にぶつかった若者は、その悔しさや失敗を振り返って学習し、更に何度もチャレンジすることによって成長します。この失敗から学んで成長するという社会学習が身につかず、諦めきれずに同じ失敗を繰り返している、失敗しないように大人が手取り足取り手助けするようになってしまっているのが今の時代の困ったところではないでしょうか。

今こそ学生は若者らしく『失敗から学べ』と言いたいです。「どうすれば良いんですか?」と質問する学生ではなく「これではどうですか?」とぶつけてくる学生になって欲しいです。こうした意見や手段を自分で考えられるようになれば、多くの採用担当者は壁を開いてくれると思いますし、それこそ企業が求める人材像の一つでしょう。定番になったコンピテンシー面接の視点も、積極的に行動し、成功は繰り返す、失敗は繰り返さないという学習手法をもっているかどうかなのですから。

就職課の皆さんも、常に目の前の学生に試練を与えるか支援を与えるかで悩んでいますね。採用担当者は立場上、機会を提供するだけで個別支援まではできませんが、就職課の方にはそれができます。その際に大人として大事なのは、やはり自分自身が元気な大人であることではないかと思います。私も就職相談員として学生に相対する際は「元気な壁」であることを心がけています。試練を与える大人の責任として、若者が安心して胸を借りられる壁でなければならないと思います。豊かな環境に慣れてきた学生にはすぐに試練に立ち向かうことは難しいですが、それをやらせるべきなのが大人の大事な役割だと思います。

さて昨年の最初の原稿の末文に、私の高校の恩師の言葉を紹介いたしましたが、長引きそうな不況にあたり、今一度ここでお伝えしたいと思います。

「平成20年は激動の年でしたが、空襲に逃げ惑い、飢餓に苦しんだ昭和20年に比べれば何程のこともないと思います。」

私事ながら、昨年30年ぶりの同窓会でこの恩師と再会できました。足腰は弱っておられましたが、高校の時に下さった説教で100人以上集まった50歳近くの若者たちに渇を入れてくれました。不惑の時代を越えてなお厳しい環境に向かう我々には大きな励みとなりました。

派遣村などの規模が昨年より大きくなったり、未だ卒業後の行き先が決まらない若者が居たり大変ですが、昭和20年と比べたら何でもありません。元気は誰からか貰うものではなく、自ら「出す」ものです。まだまだ我々は元気に生きていけると思います。 新年、頑張って行きましょう!