第353号:インターンシップで求められるスキル

時節柄、3年生の夏のインターンシップに向けた指導でお忙しいことでしょう。インターンシップを実質的な採用母集団形成に活用する企業も増えているので、4年生の就活相談を行いながら進めるのは大変ですね。私もこの時期は「インターンシップの心構え」というセミナー依頼が多いです。既に各校で定番のプログラムになっておりますが、私が採用担当者と大学教育者の両方の目線で話していることをご紹介したいと思います。

まず、インターンシップとは大学と社会を切り離して理解するのではなく、自らの意志で大学研究と社会の関係を意味づけできる能力の育成と機会の提供です。例えば、定番のビジネスマナーにおいても、挨拶や敬語や名刺の渡し方だけにとどめてはいけません。ビジネスマナーとは自分と相手の時間を大事にして「効率」を求めることと理解して、的確迅速に自分の考えを相手に伝えることも含めます。それは大学でのコメントペーパーの記入、レポート作成、課題発表での質疑応答、グループ・ディスカッションでも同様に求められることです。そして、社会で求められる力(インターンシップで実行している目標)として、以下の7つを教えています。

傾聴力 ⇒相手の信頼を得る力

質問力 ⇒相手から情報を得る力

記録力 ⇒書き留める習慣の力

実践力 ⇒マルチタスク&リアルタイム

分析力 ⇒問題や構造を理解する力

説明力 ⇒論理的に話し、納得して貰う力

楽観力 ⇒悲観は気分、楽観は意志

どれも一般的なことで説明不要でしょうが、これらは以下の2点を踏まえて指導することが大事です。これを忘れると「わかったつもり」になりがちです。

1.一般的な言葉は意味の幅が広いので、認知差が発生しないように注意する

2.それぞれの能力の自己鍛錬方法(現場での実行方法)まで教え込む

例えば「傾聴力」は本来カウンセリング等での専門用語でしたが、「報連相」と同様に今では学生も自己PRによく使います。しかし、カウンセリングのトレーニングを受けた方にはおわかりの通り、「傾聴力」は単に黙って聞くのではなく、相手を話しやすくする技術です(なかなか大変ですよね)。「分析力」は一定の基準(時間・空間)で構造を明らかにすることです。これらは大学での論文作成や討議にも必須のスキルであり視点です。

このように「インターンシップの心構え」を精神論で終わらせず技術論に落とし込むと、学生の成果も上がりやすいでしょうし、後の達成評価もやりやすくなります。この夏休みに、多くの学生が社会の中で大学の学びを再認識してくれると良いですね。

 

第352号:AIは採用活動を変えるか?

「忖度」と「AI」は、今年の流行語の東西横綱になるかもしれませんね。AIが発展すると「なくなる職業」というのもマスコミを賑わしましたが、果たして採用担当者の仕事はAIによってどのような影響を受けるのでしょう?

 

採用活動は、大きく分けて大規模母集団形成型(不採用活動)とスカウト型(ダイレクトリクルーティング)がありますが、まずAIが活用しやすいのは前者です。マスメディアを活用して形成した集団を選考活動で絞り込んでいくのは膨大な金銭&時間コストを伴います。特に初期段階での絞り込みは労働集約的作業ですから絶大な効果を出せるでしょう。

 

先日、ソフトバンク社がAIをエントリーシートの評価に活用するというニュースが出てきました。このように単純な正解/不正解の判断ではなく、経験値と能力との複雑な相関関係を把握する作業はまさにAIの強みが発揮できる分野です。勿論、最初は精度が低いかもしれませんが、こうしたデータを積み重ねることによって確実に進化するのがAIです。大学入試改革でも小論文の採点にAIの導入が検討されているのと同じですね。

 

一方のダイレクトリクルーティングでAIがどのように活用できるかは少し難しいですが、何処の柳の下に行けば二匹目のドジョウが居るかの確率を高めることに使えます。自社の求める人材がどんな大学・学部・ゼミに所属してどんな授業を履修しているのか、どんな部活・サークル・コミュニティに属しているのか、どんなバイト・ボランティア・イベントを経験しているのかを探し出すことです。

 

この場合では先述のケースと異なり、母集団形成過程において入手できる応募者情報ではなく、社外に存在しているビッグデータが必要になります。AIはどんなに優秀でも処理すべきデータがなければ無力です。そのため、今後はビッグデータを持っている思わぬ産業が就職情報産業に絡んでくる可能性があります。例えば、JRやJTB等は膨大な旅行者情報をもっておりますが、そのデータを活用して市場調査サービスを提供しているように。

 

採用担当者にとって有り難いのは、大学側がそうしたデータや情報を提供してくれることです。どの授業やゼミや教員がハードで良い学生を育ててくれるのか、そうした学生はどんな企業に就職していくのか、もしこうした情報が提供されるなら、学生と社会の出会いにも可能性が広がるように思います。そしてそれは、大学の教育力向上にも資するFD活動にもなるのではないでしょうか。

 

AIは人間の仕事を奪うものとして恐れる方もおりますが、そうした新技術を使いこなす視点を持ち続ければ、個人も社会も相互に発展可能でしょう。そうしないと、AIの方がドンドン進化して、いつか本当に人間の方が消えてしまうかもしれません。相互に進化していけば、AIは人間のことを忖度してくれるようになってくれると思います。

 

▼参考URL:「ソフトバンク、新卒採用にAIを活用 ESの評価を補助」(日経新聞)

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL29HL0_Z20C17A5000000/