第201号:就職活動をさせるから就職ができない

学部3年生を中心とした就職活動が本格的に始まりました。学生は企業の訪問のために自己PRやエントリーシート(ES)の準備に余念がありませんが、無駄なことをやっているなあ、と感じさせられる学生が最近は増えています。大学で学んだことを、ちゃんと理解していれば、就職活動への対処もしっかりできるはずなのに、それができないのは、教員が教えていないのか、学生が学んでいないのか。

 

大学で学ぶことは無数にありますが、もっとも基本的なことは「事実」と「意見」を分けるということでしょう。アカデミックな視点とは、自分の思い込みや想像から語るのではなく、可能な限り調査・実験を行ってデータを集め、それを加工して情報にし、その分析から自分の「意見」を述べることです。

 

このことをちゃんと理解しているならば、就職活動において「行動実績」のない「自己PR」は全く意味がないことがわかるでしょう。仮に「行動実績」があったとしても、誰もが行っているようなものであれば競争力はありません。そして、それを冷静に評価するのが、今のコンピテンシー面接です。

 

私が冒頭で述べた無駄なことをしている学生とは、たいした行動実績が無いのに必死に自己PRやESを書こうと悩む学生たちです。志望企業にもよりますが、それは順序が違うというか、手遅れです。まずやるべきことは、何でも良いから他者と比較して可能な限り競争力のある行動実績をつくることです。

 

そうした学生達の簡単なアルバイト経験を、むりやりにカッコ良い自己PRに加工させるような就職指導は時代遅れで、ファーストフード店でハンバーガーを販売した経験を「マーケティング活動」などと言わせるようなものです。当たり前のことですが、「行動実績」は一朝一夕にはできません。しかし、それがあれば自己PRやESは比較的短時間にできあがります。

 

私が言いたいのは、3年生の春休みに就職活動をさせるのは、その実績作りの貴重な時間を奪うことである、ということです。小学生からの長い学生生活の頂点で、もっとも余裕があるこの時期に、仕上げの「行動実績」つくりをさせずに就職活動をさせるということは、就職できない学生を生産することになっていませんか?

 

12月から始めないと学生が企業理解不足でミスマッチが発生する?仮にどんなに時間をかけても、学生が企業や社会を完全に理解して就職できるはずがありません。ミスマッチを無くすなどとは幻想で、ミスマッチがあるからこそ若者は社会で育つのです。夏休みからでは卒論に間に合わない?理系の研究活動などは、一番立派な学生の「行動実績」です。その実績をうまくPRできないなら、それを引き出すことこそが採用担当者の仕事ですし、推薦制度とはその補完のために始まったものでしょう。

 

学生に1年以上の長期の就職活動を求める企業群には言いたいです。それならば、学生の勉強ではなく、就職活動を評価すべきです。一番、力を入れたことは何ですか?という質問に「就職活動です。」と答える学生をちゃんと評価して下さい。

大学生の正しい就職活動とは「行動実績」つくりのことです。今の就職活動と呼ばれるものは本当に就職活動なのか?それとも就職活動の勉強をしているのか?私には「就職騒動」に見えるこの頃です。

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