第360号:授業におけるRJP(Realistic Job Preview)

大学授業の履修登録期間というものがありますね。新学期の最初の1~2回がお試し参加で、授業内容や教員との相性(?)を確認してから履修確定になるシステムです。これは私のようにグループワークを行う授業では、なかなかメンバーを確定できずにやりにくいですが、一方で、楽な授業ではないことを知らしめるには良いと思います。それは企業が採用広報で使うRJP(Realistic Job Preview)になるからです。

RJPは、神戸大学の金井壽宏教授が企業採用担当者に広くご紹介されたので、皆さんも耳にされたことがあるかもしれません。採用広報において、良いことや楽しいことだけではなく、大変なこと、苦労することも包み隠さず伝えることです。どんな新入社員も多少経験する理想と現実のギャップをできるだけ埋める工程です。例として有名なのは、1900年頃のロンドンで出されたという新聞広告の以下の文章です。

『求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の日々。絶えざる危険。生還の保障はない。成功の暁には名誉と賞賛を得る。アーネスト・シャクルトン』

これは南極探検の隊員募集の広告で、5000人が応募したといわれています。これと同じ手法は、企業もよく使っていて、入社後に早期に退職されるよりは、最初から避けて貰う、入社するからには覚悟して貰う、というワクチン効果です。ブラック企業かどうかを見分ける時にも有効ではないかと思います。良心的な人事はとりあえず入れてしまえば後でなんとかなる、とは考えませんから。

ということで、私はいつも初回の授業で「プレゼンテーションは必須」「無断遅刻・欠席不可」等と言ってきたのですが、昨年からシラバスにも「私語厳禁」と記載したら履修者が3割ほど減りました。元々、教室が一杯になっていたので良いかと思っていたのですが、先日の授業で「私の方針に合わないと思えば履修しない方が良いです」と言ったら、その場で2~3人の学生が退席しました。この現象はあまり見られるものではありませんが、やる気のある学生(覚悟を決めた学生)が残るので良しとしています。

少し心配になったのは、退席した学生達は「自分にあった環境」でしか生きたくない(生きられない)のではないかということです。環境に相当に恵まれていない限り、自分の思うとおりの人生など歩めませんし、そうした葛藤のなかで人は成長したり仕事力が付いてくるものです。若者が誤解しているのは、大学は成功する場ではなく「実験と冒険の場」であること。未知のこと、未経験なことをやるから上手くいかないことの方が当たり前だということです。

「だから、大学には失敗などありえないし、上手くいかないから面白い。」

とか話すと気を取り直して参加する学生も多いですが、それでも友達と一緒でないと嫌な子も居て、見ていて伸びそうな子が友人(出席番号が近い者同士が多い)と共に来なくなって、勿体ないなと思います。どれだけ多くの若者が自分の可能性を知らずに閉じていることでしょうね。