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第12号:面接における解答と回答

師走となり、大学内での就職ガイダンスもお忙しいことでしょうが、採用担当者も大学や業者主催のイベントに招かれ、負けずに全国を走り回っています。多くの就職ガイダンスの面接指導では、スキル系(面接や筆記試験のテクニック)と、心理系(志望動機や自己分析)をトレーニングするものでしょう。企業もこの2点を確認するわけですが、意外にも学生はこの差異に気づかないことがあります。

面接でのチェック・ポイントをスキル系と心理系に分けてみると、前者は面接室への出入りの仕方、挨拶・態度、敬語の使い方、質問の反応スピード、質問の理解力等であるのに対し、後者は応募者の性格、情熱の指向性、ものごとの視点、発想のユニークさ等です。つまり、前者はある程度の基準というべき「正解」が用意されています。それに対し、後者は応募者個人の価値観や個性を問うものであり、「正解」は存在していません。

ですから当然ながら、面接者はスキル系のポイントに対しては「社会常識」という多くの人と同じものを期待しており、心理系のポイントでは逆に他の人と何がどのように違うのか、ということを期待しています。就職ガイダンスのトレーニングの際に、あまりスキル系のことに気をとらわれすぎると、この二者が混同されてしまい、つい志望動機や自己分析について「正解」を求めようとしてしまいます。学生の方から採用担当者に多い質問に、「どのようなタイプが御社に向いているのですか?」というものがあるのですが、私たちもつい理想的な人材像を話してしまいがちです。

社会人にならないとなかなか使わない漢字のひとつに「回答」という言葉があります。小・中・高・大の長い学生生活では「解答」を求める訓練が殆どであり、ふつう、それには唯一の「正解」が用意されていました。ところが、社会においては、「正解」を問うものよりも「価値」を問うものが多く、そのこたえは、「回答」です。学生の方には就職活動を通じて、唯一の「解答」求めてきた学生時代から、無数の「回答」が求められてくる社会人の世界に気づくような精神的成長を期待したいと思います。

ちなみに、新社会人のビジネス文書において、この「回答」と「解答」書き間違えるのはベスト5に入る漢字の誤用なので、社会人もあまり大きな顔は出来ません。

第11号:採用活動のアウトソーシング

昨年から目立ってきたのが採用活動へのアウトソーシングの導入です。これまで企業セミナーの受付や繁忙期に派遣社員を導入する程度でしたが、最近は企業セミナーのプレゼンテーションを丸ごと委託するケースが増えています。企業の新卒採用枠が非常に厳しくなり募集数が減少してきておりますが、一方、その舞台裏である人事採用担当者の現場にも厳しい経営環境が現実として押し寄せてきています。

企業の採用枠が減るということは、採用の仕事が減ることで、利益を追求する企業としては当然ながら採用担当者の人員を合理化致します。人員の一部を営業部門に移動したり、これまで採用専業だった担当者が能力開発や人事労務の仕事を兼業するようになってきています。こういった傾向をみていても、現在の不況が構造的なものであることを実感させられます。アウトソーシングの導入もその一環で、この分野の受託企業には売り上げが昨年より倍増しているところもあり、良い業者を押さえるのに企業が苦労することもあります。

アウトソーシングをどの範囲で導入するかは企業の考えによって異なりますが、委託を行う際には無駄な業務を見直して標準化を行うことになるので仕事の効率化は進みます。面接までアウトソーシングを行うこともある外資系企業と違って、日本では「人事は正社員で」という発想がまだ強く、社内アウトソーシングという形で現場社員をリクルーターに動員したり、大企業では人事アウトソーシング会社をグループ内に設立して採用業務を代行させたりしてきました。今の動きはそこから更に進んで、社内と社外のアウトソーシングのコストを比較して判断する、というところまできたということでしょう。

日本企業では面接までアウトソーシングするのはまだ少数でしょうが、これまで担当者の経験や勘に頼っていた選考基準を明らかにしていくということは、成果主義による社員の業績評価を進める人事部としては、当然のことです。うかうかしていると採用担当者自身がアウトソーシングに置き換えられますので、頑張らないといけません。

第10号:コミュニティ型採用活動

きびしい経済状況が続くなか、企業の採用活動にも大きな変化が出てきています。その変化は景気循環型一過的)なものと、構造的継続的)なものとがあります。前者は景気停滞中の間だけ規模を縮小したり停止することで、後者は活動そのものの方法が変わり、景気が良くなっても元には戻らないものです。構造的な変化のひとつに、最近はコミュニティ型採用活動といわれるものが目立ってきました。

 コミュニティ型採用活動とは、応募母集団の形成を求人広報とは別の形で行うもので、典型的なのはアルバイトを経験した学生の中から正社員や契約社員の形で雇用するものです。この手法は以前よりありましたが、採用の主流の方法として意識されてきたのはわりと最近のことです。代表的なのは、外食産業、コンビニエンス・ストアのように、チェーン展開を行いお客様との対面コミュニケーションがある業界です。

コミュニティ型採用活動の企業側の主なメリットは、以下のとおりです。
1.契約社員としての雇用もできるので総額人件費を抑えられる。
2.実際の働きぶりをみて有望な社員を採用できる。
3.採用広報コストを下げられる。

つまり、採用活動にかかる直接・間接のコストを削減し、より有望な人材を会社の業務の中から発掘していこうという発想です。現在、流行っているインターンシップ活動も、広い意味ではこのコミュニティ型採用活動の範疇に入るといえるでしょう。採用に直結させていないインターンシップもありますが、学生も企業もこの期間に自然とお互いの見合いを行っているものです。

先日、日経新聞社が発表した採用意欲が旺盛な新規上場企業の多くは、企業の最重点課題として「優秀な人材の採用」を挙げておりますが、このコミュニティ型採用活動を行っているところが多いです。日本経済の構造改革は進んでいるのかどうか実感が湧きませんが、生き残りに必死で業績を伸ばしていく企業は、採用活動も根本的に見直し、型にはまった採用活動をやめ、毎日の営業活動の中に採用活動を取り込みながら、どんどん形を変えています。自社のコミュニティをどう形成するか、これが今の採用担当者の最大の関心事なのです。

第9号:就職に関するルール

10月15日に日本経団連から「平成15年新規学卒者に対する採用・選考に関する倫理憲章」が出されましたが、もう既に多くの企業は臨戦準備態勢に入っています。就職協定が廃止されて数年が経ち、この是非について改めて考えさせられるようになりました。

つい先日、企業人事部の採用担当者との情報交換会の場で、ある企業の方がゆきすぎた早期化の防止のために就職協定を復活させるべきだ、と憤慨されておりました。この会社の関わる薬学・化学系の分野では、平成15年卒の学生に外資系企業からはもう内定が出ているそうなのです。

私自身は就職協定の復活はあまり賛成ではないのですが、現状の大学の混乱した様子を見ると、復活も仕方ないのかな、と思わされることもあります。今回の倫理憲章では、選考活動を卒業年次になるまで行わないことをハッキリ明示しておりますが、現時点で多くの企業が来季の選考活動のスケジュールを組んでしまっていますし、4月から選考開始となると新学期の授業単位選択やゼミの開始の大切な時期とまともにぶつかってしまわないかと心配です。

この問題の本質は「新卒一括採用」という日本独特の雇用慣行にあるのではないでしょうか。学生にとっても企業にとっても、この締め切りがあるためにドンドン「早い者勝ち」の気持ちになるのでしょう。企業の募集要項の「○○年卒業見込み」というのは、ある意味の年齢差別ではないかと思います。これが「○○年卒業見込み、および卒業後2年以内」となって既卒の学生も一緒になれれば、いわゆるミスマッチ就職をされた学生さんが、一度、社会に出てからやり直すことも容易になりますし、「早期化」が逆に「遅延化」になるのではないかと思います。

日本の新卒一括採用は、人材の企業内育成を重視する経営風土と表裏一体なのですが、多くの企業が従業員の自立を求めるようになったいま、採用担当者も目線を括対応から個別対応に変えて行かなければならないのではないでしょうか。

第8号:学生主催の就職イベント(学生コミュニティ-1)

ここ数年顕著になってきた学生の動きに、後輩の就職活動を支援する学生コミュニティがあります。就職活動を終えた4年生が主体となって、これから活動を始める3年生向けにいろいろなアドバイスを行うものですが、その内容や意図にはいろいろなものがあります。

最近の学生は同じ大学の仲間だけでなく、他大学の同じ志望をもった仲間と就職活動を行う傾向があり、無数のコミュニティが生まれていることは、企業の人事部もわかっています。インターネット時代の申し子のような学生たちの行動ですね。かつては同じ大学のサークルから1日に10人も面接応募にやってこられたことから考えると、学生の協力体制も、大学外にドンドン広がっています。

こういった学生の活動で注意したいと思うのは、先輩学生の使う言葉の「ホンネ」という言葉です。学生の方々は、「ホンネ」と「タテマエ」というデジタル的な視点で企業を判断しがちですが、ここに盲点があります。先輩学生は多くの貴重な体験談を後輩に伝えてくれて、OB訪問と同様な企業の現場情報を伝えてくれます。しかし、ご存じのとおり「ホンネ」というのは、企業の社員ごとに個人の判断が入るモノで、それを伝える先輩学生も多様な受け取り方を致します。

大切なことは、「ホンネ」と「タテマエ」(企業セミナーの内容はタテマエだとは言いませんが、大きな企業になるほど、現場の情報を伝えきれないのは事実です。)を総合的に判断することでしょう。こらからの就職ガイダンスで、多くの大学が卒業生や4年生を招いて体験談を話されると思いますが、就職部の方からは、そういったホンネ情報ミクロ情報)と、タテマエ情報マクロ情報)を総合的に判断することをご指導頂けたらと思います。

第7号:応募学生の意志の低下(今年の就職戦線の傾向3)

前回は応募学生のレベル低下というテーマをお伝えしましたが、似ていて異なるものに、意志の低下という現象があげられます。筆記試験の結果も良く、面接の対応にもスマートな学生なのに何をしていきたいのか見えてこないケースがあります。

先日、ある学生との就職活動に関する会合で「貴方のやりたいことは何ですか?」と訪ねた時、彼の回答は「適性検査の結果によると、僕は○○と○○の仕事に向いているようなんです。」というご返事でした。私は彼自身がどんなことを目指しているのかを率直に聞きたかったのですが、残念ながらその後の会話の中からは感じ取れませんでした。

この現象の背景には、就職情報の洪水に翻弄される現代の就職活動学生の姿が浮かんでいると思います。10年前と比べ、はるかに応募企業情報は安価に大量に手に入りますが、その結果、情報収集に時間を取られすぎ、自分で取捨選択したり考えたりする時間を失っていると思います。これがIT時代の就職活動で最も危険な点でしょう。

釈迦に説法ですが、アセスメント・ツールは結果と自分の考えに差があって当たり前であり、何故そこに差が生じるのかを考えるキッカケにして、新たな自分の可能性を発見するものであります。被験者が自分の適性を理解するためのサブ・ツールなのですが、最近はこの点が本末転倒されがちなので、進路指導には要注意だと思います。

同様に、学生に自己分析の必要性を訴える就職コンサルタントの方や書籍は多いのですが、その分析結果に縛られすぎないように注意を喚起するのも大事なポイントではないかと思われます。エントリーシートでも、面接での志望動機でも、適性検査でも、同じことを何度も回答したり、書いたりすることは、本人にとって気づきを喚起させるための良いトレーニングになる一方、あまりに無意識にそれを続けると自己分析した自分に捕らわれていることに、本人も気づかないことがあります。

自分が何者かを改めて自分で考える力、決める意志を指導したいものですね。

第6号:応募学生のレベル低下(今年の就職戦線の傾向2)

今シーズン、採用担当者からもっとも多く聞いたのは、応募学生のレベルの低下の件でした。文部科学省もようやく子供の学力低下について、認識を新たにし始めているようですが、採用の現場の人間は危機的なものを感じ始めています。

長年、採用活動を行っていると、当たり年とそうでない年があるというのは経験してきましたが、ここ数年は明らかに連続して低下の傾向にあるようです。それも学力の低下という知識面だけではなく、挨拶・マナー等の常識に関する部分も目立ってきました。企業説明会に遅刻しても、「遅れてきました。」と当然のことのように遅れてきた対応を求められたりします。ついにある著名企業は、遅刻応募者を門前払いするようになりました。「大学4年生というよりは、高校7年生だね。」という採用担当者もおります。

この傾向には多くの複合的な理由があるのでしょうが、最近の高校生の就職率が減り大学進学率が上がっているところをみると、これまで大学進学しなかったタイプの学生が増加しているのではないか?ということは容易に推測されます。面接の現場の実感でも、有名大学の学生に対しても、「あなたは一般受験入学ですか?推薦入学ですか?」という質問が欠かせなくなってきました。こういった現象は、就職相談の現場にあるみなさまにも実感されているのではないでしょうか?

かつては期待するレベルの学生が採用できない時には、ボーダーラインの学生に内定を出す企業もありましたが、この経済環境下においては、定員割れしても無理に採用しない企業の方が増えてきています。その結果が、2001年の新卒無業者率21.3%(文部科学省学校基本調査)という数字を生み出す理由の一つになっているのかもしれません。コトはもう世代ではなく時代の問題になりつつあるといえるのではないでしょうか。

 

第5号:女子学生の健闘(今年の就職戦線の傾向1)

今春からの企業の採用活動における動向がまとまってきました。これから数回に分けて今シーズンに顕著だった傾向についてお伝えしていきたいと思います。

まず目立ったのは、今年の就職活動では女子学生が頑張っておりました。企業人事部によっては「今年は女子の方が優秀だ。」という言い方をされるところも多いですが、ダイヤモンド・ビッグ社の調査(男子重複内定社数:2.53社、女子重複内定者数:3.34)でも明らかになったとおり、男子学生を大きく上回る内定数を得ています。

Professional Recruiters Clubのメンバーの声を聞いても、「年々、女子の方が優秀なり、総合職の枠を変えた。」「女性ばかり採用するわけにはいかないので困った。」という声を聞きます。春先に私の方で何回か就職活動中の学生を対象にディスカッションを行いましたが、その中でも積極的な発言を行ったり、質問して食いついてくる女子学生が目立ちました。

女子学生が優秀かどうかはさておき、私が感心したのはその積極性と行動力です。男子学生に比べて、「一人で行動する力」が強いように見えます。インターンシップも積極的に探し、ドンドン自分で意志決定し、失敗しても立ち直りが速い。米国のドラマのキャリア・ウーマン(という言い方も古いですが)が、仕事と恋人との選択で悩みながらも迷わず仕事を選ぶシーンを彷彿とさせます。

来るべき少子高齢化時代、女性と中高年者の活躍が期待されていますが、10年先を見るとまさに今、元気な女性を採用することが、企業の基盤を支えることになるのではないでしょうか。10年後、優秀な女性社員に外資系企業へ転職されないような企業つくりをしなければならないと思います。

 

第4号:多様化するインターンシップ

採用担当者の新しい夏の仕事に、3年生向けのインターンシップの準備・実施があります。インターンシップは、厚生労働省やマスコミ等では持てはやされている感がありますが、ワークシェアリングの時と同様、その捉え方は企業人事部によって温度差があり、採用のための手段としている場合もあれば、採用手法としてはメリットがないと考えて導入に否定的なところもあります。

一方で、学生はインターンシップを採用応募のひとつとしてステレオ的に判断しがちです。インターンシップを行っていない企業は遅れている、インターンシップの選考に漏れたらその企業の採用選考を受けても通らない、という声をよく聞きますが、上記のとおり、インターンシップは企業によってまだ模索中のプログラムであり、今後ますます多様化していくことでしょう。

またインターンシップ経験者から、プログラムの内容や現場の受け入れ体制が十分ではない、という感想を聞くことがあります。しかし、実際に仕事をする際に環境が十分に整っていることなどあり得ません。与えられた環境の中で、如何にベストをつくすか、またはその環境を変える努力をするか、ということを学ぶのが就業経験の本質でしょう。大学の机上の学問では学べないことです。言い換えれば、社会の不合理(現実)に接する機会なのです。

かつてインターンシップという言葉を日本に初めて導入された、法政大学清成総長はこれを就職活動という視野の狭い概念ではなく、大学指導では困難な就業体験教育として紹介されました。現在のブームは本来の教育という概念からはずれつつあるのかもしれませんが、こういった機会を学生も企業も模索しながら、積極的な学生が増え、良いプログラムが増えていくことを期待しています。

第3号:採用担当者の夏休み

今年の夏は台風と猛暑の繰り返しですが、暑中お見舞い申し上げます。殆どの大学では前期末試験も終了し、賑やかだったキャンパスも静けさを取り戻しているのではないでしょうか? この時期は就職情報企業から企業人事部向けにいろいろなセミナーが開催されるシーズンで、企業の採用担当者は夏休みのことを考えながらも、もう来年の採用活動の企画について急き立てられるように思いをめぐらせます。セミナーの内容は、以下の3通りのパターンが多いです。

1.この春の就職戦線全体の傾向分析

2.採用活動を順調に終えた企業の担当者を招いた事例紹介

3.秋から販売される新商品の紹介

採用担当者は、夏休み中にこのようなセミナーを参考に、春の採用活動の分析を行い、成功点・失敗点について、いろいろと議論をして夏の終わりから秋の始めにかけて来春の採用活動の計画を考えます。ちょうど大学の先生が夏休みに自己研鑽をされるような充電期間といえるでしょう。

ところが、最近の就職情報企業から紹介される商品には、就職シーズンの超早期化により、現在の内定者に対する研修システムや、内定者の辞退を防ぐようなフォロー対策を企画した商品も増えています。内容をみてみると、パソコンの使い方、決算書の見方、という実務的なものから、組織での行動、自己啓発の仕方、キャリアプランの考え方、という社会人教育に関するものまで多彩です。

更に加えて、ブームに火がついてきた、夏休み期間を利用したインターンシップ(多くは3年生対象)の企画商品も登場しつつあります。

というわけで、季節労働者と言われている採用担当者の、唯一のやすらぎ、ともいうべき夏休みも、もはや風前のともし火になって参りました。これはある採用担当者のつぶやきです。「通年採用というのは、1年中、学生の応募を受け付けるということではなく、採用担当者が1年中忙しいってことさ。