第247号:12月解禁は大学教育破壊

今年も学生から「お願いメール」が届くようになりました。「お忙しいところスイマセンが、エントリーシート(ES)を添削して戴けませんでしょうか?」というものです。1月は期末試験を前にどれだけ教職員が忙しいのかわからないのでしょう。勿論、それは学生も同じなのですが。それでも何とか時間をとってみるのですが、文章力は年々低下していて読んでいて情け無くなります。

 

いきなり感情的な文章から初めてしまい恐縮ですが、それは情け無い学生のESがたくさん届くようになってきたからです。ESの実例を以下にあげましょう。有名企業に応募した学生の志望動機です。

 

「私は地道な作業をこなせるだけではなく、挑戦する力があります。御社のテレビCMは私のもっとも好きなCMです。音楽や映像のインパクトも大きかったのですが、貴社の技術力を感じました。貴社の商品はお客様の希望に答えるだけではなく、気づかない部分にまで目を向けさせ、サポートしてくれるものだと思っています。(以下略)」

 

この文章は最初の2文だけでもう先を読む気がなくなります。これは採用担当者としても教員としても同じです。まず1文目が結論とは思えません(課題が自己PRならこの出だしでも良いのですが)。次の2文目になると、もう1文目との論理関係が飛躍(破綻)しています。3~4文目となると、また別の展開に向かってしまいそうです。これは論文の書き方の基本である、パラグラフ・ライティング(主文+説明文+結文)という基本的な論理構成をわかっていないということです。文学作品やブログならばともかく、起承転結の「転」は論文では使わないのが原則です。

 

昨年もESの書き方について「一次情報にあたる」「複数の情報を集める」「持論を展開する」という基本的な取り組み方の欠如を指摘したのですが、それ以前の文章の書き方のレベルが年々下がってきています。そこを気づかせ、鍛えるのが大学の授業であり期末試験なのですが、3年生にもなってこんなESを書くようでは、論文についても心配です。

 

更に心配なのは、文章力だけではなく、こうした依頼をする学生の思考や態度です。「添削して下さい」と頼んでくる学生は、大学入試の小論文でも担任の先生に書いて貰ったのか?と思わされます。自分の書いたものに対して評価やコメントを伝えるのは良いのですが、「どう書けば良いのですか?」などと聴いてくる学生の態度を教員は許してはいけません。企業でも良い上司なら「どうすれば良いのですか?」と手ぶらで尋ねてくる新人には「お前はどう思うのか持ってこい!」と指導します。

 

知識やスキルは短期間に習得することもできますが、思考や行動様式は短期間には変わりにくいものです。大学は自ら考えて試行錯誤する能力を4年間かけて育成する場のはずですが、それが就職活動の早期化で妨害されている現状も情け無いです。せめて3年生が終わるまでは学業に専念させてやって欲しいものです。影響を受けているのは、一握りの優秀な学生では無く、多くの勉強が必要なふつうの学生なのですから。このままでは恥ずかしくて採用担当者にあわせる顔がなくなります。

 

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