第69号:転職を考える新入社員

今春、就職した新入社員達も研修が終わり現場に配属されはじめました。どの新入社員も就職活動で考えていたイメージと現場とのギャップを感じながら頑張っていることでしょう。最近では5月病という言い方も古くなったかもしれませんが、企業の現場に出た新入社員から早くも転職の相談がありました。人も羨むような人気企業に入ったのですが、人の悩みはそれぞれですね。

新入社員の入社後の心理変化は経営学の研究テーマですが、神戸大学MBAの鈴木竜太助教授が興味深い事例研究をされておられます。先生の研究によると、新入社員の組織に対する愛着心・執着心(組織コミットメントといいます)は「J字型カーブ」を描くといわれています。意気揚々と入社した新入社員は、現場のとのギャップ(リアリティ・ショック)を感じ、「こんなはずじゃなかったのに・・・」と落ち込むことが多いのですが、時間の経過と共にだんだんと気を取り直し、「就職活動で描いていたのは夢だったんだ。」と現状を受け入れ始めて気持ちを向上させていく。その気持ちの変化がJ字型のカーブを描いていることが観察されたのです。落ち込み方の程度や期間は個人差がありますが、最近ではすぐに転職する新人も増え、落ち込んでいる期間がだんだんと短くなってきているようです。(もっとも転職後にまたJ字型カーブにはまって再度落ち込んでいるかもしれませんが・・・。)

このJ字型カーブについては、無駄だから無くした方が良いという意見と、これがあるからこそ若者に忍耐力が付くという意見とがあります。どちらにも一理があるのですが、雇用の流動化を短気に成果を求められるこのご時世では、前者の方が有力になってきているようです。リアリティ・ショックを消し去るために、インターンシップ等を導入して現場を早く理解させる方策が有名なRJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)ですね。

さて採用担当者にとっては、新入社員が転職を考えるというのは他人事ではないのですが、意外とまだ大きな問題として業界ネタにはなっていないようです。それは中規模以上の企業では採用担当者と人事労務担当者が別になっているためで、つまり採用する部署と退職希望者対処をする部署が別々になっていることが多いからだと思われます。退職相談は極秘裏に行われるものですしね。本当に採用活動の評価をするならば、単年度で何人採れたという評価ではなく、採用した社員が3年後位にどんな成果を上げているかで評価されるべきなのですが、そこまでしっかりフォローしているところはまだ少数でしょう。(就職課の評価も、就職率ではなく卒業後の満足率なんかで測る考えが必要かもしれませんね。)

たまに採用担当者の耳には、新入社員からの「話が違うよ!」という声や、現場の社員から「何でこんな奴を採ったんだ!」という声が聞こえてきたりすることもあります。まだまだお付き合いははじまったばかりですから、お互い長い目で見ましょう。3年3割といいますが、石の上にも3年ともいうではないですか。

参考文献:「組織と個人 ~キャリアの発達と組織コミットメントの変化」鈴木竜太著(白桃書房)

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